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別れさせ屋を遂行したら、ひねくれ子爵に囲われました!?  作者: 竹間単
■第五章 再びの別れさせ屋

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●20


(1)


 クライン子爵から贈られたドレスに身を包むと、鏡の中には美しい大人の女性が立っていた。


「華やかなドレスも良いけれど、あたしってこういう落ち着いたデザインのドレスが似合うタイプだったのね。色も上品で良い感じだわ」


 採寸時の前のめり具合を考えるに、このドレスを贈ろうと提案したのは元子爵夫人だろう。元子爵夫人はとてもセンスの良い人のようだ。


「でもこのドレス、クライン子爵の目の色と同じ深い青色なのよね。ちょっと気恥ずかしいわ」


 こんなの、まるで恋人だと言っているかのようだ。

 いや、一緒にパーティーへ行く時点で、恋人だと思われるかもしれないけれど。


「でもパーティー会場に着いたら、なるべくクライン子爵とは距離を取らないと。そうじゃないとターゲットに接触できないわ」


 あたしは今日、マイヤーズ伯爵令嬢のために、ラッセル伯爵を誘惑しなくてはならない。

 クライン子爵が横にいたのでは任務の遂行が難しくなる。


「それにしても、ティアラも洗練されていて素敵だわ。こんなに品が良くて、ラッセル伯爵を誘惑できるかしら」


 今日の自分は、とても男性と遊ぶタイプには見えない。

 完全に完璧にお上品な淑女だ。この姿で誘惑が成功するのだろうか。


「ううん。こういう上品な令嬢が誘うからこそ、かえって燃え上がるのかもしれないわ」

 あたしは無理やりプラスに考えると、鏡に向かって妖艶な笑みを浮かべてみた。



「メイジー、クライン子爵がお迎えに来たわよ!」


「はーい、今行きまーす!」


 あたしはドレスの裾を踏まないように注意しながら、ゆっくりと屋敷から出た。

 すると屋敷の外には立派な馬車がとまっていた。


「ごきげんよう、クライン子爵」


「……どうも」


 馬車から出てきたクライン子爵に挨拶をすると、素っ気ない言葉が返ってきた。

 もはやいつものことなので、あたしは気にせずに馬車に乗り込んだ。




 クライン子爵と二人きりで馬車に揺られる。当然のようにクライン子爵は無言だ。

 こういうときはお世辞でも、ドレスが似合っているとか綺麗だとか言うものだろうに。

 何も言わないなんて、クライン子爵らしい。

 ……ああ。だんだんとクライン子爵に慣れてしまった自分がいる。


「あの、町祭りクイーンコンテストのことですけれど」


 クライン子爵が喋らないので、こちらから話題を振ってみる。


「平民がクイーンになるとさらわれる可能性が高いのだと聞きました。あの日のあたしは平民の装いをしていたので、クライン子爵はあたしのことを心配して家に帰してくださったのですよね?」


「その話をどこで?」


 あっ、これは藪蛇だったかもしれない。


「実はあのあと町に行きまして……貴族令嬢の装いで侍女を連れて行きましたので、ご心配には及びません」


「町には近付くなと言ったのに」


「『近付くな』ではなく『あまり近付くな』です。だから町に近付いたのは、あの一回だけです。一回だけなら、あまり近付くなという言葉を守っているでしょう?」


 あたしの言葉に、クライン子爵はこれ見よがしに溜息を吐いた。


「君は屁理屈を並べる子どもか」


「子どもは屁理屈を並べませんよ」


「ほら、また」


 クライン子爵がジトっとした目であたしを見る。

 ああもう。喧嘩がしたいわけじゃないのに。


「ええと、何が言いたいのかと言うと……ありがとうございます。あたしを気遣ってくれたことに感謝します」


 あたしが頭を下げると、クライン子爵は驚いたように目を丸くした。


「あたし、何か変なことを言いましたか?」


「まさか礼を言われるとは思っていなかった」


「あたしだって感謝したらお礼ぐらい言いますよ!? あたしのことを何だと思っているんですか!?」


「怪物」


「だから、なんで怪物なんですか!」


 ……って、あたしはクライン子爵と喧嘩がしたいわけではないのだった。

 落ち着け、落ち着け。ハイ、深呼吸。


「お礼と言うわけではないですけれど、良かったら今度手作りのお菓子を贈らさせてください。この前試しにリンゴジャムを使ったクッキーを作ってみたら上手に出来たので、是非」


「クッキーか。茶会のとき以来だな」


「もしかして甘いものはあまり好きではありませんか?」


 あたしが尋ねると、クライン子爵は首を横に振った。


「甘いものは割と好きだが、俺に甘いものを差し入れようとする人間はいない」


「ああ……」


 クライン子爵の顔を見て納得した。

 みんな、この眉間にしわの寄った強面のクライン子爵が甘いものを好むとは思わないのだろう。甘いものを差し入れるよりも葉巻やワインを渡した方が、彼が喜ぶと考える人は多そうだ。

 それならあたしは、なおさらクッキーを贈ろう。


「嫌いじゃないなら良かったです。それでは今度、クッキーを作って持って行きますね。店で売られているものと比べると劣るでしょうけれど」


「問題ない」


 問題ないと言いつつ、クライン子爵の眉間のしわが少し薄くなった気がする。

 こんな些細な変化に気付くなんて、あたしはクライン子爵マスターになってしまったのだろうか。



   *   *   *




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