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エバンズ男爵令嬢を二回目の茶会に呼んだ後、また彼女を茶会に呼んでもいいものか迷っていた。
好きでもない俺と茶会をするためだけに、屋敷まで馬車で移動をするのは、彼女にとっては苦痛かもしれない。
そんなとき、もうすぐ町祭りが開かれることを思い出した。
これはエバンズ男爵令嬢と会う口実になるかもしれない。
いや、どうだろう。
こんな俺と町祭りを歩いているところを誰かに見られでもしたら、エバンズ男爵令嬢は恥ずかしいと感じるかもしれない。
……そうだ。町祭りの視察という体で、一緒に祭りを巡ったら良いのではないだろうか。
それならたとえ俺と一緒にいるところを知り合いに見られたとしても、視察のために一緒にいた、と言い訳が出来るはずだ。
ちょうど俺は、祭りの視察をどうやって穏便に行なおうか考えていたところだ。エバンズ男爵令嬢が一緒に祭りに行ってくれるなら、この問題も解決する。
俺は急いでペンを握り、エバンズ男爵令嬢への手紙を書いた。
町祭り当日。
エバンズ男爵令嬢は、頼んだ通りに町祭りに来てくれた。
贈った平民の服を着てくれていたが、平民の服を着ていても彼女の美しさは隠しきれていない。
「うわあ! 大盛況ですね!」
賑わう町を見ながら、エバンズ男爵令嬢が明るい声を上げた。
無邪気に祭りに胸を高鳴らせているからか、それともドレスではない服に身を包んでいるからか、今日の彼女はいつもよりも若く見える。端的に言うと可愛らしい。
「祭りが好きなのか?」
「祭りが嫌いな人間なんていませんよ! だってこんなにみんなが笑顔なんですよ!?」
「俺は嫌いだ」
笑顔の楽しそうな人たちの輪に俺が混ざると、途端に暗くなってしまうから。
だから俺は、祭りが嫌いだ。
より正確に言うなら、祭りに参加する自分が嫌いだ。
楽しい場を滅茶苦茶にしてしまう自分が嫌いだ。
「でも、今日はどうしてあたしを誘ったのですか。普通に一人で視察をすれば良かったじゃないですか」
自分を巻き込まずに勝手に一人で視察をしろ、という意味だろうか。
しかしエバンズ男爵令嬢はもう祭りに来てしまっている。今から帰宅させるのは、それこそ失礼だ。
「俺が立ち寄ると、どの店員も緊張をするからだ。俺は普段の店の姿が見たいのだが」
「あたしと一緒にいるだけで、クライン子爵だと気付かれなくなりますかね?」
「男一人で歩いているよりは、男女で歩いている方が、祭りに溶け込めるはずだ」
上手く祭りに溶け込めたら、きっと俺は祭りを滅茶苦茶にはしないはずだ。
誰にも嫌な思いをさせずに、祭りの視察が遂行できる。
……と思っていたのだが、エバンズ男爵令嬢のあまりの溶け込み具合には、さすがに度肝を抜かれた。
「おじちゃん、串焼き二つ!」
エバンズ男爵令嬢は、慣れた様子で串焼きを手に取り、歩きながらその串焼きにかぶりついた。
「祭りと言えば食べ歩きですよ!」
「食べながら歩くのは、行儀が悪いのではないか?」
「祭りでは食べ歩きをしても行儀が悪いとはされないのですよ!」
エバンズ男爵令嬢はにっこりと笑うと、次の店を目指して進んで行った。
次に訪れたのはアクセサリーを売っている出店だ。出店の棚いっぱいに、質が良いとは言えないアクセサリーが並んでいる。
「このネックレス、綺麗だわ」
エバンズ男爵令嬢は綺麗だと言ったが、俺にはただのガラス玉にしか見えない。
「君は普段、もっと質の良いアクセサリーを身につけているだろう?」
「祭りでそういうことは言いっこなしです。こういうものは祭りの思い出として買うのですから」
「欲しいのか?」
「欲しいです」
エバンズ男爵令嬢に強請られたため、ガラス玉のネックレスの代金を払った。
ネックレスとは言っても玩具のようなもので、価格だって大したことは無い。それなのにエバンズ男爵令嬢は、嬉しそうにネックレスを太陽にかざしている。
「似合っていますか?」
「ガラス玉が似合うと言われて嬉しいのか?」
それは、安っぽい女性だという悪口にはならないだろうか。
「だから、こういうときは似合うって言うんですってば。祭りは雰囲気が何よりも大事なのですよ!?」
頬を膨らませたエバンズ男爵令嬢は、次の瞬間には笑顔になり、俺の手を掴んで別の店へと歩き出した。
「何を」
「祭りは人が多いので、はぐれないように手を繋ぐのですよ」
にっこりと笑ったエバンズ男爵令嬢は、俺にも笑顔を強要してきた。
「ほら、クライン子爵。スマイルですよ、スマイル。祭りでは笑顔でいないと」
「笑顔にはあまり慣れていない」
「笑顔に慣れていないって何ですか。無駄に身体を鍛えているのですから、ついでに顔の筋肉も鍛えてくださいよ」
「無駄にって……」
初めてエバンズ男爵令嬢に出会った日、俺は彼女に上裸を見られた。彼女はそのことを言っているのだろう。
……俺をハメてカーリー嬢との婚約破棄をさせたのだから、もっと悪びれてもいいとは思うが。
まあ俺は意図せずカーリー嬢を傷付けていたらしいから、遅かれ早かれ婚約の話は流れていたかもしれない。
何にせよ、もう終わったことか。
「ここは新鮮なフルーツジュースの店ですって。クライン子爵は何の果物が好きですか?」
俺がエバンズ男爵令嬢との出会いを思い出しているうちに、彼女は次の出店に興味を示していた。
「リンゴだな」
「そうなのですね。実はあたし、お菓子作りが得意で、アップルパイもよく作るのですよ」
「へえ」
菓子作りが好きとは、派手な見た目に反して可愛らしい趣味を持っているものだ。
いつかエバンズ男爵令嬢の作った菓子を食べてみたい。
「あーっ! あっちには輪投げがありますよ! やりましょうよ、輪投げ!」
エバンズ男爵令嬢が輪投げ屋を指差して、はしゃいだ声を上げた。次から次へ忙しい。




