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「そういえば、ご令嬢はどこから来たんですか? 実は昨日、この町では町祭りが行われてたんですよ」
「そうなの?」
どうやら女性店員は、あたしが町祭りクイーンに選ばれた人物だとは気付いていないようだ。
それならば、と初めて町祭りの話を聞いたかのような反応を返す。
「町祭りはとても賑わってたんですよ。店もですが、毎年盛り上がるのが町祭りクイーンコンテストなんです」
知っている。だって出場したから。
せっかく町祭りクイーンのことが話題に上ったので、もう少し話を聞いてみることにした。
「町祭りクイーンになると、たくさんの男性から声を掛けられるのよね?」
そのせいで昨日はえらい目に遭った。
「あれ。ご令嬢はクイーンコンテストを知ってるんですか? それとも、どこの町でもクイーンはそういう扱いなんでしょうか?」
あたしはこれには答えずに、曖昧に笑って話を続けた。
「クイーンに選ばれるのは嬉しいけれど、たくさんの男性に声を掛けられるのは困っちゃうわよね」
「あはは。ご令嬢のような方は平気ですよ。強引な男性でも、さすがに貴族相手に強くは行けませんから。ただクイーンになったのが平民だと……」
ここまで言った女性店員は、急に口ごもった。
「クイーンになったのが平民だと? 何なの?」
続きが気になったあたしが催促をすると、女性店員はやや声を潜めながら話の続きを口にした。
「平民がクイーンになると、さらわれる確率が高いんです。昨年のクイーンはコンテストからしばらくして姿を消しました」
「そうなの!?」
そのような危険なコンテストに出る価値はあるのだろうか。クイーンになってもまったく嬉しくない。むしろクイーンになんかなりたくない。
あたしの表情を見た女性店員は、苦笑しながら話を続けた。
「リスクはありますが、貴族に見初められる可能性もあるので、みんなそれを夢見てるんです。高リスク高リターンなのが、あのクイーンコンテストなんですよ」
「そうだったの……」
……って、待って!?
あたしは昨日、平民のフリをしていた。
もしかしてクライン子爵は、あたしがさらわれることを危惧したから、すぐにあたしを屋敷に帰したの?
そして道中にあたしがさらわれることがないよう、屋敷に入るまで見送ったの?
……というのは、さすがに考えすぎだろうか。
「お嬢様、またクライン子爵のお話をしているのですか?」
「クライン子爵の話はもう終わったわ。今はクイーンコンテストについて聞いていたところよ」
商品を見終わったらしい侍女が話に参入してきた。
「……って。またって、あたしはそんなにクライン子爵の話をしているかしら!?」
「いつもしているじゃないですか。ここ最近はクライン子爵の名前を聞かない日はありませんよ」
「それはお父様とお母様がクライン子爵の話題を振ってくるからで……」
あたしと侍女の会話を、女性店員がキラキラした目で見つめていた。
「もしかしてご令嬢は、クライン子爵の恋人なんですか!?」
「恋人ではないわ」
「ではかた想いですか!? こんなに綺麗なご令嬢を惚れさせるなんて、クライン子爵はさすがですね!」
どうしてそういう話になるのだ。
クライン子爵とあたしが男女だからって、すぐに恋人だの結婚だのって。
友人として仲が良い可能性だってあるのに。
……実際は全然仲良くないけれど!
「クライン子爵のことは、なんとも思っていないわ」
「お嬢様、さすがにそれは無理ですよ。だってクライン子爵の話をするときのお嬢様は、とっても楽しそうですから」
侍女があたしの顔を見ながら楽しそうに笑った。
そのあとも町を歩き回ったあたしたちは、夕暮れ前に屋敷へと帰宅した。
パーッと買い物をしたわけではないけれど、なんだか気持ちがスッキリした気がする。
これならクライン子爵への手紙も書けそうだ。
しかし、みんなは恋人だの結婚だのと騒いでいるけれど、あたしはあくまでもクライン子爵の知人として、お礼の手紙を書くだけだ。
そうだ。その前に、寝かせていた生地を成形してクッキーを焼いてしまおうか。
……と思っていたのに、あたしは昨日の祭り疲れに今日の買い物疲れが重なったためか、帰るなりぐっすりと眠ってしまった。
結局、手紙の執筆もクッキー作りも、翌日行なうことになった。
* * *
数日後、両親が大喜びでクライン子爵からの手紙を手渡してきた。
そして今回もまた、プレゼントが一緒に届いているらしい。
プレゼントは一旦置いておいて、まず手紙を開封すると、いつもと同じ几帳面な文字列とクライン子爵の署名があった。
肝心の手紙の内容は……。
「視察に協力したお礼とパーティーの誘い、か」
パーティーの誘いということは、プレゼントの中身はきっとドレスだろう。
そう思ってプレゼントを開けると、予想通り箱の中にはドレスが入っていた。
クライン子爵の目の色を思わせる深い青色の品の良いドレスは、あたしが自分では選ばないタイプのものだ。
自分では赤やオレンジの派手な色のドレスを選びがちだけれど、こういう色のドレスも上品で良いかもしれない。
「アクセサリーも届いているわね。こっちも銀をベースにした大人っぽいデザインだわ」
クライン子爵はこういう大人っぽい系統が好みなのだろうか。
「……って、クライン子爵の好みはどうでもいいのよ!」
思わず出てきた感想を自分自身で否定する。
「ドレスを贈られたら、パーティーに出席しないわけにはいかないわよね。この綺麗なドレスは絶対に着てみたいし」
このドレスを着てパーティーに出てほしいと頼まれたのに、パーティーに出ずにドレスだけを貰うわけにはいかない。
このドレスが欲しいなら、パーティーに出るしかないのだ。
「そうよ。ドレスが欲しいから、仕方なく……仕方なく、クライン子爵とパーティーに出るのよ!?」
誰に向けてか分からない言い訳をする。
「……あれ。でもこのパーティーって確か、マイヤーズ伯爵令嬢がラッセル伯爵にハニートラップを仕掛けて欲しいと言っていたパーティーよね?」
うーん……。
ダブルブッキングだけれど、上手いことやれば、ドレスが貰えてクライン子爵と会えて別れさせ屋の仕事も遂行できるかも?
誰かに相談をしていれば、それは無茶だとたしなめられただろうけれど、あたしはこの計画を誰にも告げずに実行することを決めてしまった。




