●12
「ついに結果発表です!」
全員のパフォーマンスが終わり、結果発表の時間がやってきた。
出場する前はクイーンになんてなれるわけがないと思っていたけれど、歌を歌ったときの好感触を思うと、クイーンも無い話ではないのかもしれない。
ぎゅっと目を瞑って発表の瞬間を待つ。
「今年の町祭りクイーンは……飛び入り参加のメイジーさんです!」
「あたし!?」
うわあ!! まさかとは思ったけれど、本当にクイーンになれるなんて!
喜びを分かち合おうと思ってクライン子爵を探すと、なんと彼は不機嫌そうな顔をしていた。
いや、なんでだよ!?
「クイーンに花かんむりが贈られます」
「わあ、可愛い」
当然クライン子爵が不機嫌なことなどお構いなく、スタッフの手であたしの頭には花かんむりが乗せられた。
なかなかどうして花かんむりも馬鹿にしたものじゃない。色とりどりの花で作られた花かんむりが頭に乗っていると思うだけで、楽しい気分になれる。
「似合いますかー?」
花かんむりを乗せてもらい、観客に問うと「似合ってるよ!」「最高!」「よっ、町祭りクイーン!」とすぐに返事が飛んできた。
「えへへ。嬉しいです」
「これにて、町祭りクイーンコンテストは終了です。出場者のみなさま、観客のみなさま、ご参加ありがとうございました!」
コンテストが終わると、すぐにあたしは大勢の観客に囲まれた。
「お姉さん、見ない顔だね。ここら辺の人じゃないのか?」
「遠くから来た人間がコンテストに出るのはまずかったですか?」
ドキリとして尋ねると、男性はケラケラと笑った。
「今のところそんなルールはないよ。お姉さんみたいな人が毎回クイーンを持って行っちゃうようなら、今後ルール改正があるかもしれないけどね」
「お姉さん、一人で祭りに来たの? 良かったら、このあと一緒に祭りを回らない?」
「あいつより僕と一緒に回ろうよ。きっと楽しいよ」
「いいや、お姉さんと回るのは僕だ」
いまだかつて一度にこんなにモテたことがあっただろうか。
あたしのために争わないで!と言ってもいい場面かもしれない。
「お誘いはとてもありがたいのですけれど、今日はあたし、連れがおりまして……」
あたしの周りに男性が押し寄せるせいで、遠くからステージを見ていたクライン子爵の姿が見えないほどだ。
もしかしてクライン子爵はこれを嫌がったのだろうか。
こうなってしまっては、視察どころではなくなるから。
「すみません。通してください。すみません」
人をかき分けようとするものの、なかなか前へ進めない。その間にもどんどん誘いの言葉が投げられる。
「ロ、ローガン様!」
たまらずにクライン子爵の名前を呼ぶ。クライン子爵と呼ばれては困るだろうから、ファーストネームで。
すると人をかき分けて一本の腕が伸びてきた。腕にはあたしとお揃いの紐飾りが巻かれている。
あたしがその腕を掴むと、腕が勢いよくあたしを引っ張った。
そうやって人混みから救出されたあたしは、すっぽりとクライン子爵の腕の中へと収まった。
「このまま移動するぞ。離れるなよ」
クライン子爵に密着したまま、道を進んでいく。
クライン子爵が怖いためか、これ以上あたしに言い寄ってくる男性はいなかった。
あたしに近付こうとすると、クライン子爵が鋭い眼光で睨むからだ。
クライン子爵にしがみつきながら歩き続けて人混みから解放されたあたしは、そのまま馬車に押し込まれた。
「え? 祭りの視察は?」
「もう終わりだ」
「いいのですか? だってまだ……」
「君がクイーンになったせいで状況が変わった」
確かにもう視察どころの騒ぎではない。
祭りに戻ったらまた男性たちに囲まれて身動きが取れなくなってしまうだろう。
「すみません。こうなるとは思っていなくて……」
「だから俺は気が進まなかったんだ」
「それならそうと教えてくだされば……いえ、勝手にコンテストに参加したあたしが悪いですね。すみません」
あたしは頭に乗せたままだった花かんむりを外すと、座席に置いた。
人混みを突っ切ったせいで、花かんむりは崩れてしまっている。
「君はもうあまりこの町には近付くな」
「……はい」
どうやらクライン子爵は、あたしが自分の治める領地に近付くことすら、お気に召さなくなってしまったらしい。
こんなに怒らせることになるとは思わなかった。
そのまま二人で揺られ続け、気まずい空気を漂わせた馬車が、あたしの屋敷に到着した。
「あれ。クライン子爵の屋敷へ行くと思っていたのですけれど。御者が間違えたのでしょうか」
「これでいいんだ」
「これでいい、ですか?」
町祭り会場からは断然クライン子爵の屋敷の方が近いのに、これではクライン子爵は無駄に長時間馬車に乗ることになってしまう。
「俺には君が屋敷に入るところを見届ける義務がある」
「そんな義務はないと思いますけれど。あたしだって大人なので、心配せずとも寄り道なんてしませんよ」
「……はあ」
これ見よがしに溜息を吐かれてしまった。
説得力皆無だと言いたいのだろう。
楽しそうだからと視察中にクイーンコンテストに参加してしまったあたしは、反論することが出来ない。
「あの、本日は祭りにお誘い頂きありがとうございました」
馬車を降りる際に、クライン子爵に礼を述べた。
大変なことになってしまったけれど、祭りを楽しんだことは嘘偽りのない事実だから。
あたしは深々と頭を下げてから、屋敷の中へと入った。
クライン子爵は本人の言葉通り、あたしが屋敷の中に入るまで、じっとあたしのことを見つめていた。




