観測者領域
黒い星の上。
戦いは続いていた。
轟音。
白い槍が空間を埋め尽くす。
世界法則そのものを兵器化した管理者の攻撃。
普通の存在なら存在ごと消滅する。
だが。
シオンは剣を振るった。
蒼黒い斬撃。
空間が裂ける。
数百本の槍が砕け散った。
爆風が黒い星全体を揺らす。
「本当に容赦ないな」
シオンは苦笑した。
AE-01は感情のない瞳で彼を見つめる。
『抵抗確認』
『排除工程継続』
相変わらずだ。
何度戦っても会話にならない。
その時だった。
「昔からそうだ」
後方から声が聞こえた。
シオンは振り返る。
黒い星の崖の上。
一人の男が立っていた。
白銀の髪。
蒼い瞳。
長い黒衣。
その姿はどこかシオンと似ている。
だが。
纏う空気はまるで違った。
長い年月を生きた者だけが持つ静かな重み。
男は戦場を眺めながら笑う。
「管理者は変わらない」
シオンは肩を竦めた。
「見てるだけかよ」
男は小さく笑う。
「今の主役はお前だ」
そう言って崖から飛び降りる。
ゆっくりと歩いてくる。
その姿にAE-01が反応した。
『個体識別』
『レイ確認』
『危険度SSS』
『監視対象』
シオンの視線が動く。
「相変わらず嫌われてるな」
レイは苦笑した。
「お互い様だろ」
そして。
空を見上げる。
遥か上空。
巨大な世界の壁。
観測者領域を閉じ込める最後の封印。
レイの瞳が細くなる。
「三年前」
静かな声だった。
「お前がここへ来た時」
「俺は驚いた」
シオンは黙る。
レイは続ける。
「何人もの黒星王を見てきた」
「何度も世界の終わりを見た」
「何度も希望が消える瞬間を見た」
風が吹く。
黒い星の砂が舞い上がる。
「だが」
レイはシオンを見る。
「お前だけは違った」
シオンは眉をひそめる。
「何がだ?」
レイは少し考える。
そして笑った。
「諦めが悪すぎる」
シオンが吹き出した。
「なんだそれ」
「褒めてる」
「聞こえねぇよ」
二人の間に少しだけ笑いが生まれる。
重苦しい観測者領域では珍しい光景だった。
だが。
レイの表情はすぐに真剣になる。
「シオン」
「なんだ」
「もし帰れる日が来たら」
静かな声。
「迷うな」
蒼い瞳が真っ直ぐシオンを見る。
「帰れ」
その言葉には重みがあった。
何万回も世界を見届けてきた男の本音。
シオンは少しだけ黙る。
そして。
遠くを見る。
青空の向こう。
ルナリアがいる世界。
仲間達がいる世界。
守りたかった未来。
「当たり前だ」
迷いはなかった。
「帰るに決まってる」
レイは笑った。
その笑顔はどこか嬉しそうだった。
まるで。
ようやく待ち続けた未来を見つけたかのように。
その瞬間――
ドクン。
シオンの胸が脈打った。
黒星晶の痕跡が蒼く輝く。
ルナリアの声が届くのは、
その直後だった――。




