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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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忘れられた英雄

記憶の海が静まり返っていた。


先程まで荒れ狂っていた波も。


吹き荒れていた光の嵐も。


全てが止まっている。


まるで世界そのものが息を止めたかのようだった。


誰も動けない。


クロノも。


アーカイヴも。


ルナリアですら。


ただ一つの存在を見つめていた。


海の中心。


黒い光の中から現れた人影。


黒髪。


蒼い瞳。


黒いロングコート。


その姿を。


ルナリアは忘れるはずがなかった。


忘れさせられていただけだった。


「シオン……」


震える声。


涙が零れる。


だが。


目の前にいるのは本物ではない。


世界が保存していた記録。


最後の戦いの記録。


英雄として存在したシオンの残滓。


それでも。


ルナリアには十分だった。


再び会えた。


ようやく。


ようやく。


その姿を見ることができた。


記録体シオンは静かに微笑む。


優しい笑顔。


懐かしい眼差し。


そして。


ゆっくりとルナリアへ手を伸ばした。


『泣くな』


その一言で。


ルナリアの涙が溢れ出した。


止まらない。


三年間。


理由も分からず苦しんでいた。


失ったことすら分からなかった。


だが今なら分かる。


自分は。


この人を失っていた。


『ずっと頑張ったな』


優しい声。


『一人で苦しかっただろ』


ルナリアは首を振る。


言葉にならない。


胸が苦しい。


声が出ない。


ただ涙だけが流れる。


記録体シオンは少しだけ寂しそうに笑った。


『ごめんな』


その言葉に。


ルナリアの心が揺れる。


違う。


謝るのは自分だ。


忘れてしまった。


思い出せなかった。


一番大切な人だったのに。


世界に負けてしまった。


その時だった。


アーカイヴが動く。


銀色の瞳が記録体シオンを見据える。


「黒星王記録体確認」


「危険度最大」


「世界法則修正を開始」


白い光が溢れ出す。


記録削除術式。


歴史消去権限。


今度こそ完全に消し去るために。


世界そのものが動き出す。


だが。


記録体シオンは振り返らない。


ルナリアを見たまま。


静かに微笑んでいた。


『聞いてくれ』


その言葉に。


クロノの表情が変わる。


まるで。


この瞬間を待っていたかのように。


記録体シオンは続ける。


『俺達は負けたんじゃない』


静かな声。


だが。


世界中へ響くような力があった。


『世界は救われた』


『未来も残った』


『みんなも生きてる』


ルナリアの瞳から涙が零れる。


それは。


あの日。


最後まで聞けなかった言葉だった。


『だから』


シオンは笑う。


いつものように。


優しく。


真っ直ぐに。


『今度は幸せになれ』


世界が震える。


忘れられた英雄。


誰にも知られないまま消えた英雄。


その願いは最後まで変わらなかった。


誰かを守ること。


誰かの未来を残すこと。


ただそれだけだった。


その瞬間。


ルナリアの中で何かが弾ける。


記憶。


感情。


約束。


全てが繋がる。


月の花畑。


旅の記憶。


仲間達。


笑顔。


戦い。


別れ。


そして。


最後の瞬間。


消えていくシオンへ伸ばした手。


「嫌だ……」


震える声。


「もう二度と……」


涙が止まらない。


「いなくならないで……」


記録体シオンは優しく目を細めた。


だが。


その身体が少しずつ崩れ始めていた。


白い光。


管理者の削除権限。


存在そのものが消されようとしている。


アーカイヴが宣告する。


「黒星王記録体削除開始」


「歴史修正を実行」


世界が揺れる。


記録の海が悲鳴を上げる。


クロノが叫ぶ。


「まずい!」


だが。


もう遅い。


白い光がシオンを包み込む。


消える。


再び。


歴史から。


記録から。


完全に。


その時だった。


遥か世界の外側。


観測者領域。


本物のシオンが顔を上げる。


胸の奥が燃えている。


聞こえた。


全部。


ルナリアの声も。


自分の記録も。


そして。


今まさに再び消されようとしていることも。


蒼い瞳が輝く。


黒い星全体が激しく脈動する。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


世界そのものが震える。


レイが目を見開く。


「まさか……」


次の瞬間。


観測者領域の空が砕けた。


バキィィィィィィィン!!


空間崩壊。


次元断裂。


世界の壁が裂ける。


そして。


本物の黒星王が。


ついに動き出した。

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