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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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記憶の継承者

世界が震えていた。


誰にも理由は分からない。


王都の人々も。


各国の王達も。


研究者達も。


誰一人として異変の正体を知らない。


だが。


胸の奥がざわつく。


忘れていた何かが蘇りそうになる。


そんな奇妙な感覚だけが世界中へ広がっていた。


その中心。


記憶の海。


銀色の光が海全体を包み込んでいた。


月光のような優しい輝き。


だが。


その光は管理者達にとって最悪の異常だった。


アーカイヴの瞳が揺れる。


「記録復元率上昇」


「四十七パーセント」


「五十三パーセント」


「六十一パーセント」


数字が上がる。


止まらない。


本来なら有り得ない現象。


一度削除された記録は戻らない。


それが世界の法則だった。


だが。


今その法則が崩れている。


原因は一人。


ルナリア・セレス。


月の継承者。


忘却を超えて記憶へ辿り着いた少女。


彼女の中で何かが目覚め始めていた。


「シオン……」


震える声。


だが。


もう迷いはない。


その名前を知っている。


世界が忘れても。


歴史が消しても。


自分だけは覚えている。


その瞬間。


銀色の光が爆発した。


ドォォォォォォォォォン!!


海が揺れる。


空が震える。


無数の記録が浮かび上がる。


忘れられた歴史。


消された英雄。


隠された真実。


その全てがルナリアの周囲を巡り始めた。


クロノは息を呑む。


「まさか……」


予想以上だった。


ここまで早く覚醒するとは思っていなかった。


ルナリアの背後。


銀色の光が翼のように広がる。


月光で出来た羽衣。


神秘的な輝き。


かつて終焉の時代。


世界を支えた月の継承者だけが持つ力。


失われたはずの力。


それが戻り始めていた。


アーカイヴが一歩前へ出る。


初めて明確な敵意を見せる。


「危険度更新」


「月の継承者覚醒確認」


「世界固定率低下」


「緊急修正を実行」


白い門がさらに開く。


轟音。


無数の白い光。


世界編集術式。


文明すら消滅させる力。


それがルナリアへ向かう。


だが。


ルナリアは逃げなかった。


瞳を閉じる。


胸へ手を当てる。


そして。


静かに呟いた。


「信じてる」


誰へ向けた言葉なのか。


本人が一番分かっていた。


「あなたは帰ってくる」


その瞬間だった。


遥か世界の外側。


観測者領域。


シオンの胸元が激しく脈動した。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


聞こえる。


届いている。


ルナリアの想いが。


シオンは静かに目を開く。


蒼い瞳が輝く。


黒い星全体が共鳴を始める。


レイは小さく笑った。


「ようやく繋がったな」


シオンは拳を握る。


長かった。


本当に長かった。


忘れられ。


消され。


存在すら否定され。


それでも諦めなかった。


だから。


ここで終わるわけにはいかない。


「帰る」


小さな声。


だが。


誰よりも強い意志があった。


その瞬間。


観測者領域全体へ黒い光が広がる。


蒼黒い粒子。


黒星王の力。


そして。


黒い星の奥底から。


巨大な扉が現れた。


レイの表情が変わる。


初めて真剣な顔になる。


「来るぞ」


シオンも気付く。


扉の向こうから何かが近付いている。


圧倒的な存在感。


管理者とは違う。


星喰いとも違う。


もっと古い。


もっと危険な存在。


そして。


記憶の海でも異変が起きる。


海の中心。


最も深い場所。


誰も触れたことのない領域。


そこから黒い光が浮上し始めた。


クロノの顔色が変わる。


「そんな……」


信じられないものを見る目。


ルナリアも振り返る。


海の底。


暗闇の中。


ゆっくりと現れる人影。


黒髪。


蒼い瞳。


黒いロングコート。


その姿を見た瞬間。


ルナリアの呼吸が止まる。


知っている。


忘れるはずがない。


魂が叫んでいた。


「シオン……!」


だが。


違う。


これは本人ではない。


記録だ。


世界が保存していた英雄の記録。


最後の戦いの記録。


世界を救った瞬間の記録。


それが完全な形で姿を現したのだ。


記憶の海全体が震える。


アーカイヴが初めて後退する。


「黒星王記録体確認」


「危険度測定不能」


管理者が恐れていたもの。


それはシオン本人ではない。


英雄の存在が世界へ戻ること。


忘却そのものが崩れることだった。


そして。


記録体シオンがゆっくりと目を開く。


蒼い瞳。


優しい眼差し。


その視線は真っ直ぐルナリアへ向いていた。


そして。


静かに微笑む。


まるであの日と同じように。


『待たせたな』


その一言と共に。


失われた歴史が再び動き始めた。

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