表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/164

世界の外側の敵

世界が、静かに軋み始めていた。


その異変に気付く者はいない。


王都セレスティアでは、人々が穏やかな夜を過ごしている。


酒場では陽気な笑い声が響き、旅人たちは今日の出来事を語り合う。


恋人たちは寄り添い、子どもたちは暖かな家で眠りにつく。


誰もが、明日も同じ日常が続くと信じていた。


しかし、その平和の裏側では。


世界そのものが悲鳴を上げていた。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


巨大な鼓動が、世界の深層で鳴り響く。


誰の耳にも届かない。


それでも確かに存在する鼓動。


世界樹アストレア。


星晶の流れ。


大地を巡る生命。


そのすべてが、まるで一つの心臓のように脈打っていた。


王都上空。


雲より遥か高く。


誰にも見ることのできない高度で、銀色の光が静かに集まり始める。


最初は星のように小さかった。


だが、その光は次第に膨れ上がり、一つの形を作り始める。


巨大な瞳。


空全体を覆うほど巨大な存在。


それは、世界の外側から静かにこちらを見つめていた。


その頃――


観測者領域。


シオンは膝をついたまま荒い息を繰り返していた。


「はぁ……っ、はぁ……っ……!」


頭の中へ流れ込む膨大な記憶。


滅んだ世界。


救えなかった仲間。


終わりを迎えた文明。


何万という敗北。


そして、そのすべてで黒星王たちは最後まで剣を握り続けていた。


「ぐっ……!」


頭を押さえる。


普通の人間なら、とっくに精神が壊れている。


それでもシオンは耐えていた。


流れ込む記憶の中には、失いたくないものがあったからだ。


ルナリア。


アリア。


ノクス。


ガルド。


レオニクス。


世界が何度壊れても。


歴史が何度書き換えられても。


彼らだけは、何度でも立ち上がっていた。


「……だから。」


シオンはゆっくり拳を握る。


「俺も諦めない。」


その瞬間だった。


黒い粒子が舞い上がる。


空間が揺らぎ、一人の男が静かに姿を現した。


レイ。


最初の黒星王。


その姿は実体ではない。


記憶の海から投影された残留記録。


それでも、その存在感は圧倒的だった。


レイは静かにシオンを見つめる。


その眼差しはどこか優しい。


「思ったより早かったな。」


シオンは肩で息をしながら問い返す。


「何がだ。」


レイは答えず、空を見上げた。


観測者領域のさらに外側。


誰も到達したことのない場所。


「奴が目覚めた。」


その一言で空気が凍りつく。


シオンは直感する。


星喰いではない。


管理者でもない。


もっと根源的な存在だと。


レイは静かに続ける。


「シオン。」


「お前たちが戦ってきた敵は星喰いだった。」


「……ああ。」


「だが。」


レイはゆっくり振り返る。


蒼い瞳が真っ直ぐシオンを射抜いた。


「星喰いは終焉じゃない。」


シオンが眉をひそめる。


「どういう意味だ。」


「星喰いは兵器だ。」


世界が静まり返る。


シオンは言葉を失った。


「兵器……?」


「そうだ。」


レイは静かに頷く。


「作られた存在だ。」


「誰かによって。」


「……誰が。」


レイは小さく息を吐く。


「それを知る者は、もうほとんど残っていない。」


「管理者も知らない。」


「ゼロも知らなかった。」


「知っているのは……俺だけだ。」


そう言うと、レイはゆっくり空を指差した。


「見るんだ。」


次の瞬間。


観測者領域そのものが裂けた。


バキィィィィィン!!


世界法則が悲鳴を上げる。


次元が裂ける。


空間そのものが崩壊していく。


その裂け目の奥から、一つの巨大な存在が姿を現した。


真紅の瞳。


世界より巨大な眼球。


星喰いすら小さく見えるほどの圧倒的な存在。


ただ存在しているだけで、現実そのものが歪み始める。


シオンの身体が震えた。


本能が叫ぶ。


逃げろ。


見てはいけない。


関わってはいけない。


それでも目を逸らすことはできなかった。


巨大な瞳は、ゆっくりと動く。


そして。


真っ直ぐシオンだけを見つめた。


『黒星王を確認。』


感情のない声。


管理者の声とも違う。


もっと冷たい。


もっと古い。


『観測誤差を確認。』


『記録異常を確認。』


『世界再編集の障害を確認。』


レイの表情が変わる。


「来るぞ。」


「何が。」


「本物の敵だ。」


その瞬間。


巨大な瞳が完全に開いた。


ドクン。


世界全体へ衝撃が走る。


王都セレスティア。


世界樹アストレア。


ヴェリス帝国。


イグニス王国。


空に浮かぶすべての都市。


世界中の人々が、理由もなく夜空を見上げた。


誰にも何も見えない。


それでも胸だけが震える。


本能だけが理解していた。


終わりが近付いていることを。


同じ頃。


王立歴史研究院。


ルナリアは窓辺に立ち尽くしていた。


胸を押さえる。


鼓動が速い。


涙が止まらない。


「どうして……。」


誰かが苦しんでいる。


誰かが戦っている。


その人を助けなければならない。


そんな想いだけが胸いっぱいに広がっていく。


「私は……。」


震える唇が動く。


「あなたを……。」


自然と名前が零れ落ちた。


「シオン。」


その瞬間。


世界が震えた。


忘却の封印が軋む。


記録が揺れる。


世界が忘れようとしていた名前が、再び存在を取り戻し始める。


観測者領域。


シオンはゆっくりと顔を上げた。


「……聞こえた。」


確かに。


彼女の声だった。


レイは静かに微笑む。


「やはり、お前たちは繋がっている。」


「魂は、世界の法則では断ち切れない。」


シオンは拳を握り締める。


「ルナリア……。」


レイは再び空を見上げた。


巨大な赤い瞳の奥で、何かが静かに蠢いている。


「あれが世界の外側にいる本当の敵。」


「星喰いを生み出し。」


「管理者を操り。」


「何万もの世界を書き換えてきた存在だ。」


シオンは静かに剣を握る。


「倒せるのか。」


レイは小さく笑った。


「分からない。」


「だから俺たちは負け続けた。」


「だが――。」


蒼い瞳が力強く輝く。


「今回は違う。」


「今度は、お前がいる。」


その瞬間。


巨大な赤い瞳の奥で、人影がゆっくりと立ち上がった。


まだ誰も見たことのない姿。


まだ誰も名を知らない存在。


世界最初の敵。


すべての終焉の始まり。


その正体が、ついに目覚めようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ