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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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最初の罪

記憶の海最深部。


黒い扉の前には、張りつめた静寂だけが広がっていた。


風は吹かない。


音もない。


時間さえ止まったような世界。


それでも、扉の向こう側からは確かな気配だけが伝わってくる。


まるで、世界そのものが息を潜めているようだった。


白髪の少年は、静かに扉を見上げる。


赤い瞳に迷いはなかった。


長い年月をかけて探し続けた答えが、この先にある。


それを知っているからだ。


やがて、重く低い声が響いた。


『観測者よ。』


男とも女とも判別できない、不思議な響きだった。


耳ではなく、魂へ直接語りかけてくるような声。


少年は小さく息を吐く。


「覚悟なら、とっくに決めている。」


『……そうか。』


その一言と同時に、扉を縛っていた無数の鎖が震え始めた。


ガシャン――。


一本。


また一本。


錆びついた音を立てながら、封印がゆっくりと外れていく。


何万年もの時を閉ざしてきた鎖。


管理者ですら、決して触れようとしなかった禁忌。


それが今、静かに終わりを迎えようとしていた。


少年は無意識に拳を握る。


「ようやく……。」


長かった。


あまりにも長い時間だった。


何度世界が生まれ変わっても、この扉だけは決して開かなかった。


それが今、自分の目の前で開こうとしている。


『ならば見届けよ。』


声が響く。


『これが、すべての始まりだ。』


ゆっくりと扉が開く。


眩い光が溢れ出した。


少年は思わず目を細める。


その瞬間、膨大な記憶が一気に流れ込んできた。


世界がまだ若かった頃。


空は今よりも広く。


星々は今よりも近かった。


人類は存在しない。


星晶も存在しない。


それでも、高度な文明だけは確かに存在していた。


空を埋め尽くす浮遊都市。


星々を結ぶ巨大な航路。


銀色の機械が空を舞い、人々は神の領域へ届こうとしていた。


その文明の中心で、一人の青年が空を見上げている。


白銀の髪。


蒼い瞳。


白と黒を基調とした外套。


少年は息を呑んだ。


「……ゼロ。」


最初の観測者。


世界を見守り続けた男。


その若き日の姿だった。


映像の中のゼロは笑っていた。


仲間たちと語り合い。


未来を夢見て。


誰もが明日を信じていた。


世界は平和だった。


永遠に続くと、誰もが信じていた。


だが。


その平和は、あまりにも唐突に終わる。


空が裂けた。


黒い亀裂。


世界全体を覆うほど巨大な裂け目。


そこから現れたのは、一つの瞳だった。


巨大な黒い瞳。


宇宙そのものを飲み込むほど巨大な存在。


それを見上げた瞬間、人々は理解した。


「あれは……。」


逃げられない。


勝てない。


理解しただけで、精神が壊れていく。


都市が落ちる。


空が燃える。


文明が崩壊する。


人々は泣き叫びながら消えていった。


終焉。


まさに、世界の終わりだった。


少年は唇を噛む。


「これが……最初の星喰い。」


知っていたはずだった。


だが、実際の光景は想像を遥かに超えていた。


映像は続く。


滅びゆく世界の中で、ゼロたちは最後の希望を探していた。


「このままでは終わる。」


「世界そのものが消える。」


「ならば……やり直すしかない。」


誰かが言った。


世界を一度終わらせる。


そして再構築する。


管理者を創り。


歴史を保存し。


終焉を繰り返さない世界を築く。


それが彼らの最後の希望だった。


しかし、その計画には決定的な欠陥があった。


世界を書き換えるほどの力が足りない。


必要なのは、世界そのものを動かせるほどの莫大なエネルギー。


そして彼らは見つけてしまう。


禁忌を。


黒い光。


星喰いから零れ落ちた終焉の欠片。


絶対に触れてはならない力。


それが――黒星晶だった。


少年の呼吸が止まる。


「そんな……。」


今まで信じてきた歴史が、音を立てて崩れていく。


黒星晶は救世の力ではなかった。


最初から希望ではなかった。


星喰いそのものから生まれた力。


終焉の残骸だったのだ。


『これが最初の罪。』


声が静かに響く。


『人は世界を救うため、終焉を受け入れた。』


『その瞬間から、この世界は永遠に繰り返される運命となった。』


少年は何も言えなかった。


だから管理者が生まれた。


だから黒星王が生まれた。


だから世界は何度も滅び、何度も再生する。


すべては、この選択から始まっていた。


しかし、映像はまだ終わらない。


さらに深い場所。


誰にも知られていない最後の記録が映し出される。


ゼロが誰かと向き合っていた。


相手の顔は黒く塗り潰されている。


世界そのものが、その存在を隠している。


それでも少年は気付いた。


黒髪。


蒼い瞳。


立ち姿。


雰囲気。


その姿は、シオン・アルヴィスとあまりにも酷似していた。


「いや……。」


少年は首を振る。


「そんなはずがない。」


時間が合わない。


世界も違う。


存在できるはずがない。


だが映像の中で、ゼロは確かにその人物へ語りかけていた。


『最後の希望を託す。』


黒髪の人物は静かに頷く。


次の瞬間、黒い光が世界を包み込んだ。


映像はそこで途切れる。


少年は呆然と立ち尽くした。


「……シオンは、一体何者なんだ。」


答えはない。


だが、その問いへ応えるように、記憶の海全体が激しく脈動する。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


巨大な鼓動が世界を揺らした。


同じ頃。


世界の外側。


観測者領域。


管理者の軍勢と対峙していたシオンの身体が、突然光を放った。


黒星晶の紋様が蒼黒く輝き始める。


「ぐっ……!」


頭の中へ、知らない記憶が流れ込んでくる。


見たことのない空。


知らない世界。


白銀の髪の青年。


そして――ゼロ。


「何だ……これは……。」


頭を押さえる。


呼吸が乱れる。


記憶ではない。


もっと古い何か。


魂そのものへ刻まれた記録だった。


「俺は……。」


その時だった。


記憶の海最深部。


黒い扉の奥から、新たな声が響く。


先ほどとは違う。


もっと近く。


もっと温かく。


どこか懐かしい声だった。


『ようやく、ここまで来たな。』


白髪の少年がゆっくりと顔を上げる。


その声を知っている。


会ったことなどない。


それなのに、魂だけは確かに覚えていた。


闇の奥で、一つの影が静かに立ち上がる。


『ここから先は――俺が話そう。』


その瞬間。


世界最古の封印が、本当の意味で解き放たれようとしていた。

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