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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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世界の外側

世界の外側。


そこは空でもなければ、大地でもなかった。


時間という概念さえ曖昧で、生と死の境界すら存在しない領域。


音もない。


風もない。


光も闇も、本来なら存在しないはずの世界。


ただ、永遠にも思える静寂だけが広がっていた。


その静寂の中心。


巨大な黒い天体がゆっくりと脈打っている。


観測者領域。


世界の記録が集積され、幾度となく繰り返された歴史が眠る場所。


その黒い星の表面には無数の亀裂が走っていた。


一本一本が世界へ繋がる裂け目。


滅びた文明。


救われた世界。


消えた英雄。


忘れ去られた記憶。


すべてが、この星へ刻まれている。


その荒廃した大地を、一人の少年が静かに歩いていた。


シオン・アルヴィス。


三年前、世界を救い、その代償として世界から存在を消された英雄。


黒いコートは無数の戦いで裂け、乾いた血が袖口へこびりついている。


右腕には黒星晶の紋様が淡く浮かび、鼓動に合わせるように脈打っていた。


シオンは足を止める。


ゆっくりと目を閉じた。


「……今日も来るか。」


静かな独り言。


返事はない。


当然だった。


ここには誰もいない。


三年間。


誰も笑わない。


誰も怒らない。


誰も名前を呼ばない。


聞こえるのは、自分の呼吸だけだった。


「……長いな。」


苦笑する。


「三年か。」


世界を救った日から、もう三年。


ルナリアも。


ガルドも。


レオニクスも。


アリアも。


誰も自分を覚えていない。


それでも、不思議と恨もうとは思わなかった。


「仕方ないよな。」


空を見上げる。


「俺が選んだことだ。」


その時だった。


ゴォォォォォ……


静寂が破られる。


白い亀裂が空間へ無数に走った。


シオンは静かに目を開く。


「……始まった。」


次の瞬間。


空一面を純白の槍が埋め尽くした。


一本でも都市を消滅させるほどの質量を持つ処刑槍。


百。


千。


万。


数える意味すらない。


視界の果てまで白い槍が並んでいる。


「対象確認。」


感情のない声が響く。


「世界法則違反者。」


「黒星王シオン・アルヴィス。」


「再編集を開始する。」


直後。


数千本の槍が一斉に放たれた。


轟音。


空間そのものが悲鳴を上げる。


シオンは地面を蹴った。


黒い残像だけがその場へ残る。


一本。


五本。


十本。


槍の隙間を紙一重で駆け抜ける。


背後では槍が炸裂し、世界の記録が白い粒子となって砕け散っていく。


「まだまだ……!」


笑う。


その笑みは三年前と何も変わらなかった。


だが。


一本の槍が肩を貫く。


鮮血が舞う。


「ぐっ……!」


続けざまに二本目。


脇腹を裂く。


三本目。


左脚へ突き刺さる。


膝が揺れる。


身体が悲鳴を上げる。


それでも倒れない。


「こんなもんで……。」


槍を引き抜く。


血が溢れる。


「終われるかよ。」


その視線の先。


純白の神衣を纏った一体が静かに立っていた。


再編集執行官AE-01。


銀色の瞳。


表情のない顔。


人間を模しているだけの存在。


管理者すら管理する世界編集機構直属個体。


「削除対象。」


「黒星王。」


「存在継続は重大なエラー。」


「修正を開始する。」


シオンは肩で息をしながら笑った。


「三年間、それしか言えないのか。」


当然、返事はない。


AE-01には感情が存在しない。


命令だけが存在理由だった。


「少しくらい会話しようぜ。」


シオンは肩を竦める。


「世界を救った礼とかさ。」


沈黙。


「……まあ、期待した俺が悪いか。」


AE-01は静かに右手を掲げた。


その瞬間。


黒い星の表面へ無数の白い扉が現れる。


一枚。


十枚。


百枚。


千枚。


静かに開く扉。


その向こうから現れるのは、すべて同じ姿だった。


同じ銀色の瞳。


同じ無表情。


同じ純白の神衣。


管理者たち。


無数の個体が整列していく。


その光景は軍勢ではない。


巨大な一つの機械だった。


世界を修正するためだけに存在する装置。


普通なら絶望する。


逃げ出す。


諦める。


だが。


シオンだけは違った。


ゆっくり拳を握る。


黒星晶が淡く輝く。


黒い粒子が周囲へ舞い始めた。


「だから何だ。」


静かな声。


「何度でも言う。」


蒼い瞳が真っ直ぐ前を向く。


「俺は帰る。」


その一言だけは決して揺らがない。


「約束したんだ。」


その瞬間。


脳裏へ浮かぶ。


銀色の髪。


満月。


白い花畑。


優しい笑顔。


ルナリア。


自然と口元が緩んだ。


「お前なら……。」


小さく笑う。


「きっと思い出してくれる。」


その言葉を口にした瞬間だった。


ドクン。


胸の奥で黒星晶が激しく脈打つ。


身体中へ熱が駆け巡る。


「……これは。」


AE-01の瞳が微かに揺れた。


「異常反応確認。」


「世界内より記録同期。」


「対象……ルナリア・セレス。」


シオンが顔を上げる。


遥か彼方。


世界の内側から銀色の光が伸びてくる。


月のように優しく。


温かく。


涙が出そうになるほど懐かしい光。


「……ルナリア。」


思わずその名を呼ぶ。


その光は黒い星へ届き、観測者領域全体を震わせた。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


巨大な鼓動。


世界そのものが共鳴している。


AE-01が初めて一歩後退した。


「想定外。」


「観測領域共鳴。」


「原因解析不能。」


シオンは拳を握る。


「届いたんだな……。」


小さく笑う。


「ありがとう。」


そのさらに奥深く。


誰一人足を踏み入れたことのない最古の封印領域。


巨大な石門が静かに軋み始める。


管理者すら閲覧を禁じられた最古の記録。


第一観測世界。


すべての始まり。


世界誕生以前の真実。


その封印が、ゆっくりと解かれ始めていた。


そして同じ頃。


王都セレスティア地下最深部。


誰にも存在を知られていない封印区画。


一人の白髪の少年が静かに石碑を見つめていた。


深紅の瞳が妖しく輝く。


石碑へ浮かび上がる古代文字を見つめ、彼は静かに笑う。


「ようやく……ここまで来たか。」


指先で石碑をなぞる。


「待っていたよ。」


優しく。


どこか懐かしむように。


「シオン。」


その名前を呼ぶ声には、長い年月を越えた確信が宿っていた。


「今度こそ、この世界を本当の意味で再生しよう。」


その瞬間。


止まっていた世界の歯車は、誰にも気づかれることなく再びゆっくりと回り始めた。

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