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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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「世界の外側」

静寂だった。


音はない。


風もない。


光さえ存在しない。


そこは、もはや「世界」と呼べる場所ではなかった。


時間という概念すら曖昧な領域。


生者も死者も辿り着くことのできない場所。


世界の外側。


かつて世界を支えた観測者領域。


その残骸だけが、果てしない白い荒野となって広がっていた。


砕けた神殿。


崩れ落ちた記録塔。


空中を漂う無数の光の粒子。


それらは世界から失われた記憶であり、歴史であり、誰にも思い出されることのない記録だった。


その中心に、一人の少年が静かに座っている。


黒髪。


蒼い瞳。


少しだけ大人びた面影。


シオン・アルヴィス。


三年前、世界を救い、その代償として世界そのものから消えた英雄だった。


シオンは静かに目を閉じ、一つの光へ手を伸ばす。


指先が触れた瞬間、光は映像へと変わった。


王都セレスティア。


王立歴史研究院。


窓辺に立つルナリアの姿。


何かを探すように空を見上げる横顔。


悲しそうで、それでいてどこか懐かしそうな表情。


その姿を見つめながら、シオンは小さく微笑んだ。


「相変わらずだな。」


優しい声だった。


もちろん、その声は届かない。


今の彼は世界の外側にいる。


誰にも見えない。


誰にも触れられない。


誰にも存在を認識されない。


それが、世界を救った代償だった。


存在の消失。


記録の消失。


記憶の消失。


シオンという人間そのものが、世界から切り離されてしまった。


三年前。


黒星晶が砕けた、あの最後の瞬間。


本来なら、彼は完全に消滅するはずだった。


だが、そうはならなかった。


最初の観測者が最後に残した権限。


その力によって、シオンの魂だけが観測者領域へ保護されたのだ。


だから彼は生きている。


だが、生きているだけだった。


元の世界へ帰ることはできない。


仲間の元へも。


ルナリアの元へも。


二度と戻れない。


それが現実だった。


シオンはゆっくり立ち上がる。


白い荒野を見渡す。


果ては見えない。


ここへ来て三年。


出口を探し続けた。


崩れた神殿を調べ。


記録の海を巡り。


観測者領域の仕組みを何度も解析した。


それでも答えは見つからない。


「今日も……駄目か。」


小さく息を吐く。


諦めたわけではない。


それでも、三年という時間は長かった。


「ルナリア……。」


自然と名前が漏れる。


「みんな、元気にしてるのか。」


返事はない。


静寂だけが広がる。


その時だった。


ドクン――。


空間そのものが脈打った。


「……!」


シオンの表情が変わる。


今まで感じたことのない異変だった。


観測者領域全体が震えている。


白い大地に一本の亀裂が走る。


バキッ。


乾いた音が響く。


さらに一本。


また一本。


無数の亀裂が大地を走り始める。


「何が起きてる……?」


嫌な予感しかしなかった。


星喰いと対峙した時。


ゼノアと最後の戦いを繰り広げた時。


世界が崩壊したあの日。


それらすべてを超える、本能的な恐怖。


シオンは慎重に亀裂へ近づく。


ゆっくり覗き込む。


その瞬間、背筋が凍った。


そこには何もなかった。


闇ですらない。


光もない。


存在という概念そのものが失われた「無」。


その無の奥で、何かが動いた。


巨大だった。


星喰いなど比較にならない。


世界そのものが小さく見えるほどの存在。


管理者たちよりも遥かに古く。


遥かに巨大で。


理解することすら許されない。


見た瞬間、観測者領域全体が悲鳴を上げた。


ゴォォォォォォォ――。


白い荒野が崩れ始める。


漂っていた記録の光が激しく乱れた。


「まさか……。」


シオンが息を呑む。


その時だった。


どこからともなく声が響いた。


『観測継続。』


感情のない声。


機械のような無機質な響き。


「……誰だ。」


シオンは辺りを見回す。


返事はない。


だが声だけが続く。


『エラー発生。』


『黒星王痕跡確認。』


その言葉にシオンの瞳が揺れた。


「黒星王……。」


さらに声が響く。


『世界ループ残滓確認。』


シオンは息を呑む。


世界ループ。


その真実を知る者はほとんど存在しない。


最初の観測者。


ゼノア。


ノクス。


そして、自分だけ。


「どうして、その言葉を……。」


答える者はいない。


代わりに、声は静かに告げた。


『修正を開始する。』


次の瞬間。


無の空間から一本の腕が現れた。


白い。


異様なほど白い腕。


形は人間と同じ。


だが生命の気配は一切感じられない。


冷たく。


感情もなく。


ただ世界そのものを書き換えるためだけに存在するような腕だった。


その腕がゆっくりと観測者領域へ伸びてくる。


まるで世界そのものを掴み取ろうとするように。


「まずい……!」


シオンは反射的に後退する。


星喰いとは違う。


これは災厄ではない。


終焉でもない。


もっと上位の存在。


世界そのものを管理し、書き換える側の存在だった。


その時だった。


白い荒野の彼方で蒼い光が灯る。


「……!」


シオンは振り返る。


崩壊した観測者神殿。


三年間、一度も反応しなかった祭壇。


その中央に、一冊の本が静かに浮かんでいた。


蒼く輝く記録書。


観測者の書。


世界のすべてを記録する最後の遺産。


「今になって……?」


シオンはゆっくり近づく。


なぜ今なのか。


答えは分からない。


だが確かなことが一つだけあった。


運命が再び動き始めている。


三年前に終わったはずの戦いは、まだ終わっていなかった。


そして世界の外側に潜む何かが、確実にこちらへ近づいている。


忘れられた英雄は、まだ知らない。


これから始まる戦いでは、星喰いですら序章に過ぎなかったことを。


本当の世界の敵が、今まさに目覚めようとしていることを。

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