表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/110

「誰も知らない英雄」

「ルナリア!!」


シオンの叫びが響いた。


崩壊する天空神殿。


砕ける世界核。


終焉へ向かう世界。


その全ての中で。


少女は静かに歩いていた。


振り返らない。


立ち止まらない。


ただ前へ。


世界核へ向かって。


月光に包まれながら。


シオンは走る。


全力で。


傷だらけの身体を引きずりながら。


どれだけ傷付いても構わなかった。


どれだけ血を流しても構わなかった。


ただ。


間に合ってほしかった。


ルナリアだけは。


失いたくなかった。


その時だった。


少女が止まる。


世界核の前。


静かに振り返る。


銀色の髪が揺れる。


涙で濡れた蒼い瞳。


それでも。


彼女は笑っていた。


出会った日のように。


優しく。


どこまでも優しく。


「ごめんね」


その一言に。


シオンの心が凍る。


理解してしまった。


全てを。


第五章でルナリアが知った真実。


月の継承者の役目。


世界を救う代償。


それは。


彼女自身だった。


「やめろ……」


掠れた声。


ルナリアは首を振る。


「ダメ」


涙が零れる。


それでも笑う。


「もう決めたから」


シオンは拳を握る。


震える。


怒りでもない。


絶望でもない。


恐怖だった。


大切な人を失う恐怖。


何度世界を救っても。


何度戦っても。


結局守れない。


そんな未来への恐怖。


「ふざけるな……」


シオンが前へ出る。


「そんな終わり方認めるかよ」


ルナリアは泣きながら笑った。


「シオンらしいね」


その言葉が胸を刺す。


世界核がさらに脈打つ。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


空が崩れる。


星喰いが咆哮する。


終焉は待ってくれない。


残された時間はあと僅かだった。


その時だった。


ノクスが静かに前へ出る。


「シオン」


低い声。


シオンが振り向く。


ノクスは全てを理解していた。


何千回もの記憶。


何千回もの終焉。


その全てを思い出していた。


「今回も同じだと思うか?」


シオンが息を呑む。


ノクスは笑った。


昔と同じように。


「俺達はここまで何のために来た」


沈黙。


そして。


シオンの瞳が揺れる。


そうだ。


何千回も失敗した。


何千回も救えなかった。


だが。


今回は違う。


今までとは違う。


仲間がいる。


未来がある。


希望がある。


その瞬間。


黒星晶が輝いた。


今まで見たこともないほど強く。


蒼黒い光が世界を包む。


ドクン。


世界が脈打つ。


ドクン。


世界核が反応する。


ドクン。


観測者領域が共鳴する。


そして。


白き記録者の最後の言葉が蘇る。


『お前だけは諦めなかった』


シオンの瞳が大きく開く。


全てが繋がった。


黒星晶。


観測者。


月の継承者。


世界核。


そして。


自分自身。


世界を救う代償は。


ルナリアだけではない。


最初から。


自分だった。


シオンは静かに笑った。


不思議なくらい穏やかに。


「そういうことか」


ルナリアの表情が変わる。


初めて恐怖が浮かぶ。


「だめ……」


震える声。


「だめだよシオン」


だが。


シオンは首を振った。


「今度こそ守る」


短い言葉。


だが。


そこに全てがあった。


何千回も届かなかった願い。


何千回も救えなかった未来。


その全てを終わらせる決意。


ルナリアが涙を流す。


首を振る。


叫ぶ。


それでも。


シオンは笑っていた。


出会った日のように。


どこまでも優しく。


「ありがとう」


その言葉に。


ルナリアは崩れ落ちる。


泣きながら。


声を失いながら。


シオンは世界核へ手を伸ばす。


瞬間。


黒星晶が砕けた。


蒼黒い光が世界を包む。


観測者領域が崩壊する。


星喰いが悲鳴を上げる。


世界中の空が光り始める。


世界再構築ではない。


もっと違う。


運命そのものの修復。


何千回も繰り返された終焉。


その連鎖を断ち切る力。


それが黒星晶の本当の役目だった。


星喰いが叫ぶ。


絶望が叫ぶ。


終焉が叫ぶ。


だが。


止まらない。


シオンの光が世界を包む。


アリアが叫ぶ。


ガルドが叫ぶ。


セラフィナが涙を流す。


エリナが泣き崩れる。


ノクスだけは笑っていた。


親友を見送るように。


誇らしげに。


「やっと終わるな」


その言葉と共に。


星喰いが砕けた。


終焉が消える。


世界が静かになる。


空の亀裂が閉じる。


海が戻る。


大地が再生する。


そして。


光の中心で。


シオンの姿が消え始める。


誰よりも静かに。


誰よりも優しく。


ルナリアが手を伸ばす。


届かない。


もう届かない。


それでも叫ぶ。


「シオン!!」


涙が溢れる。


止まらない。


だが。


少年は最後まで笑っていた。


世界を守れたことを。


仲間を守れたことを。


未来を繋げたことを。


誇るように。


そして。


光が弾ける。


世界は救われた。


だが。


英雄の姿だけが。


静かに歴史から消えていった。


誰も知らないまま。


誰にも語られないまま。


一人の英雄が。


世界を救った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ