「運命の彼方」
神々の戦いだった。
天空神殿エデン。
世界核の間。
そこはもはや戦場ではない。
世界そのものだった。
黒い流星が走る。
蒼黒い星々が空間を埋め尽くす。
終焉神ゼノアの光翼が世界を切り裂く。
衝突。
轟音。
現実が砕け散る。
ドォォォォォォォォォォン!!
神殿の上層が消し飛ぶ。
空間そのものが崩壊する。
世界中の人々が空を見上げていた。
誰もが理解していた。
今。
世界の命運が決まろうとしている。
シオンは飛ぶ。
ゼノアへ向かって。
黒星晶が咆哮する。
何千年も続いた運命。
その全てを背負いながら。
ゼノアもまた進む。
銀色の瞳に迷いはない。
彼もまた。
自分の正義を信じていた。
世界を守るため。
誰よりも長く戦った。
誰よりも多くを失った。
だから。
退けない。
二つの光が激突する。
黒と黄金。
希望と管理。
未来と過去。
その全てがぶつかり合う。
「終わらせる!!」
シオンが叫ぶ。
拳が振り抜かれる。
ゼノアの光翼が砕ける。
しかし。
次の瞬間。
ゼノアの拳もシオンを貫く。
鮮血。
吹き飛ぶ身体。
それでも。
シオンは立ち上がる。
何度でも。
何度でも。
その姿を見たゼノアが笑う。
苦しそうに。
どこか嬉しそうに。
「変わらないな」
掠れた声。
「本当に」
シオンも笑った。
血だらけのまま。
「そっちこそ」
二人は再び激突する。
その頃。
世界核の前。
ルナリアは一人で立っていた。
静かだった。
戦いの音さえ遠い。
世界核だけが脈打っている。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで。
彼女を待っていたかのように。
ルナリアは知っていた。
世界を救う方法を。
シオンもまだ知らない真実を。
黒星晶は終焉を断つ力。
だが。
それだけでは足りない。
世界を修復するには。
崩壊した因果を繋ぎ直すには。
月の継承者が必要だった。
命を代償にして。
世界を再生する存在。
それが月の継承者。
それが自分。
ルナリアは目を閉じる。
怖くないと言えば嘘になる。
まだ生きたい。
もっと旅をしたい。
もっと笑いたい。
もっと皆と一緒にいたい。
そして。
もっと。
シオンの隣にいたかった。
涙が零れる。
一滴。
また一滴。
それでも。
彼女は笑った。
泣きながら。
優しく。
「ありがとう」
誰へ向けた言葉だったのか。
自分でも分からない。
その時だった。
世界核が光る。
蒼い月光。
世界を包む優しい光。
そして。
ルナリアは一歩前へ出た。
運命を受け入れるために。
その頃。
戦場では決着が近付いていた。
シオンとゼノア。
最後の激突。
互いに満身創痍。
身体は限界だった。
それでも戦う。
世界のために。
仲間のために。
未来のために。
ゼノアは静かに言う。
「もし」
シオンが顔を上げる。
ゼノアは笑った。
何千年ぶりかも分からないほど穏やかに。
「最初にお前と会えていたなら」
その言葉に。
シオンは何も言えなかった。
ゼノアもまた。
救われたかっただけなのだ。
誰かに。
一人じゃないと言って欲しかっただけなのだ。
だが。
もう遅い。
だから。
終わらせなければならない。
ゼノア自身のためにも。
世界のためにも。
シオンは拳を握る。
黒星晶が最後の輝きを放つ。
ゼノアもまた全ての力を解放する。
銀色の光が世界を埋め尽くす。
そして。
最後の一撃が放たれる。
黒い流星。
黄金の閃光。
二つの力が衝突した瞬間。
世界が白く染まった。
誰も何も見えない。
何も聞こえない。
ただ。
一つだけ。
ゼノアの声が響いた。
「ありがとう」
その声は。
長い孤独の終わりだった。
光が消える。
静寂が訪れる。
そして。
終焉神ゼノアの姿がゆっくりと崩れ始める。
銀色の粒子となって。
空へ還っていく。
最後に残ったのは。
穏やかな笑顔だった。
管理者ではない。
神でもない。
ただ一人の人間としての。
ゼノア・エクリシアの笑顔だった。
しかし。
終わりではなかった。
世界核が暴走する。
星喰いが咆哮する。
世界崩壊は止まらない。
シオンが振り返る。
そして見た。
世界核へ歩くルナリアを。
彼女の身体を包む月光を。
その姿を見た瞬間。
全てを悟った。
世界を救う代償を。
彼女が選んだ答えを。
「ルナリア!!」
シオンの叫びが響く。
だが。
少女は振り返らない。
ただ静かに歩き続ける。
最後の未来へ。
運命の彼方へ。




