「神殺しの刻」
世界が揺れていた。
終焉が近付いている。
星喰いの侵食は限界へ達していた。
観測者領域。
現実世界。
天空神殿エデン。
全ての境界が崩れ始めている。
何千年も続いた世界の循環。
その終わりが迫っていた。
観測者領域最深部。
白き記録者は静かにシオンを見つめていた。
蒼い瞳。
その奥にある感情は安堵だった。
長い。
あまりにも長い旅だった。
最初の世界から続く旅。
何千もの終焉。
何千もの再構築。
何千もの失敗。
その果てに。
ようやく辿り着いた。
男はゆっくり頷く。
「行け」
静かな声。
「後はお前達の世界だ」
シオンは黙っていた。
だが迷いはない。
もう知っている。
自分が戦う理由を。
守る理由を。
失いたくないものを。
男は最後に微笑んだ。
どこか寂しそうに。
そして誇らしそうに。
「頼んだぞ」
白い世界が崩れる。
光が弾ける。
観測者領域そのものが消滅を始める。
記録の終焉。
最後の観測者の役目も終わろうとしていた。
シオンは目を閉じる。
そして。
現実へ戻った。
轟音。
世界核の間。
凄まじい衝撃波が吹き荒れていた。
ゴォォォォォォォォォォ――――!!
空間が裂ける。
神殿が崩れる。
世界核が暴走している。
そして。
その中心に立つ存在。
終焉神ゼノア。
銀色の瞳。
無数の光翼。
神を超えた存在。
世界核と完全融合した管理者。
もはや人ではなかった。
神だった。
いや。
神になろうとした人間だった。
ゼノアは静かにシオンを見る。
そして。
全てを理解した。
「会ったか」
短い言葉。
シオンは頷く。
ゼノアは苦笑した。
何千年ぶりだろう。
そんな表情を見せるのは。
「そうか」
静かな声。
「結局お前を選んだか」
シオンは一歩前へ出る。
黒星晶が輝く。
ノクスも隣へ立つ。
大剣を握る。
赤黒い瞳に迷いはない。
アリア達も傷だらけのまま立ち上がる。
誰一人欠けていない。
最後まで。
全員でここへ来た。
それが今までの世界との違いだった。
ゼノアは全員を見渡す。
ルナリア。
ノクス。
アリア。
ガルド。
セラフィナ。
エリナ。
レオニクス。
そしてシオン。
何千回も見てきた。
だが。
今回だけは違う。
誰も諦めていない。
誰も孤独ではない。
その事実が。
何よりも眩しかった。
「羨ましいよ」
掠れた声。
シオンの瞳が揺れる。
ゼノアは笑った。
自嘲するように。
「俺は最後まで一人だった」
沈黙。
誰も何も言えない。
その孤独を知ってしまったから。
最初は英雄だった。
誰かを救いたかっただけだった。
だが。
気付けば。
全てを背負っていた。
誰も隣にいないまま。
何千年も。
ゼノアは目を閉じる。
そして。
再び開く。
その瞳には覚悟があった。
「だからこそ」
世界が震える。
無数の光翼が広がる。
世界核が共鳴する。
「俺は止まれない」
轟音。
終焉神の力が解放される。
空が消える。
大地が砕ける。
現実そのものが崩壊する。
神の力。
管理者の頂点。
世界再構築を司る存在。
それが終焉神ゼノアだった。
ガルドが叫ぶ。
「来るぞ!!」
全員が構える。
アリアが双剣を抜く。
セラフィナが氷晶を纏う。
エリナが弓を引く。
レオニクスが聖剣を握る。
ノクスが前へ出る。
そして。
シオンもまた。
黒星晶を解放した。
蒼黒い光が世界を包む。
星々が浮かび上がる。
無数の黒い流星。
終焉へ抗う力。
世界を書き換える最後の力。
黒星王。
その真の姿。
ゼノアの瞳が細まる。
「来い」
シオンが拳を握る。
ノクスが笑う。
「終わらせるぞ」
短い言葉。
それだけで十分だった。
何千年も続いた戦い。
何千年も続いた絶望。
全てに決着を付ける時が来た。
そして。
シオンは叫ぶ。
「行くぞ!!」
黒い流星となって飛び出す。
ノクスも続く。
仲間達も続く。
終焉神ゼノアへ。
世界最後の戦いへ。
その瞬間。
世界中の人々が空を見上げていた。
誰もが祈る。
未来を。
希望を。
生きる明日を。
そして。
神殺しの戦いが始まった。
何千年も続いた運命へ終止符を打つために。




