「終焉へ抗う者」
観測者領域は崩れ始めていた。
白い空間に無数の亀裂が走る。
星喰いの侵食。
最初の世界を滅ぼした災厄が。
ついに記録そのものを喰らおうとしていた。
だが。
シオンは立ち止まらない。
白き記録者の後を追い続ける。
知るために。
終わらせるために。
そして。
自分自身の真実を。
二人は神殿最深部へ辿り着く。
そこには一枚の巨大な鏡があった。
いや。
鏡ではない。
記録結晶だった。
観測者領域最大の記録媒体。
世界そのものを映す禁忌の結晶。
男は静かに手を置く。
「見る覚悟はあるか」
シオンは迷わない。
「ここまで来たんだ」
男は小さく笑った。
どこか安心したように。
そして。
結晶が輝く。
世界が変わる。
映し出されたのは。
滅びゆく世界だった。
何度も見た光景。
燃える空。
崩壊する大地。
泣き叫ぶ人々。
だが。
今までと違う。
そこにいた。
黒い翼を広げた少年。
黒星王。
シオン自身だった。
シオンの瞳が揺れる。
映像の中の自分は傷だらけだった。
それでも立っている。
世界の終わりへ向かって。
そして。
その隣には。
ノクスがいた。
今と同じ顔。
今と同じ瞳。
今と同じ不器用な笑顔。
二人は並んでいた。
何度も。
何度も。
何度も。
違う世界。
違う歴史。
違う運命。
それでも。
必ず二人は並んでいた。
共に戦い。
共に傷付き。
共に終焉へ立ち向かっていた。
「ノクス……」
シオンが呟く。
男は頷いた。
「気付いただろう」
映像が変わる。
百回目の世界。
二百回目の世界。
五百回目の世界。
千回目の世界。
どの世界でも。
ノクスはシオンの隣にいた。
敵として。
仲間として。
ライバルとして。
親友として。
立場は違う。
だが。
最後には必ず並んでいた。
シオンは息を呑む。
男は静かに言った。
「お前達は偶然じゃない」
世界が揺れる。
記録がさらに深くなる。
そして。
映し出される。
最初の世界。
星喰いが生まれる前。
まだ平和だった時代。
そこに二人の少年がいた。
シオンとノクス。
いや。
正確には違う。
彼らの原型。
最初の魂。
最初の存在。
世界が生まれた時から存在していた二つの魂。
一つは希望。
一つは抗う意志。
男の声が響く。
「世界が何度再構築されても」
「魂だけは消えなかった」
シオンの心臓が強く脈打つ。
ドクン。
黒星晶が共鳴する。
男は続ける。
「だからお前は選ばれた」
映像が変わる。
無数の世界。
無数の終焉。
その全てで。
シオンだけが立ち上がっている。
誰も覚えていなくても。
誰も知らなくても。
何度失敗しても。
何度死んでも。
それでも立ち上がる。
なぜか。
その答えがそこにあった。
「お前は観測者に最も近い存在だからだ」
世界が止まる。
シオンは言葉を失う。
男は静かに見つめる。
「俺の後継者」
その言葉に。
全てが繋がった。
黒星晶。
観測者領域。
記録。
終焉。
再構築。
そして。
自分自身。
男は微笑む。
悲しそうに。
どこか誇らしげに。
「何千回も見てきた」
「何千回も失敗した」
「それでも」
蒼い瞳が真っ直ぐ向く。
「お前だけは諦めなかった」
その時だった。
轟音。
観測者領域が大きく揺れる。
星喰いの侵食が加速する。
白い空が黒く染まる。
男の表情が変わる。
「来るぞ」
シオンも振り返る。
遠く。
闇の向こう。
巨大な影が見えた。
星喰い。
終焉そのもの。
ついに観測者領域の中心へ到達しようとしている。
だが。
シオンの瞳はもう迷っていなかった。
知ってしまったからだ。
自分が何者なのか。
何のために戦ってきたのか。
そして。
何を守るべきなのか。
男は最後に言う。
「次で終わりだ」
静かな声。
だが重かった。
「終焉神ゼノア」
「星喰い」
「世界再構築」
「月の継承者」
その全てが一つへ収束する。
そして。
世界を救う方法も。
その代償も。
ついに明かされる。
運命の時は近い。




