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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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「ECLIPSE CHRONICLE」

静寂だった。


長い。


長い戦いが終わっていた。


空は青かった。


どこまでも。


どこまでも。


澄み渡る青空。


あれほど世界を覆っていた黒い亀裂はない。


星喰いの姿もない。


終焉神ゼノアもいない。


崩壊した大地は再生していた。


海は穏やかだった。


風は優しかった。


まるで。


最初から何も起きなかったかのように。


世界は救われた。


確かに。


完全に。


そして。


世界は生き残った。


アストレア。


世界樹最上部。


ルナリアは一人で立っていた。


静かな風が銀髪を揺らす。


胸元のペンダントが微かに光る。


遠くの空を見る。


理由は分からない。


だが。


胸が苦しい。


何かを失った気がする。


大切なものを。


何より大切なものを。


それなのに。


思い出せない。


誰だったのか。


何を失ったのか。


どうして涙が出るのか。


分からない。


分からないのに。


涙だけが止まらなかった。


一筋。


また一筋。


頬を伝う。


ルナリアはそっと胸を押さえる。


そこだけが痛かった。


「どうして……」


掠れた声。


風に消える。


答える者はいない。


世界は静かだった。


その頃。


アリアもまた空を見上げていた。


訓練場。


双剣を握る。


だが。


動けない。


胸が重い。


何かが足りない。


誰かがいない。


そんな気がしてならない。


ガルドも同じだった。


酒場で酒を飲む。


だが。


妙に静かだった。


いつもなら笑っているはずなのに。


今日は笑えない。


ノクスもまた。


世界の果てを見つめていた。


赤黒い瞳が揺れる。


記憶はない。


名前も知らない。


それでも。


胸の奥だけが覚えている。


何度も共に戦った誰かを。


何度も笑い合った誰かを。


そして。


最後まで諦めなかった誰かを。


だが。


思い出せない。


もう。


誰も。


覚えていない。


それが代償だった。


世界を救う代償。


英雄一人の存在。


歴史。


記録。


記憶。


その全てが消える。


誰も知らない。


誰も語れない。


誰も思い出せない。


だから。


英雄は伝説にもならない。


英雄は歴史にも残らない。


ただ消える。


最初から存在しなかったかのように。


それでも。


世界は続く。


人々は笑う。


子供達は走る。


街には灯りが灯る。


未来が生まれる。


その全てが。


一人の少年が守った未来だった。


その時だった。


世界樹の頂上。


誰もいない場所。


一本の花が咲いていた。


蒼い花。


今まで存在しなかった花。


風に揺れている。


ルナリアが立ち止まる。


不思議と目が離せない。


何故だろう。


涙が溢れる。


理由もなく。


ただ。


懐かしかった。


胸が痛かった。


「また会いたい……」


無意識だった。


誰に向けた言葉なのか。


自分でも分からない。


それでも。


その願いだけは本物だった。


風が吹く。


蒼い花が揺れる。


そして。


誰にも聞こえないほど小さく。


どこか遠くから。


声が響いた気がした。


『ありがとう』


ルナリアの瞳が揺れる。


振り返る。


誰もいない。


ただ青空だけが広がっている。


それでも。


少しだけ笑った。


涙を流しながら。


どこか安心したように。


その頃。


世界のどこか。


誰も知らない場所。


誰も辿り着けない場所。


白い光の海。


観測者領域の残骸。


その中に一つの光が漂っていた。


小さな光。


消えそうな光。


だが。


確かに存在している。


白き記録者の声が響く。


『記録完了』


静かな声。


優しい声。


『終焉確認』


『世界存続確認』


沈黙。


そして。


最後の言葉。


『希望継承確認』


光が微かに輝く。


まるで眠るように。


静かに。


穏やかに。


そして。


新たな物語が始まる。


誰も知らない英雄の物語が。


忘れられた救世主の物語が。


再び。


世界へ帰るその日まで。


これが。


終焉の記録。


希望の記録。


世界が滅んでも消えなかった願い。


その全てを綴った物語。


ECLIPSE CHRONICLE。

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