「創世の罪」
静寂だった。
観測者領域最深部。
記録の神殿。
シオンは言葉を失ったまま歩いていた。
星喰い。
終焉。
世界崩壊。
その全てが人類自身の過ちから生まれた。
あまりにも残酷な真実。
だが。
白き記録者は歩みを止めない。
まだ終わりではないからだ。
むしろ。
ここからが本当の始まりだった。
神殿の奥。
巨大な扉が存在していた。
無数の古代文字。
観測者紋章。
管理者紋章。
月の紋章。
黒星紋章。
全ての起源となった印。
それらが刻まれている。
男は静かに手を触れた。
ゴォォォォォォォォ――――
重い音が響く。
扉が開く。
その向こうには。
一つの世界が保存されていた。
シオンは息を呑む。
そこは研究都市だった。
最初の世界。
終焉が訪れる直前。
全てが始まった日。
無数の研究者達が走り回っている。
誰もが焦っていた。
恐怖していた。
なぜなら。
星喰いが止まらない。
文明が滅び続けている。
人類は敗北寸前だった。
その中心にいたのが。
若き日のゼノアだった。
まだ管理者ではない。
まだ人間だった頃の姿。
シオンは驚く。
今まで見たゼノアと違う。
優しかった。
誰よりも必死だった。
誰よりも人を救おうとしていた。
男が呟く。
「奴は最後まで戦った」
映像が続く。
研究者達が叫ぶ。
「このままでは世界が持ちません!」
「星喰いの侵食率九十八パーセント!」
「残り七十二時間!」
絶望だった。
勝てない。
逃げられない。
未来がない。
誰もが理解していた。
その時。
ゼノアが立ち上がる。
疲れ切った顔。
血走った瞳。
それでも希望を捨てていなかった。
彼は一つの提案をする。
世界再構築計画。
世界そのものを保存し。
滅亡後に再生する計画。
シオンの瞳が揺れる。
聞き覚えのある言葉だった。
世界再構築。
今の世界の根幹。
REBIRTHへ繋がる全ての始まり。
しかし。
男は首を振った。
「それ自体は間違いじゃなかった」
シオンが見る。
男の表情は重い。
「問題はその後だ」
景色が変わる。
研究所地下最深部。
巨大な演算装置。
世界管理システム。
その中心に眠る存在。
管理者アーカイヴ。
まだ人格を持たない。
ただの補助AI。
未来予測装置。
世界保存装置。
人類を救う最後の希望。
だった。
その時。
研究者の一人が言う。
「再構築後も人類は同じ失敗を繰り返します」
沈黙。
誰も否定できない。
事実だからだ。
戦争。
欲望。
争い。
嫉妬。
恐怖。
人類は何度でも同じ過ちを犯す。
だから。
ある者が提案した。
「管理しましょう」
その一言。
たった一言。
それが全てを変えた。
人類から選択を奪う。
自由を制限する。
失敗を許さない。
完璧な世界。
管理された世界。
それが始まりだった。
シオンの拳が震える。
男は苦しそうに笑った。
「善意だった」
「全員が世界を救いたかった」
だから恐ろしい。
悪意ではない。
正義だった。
善意だった。
誰かを守ろうとした結果。
人類は最初の一歩を踏み外した。
映像は続く。
世界再構築。
管理者誕生。
観測者領域構築。
そして。
数百回目の世界。
数千回目の世界。
やがてゼノアは変わる。
仲間を失う。
希望を失う。
心を失う。
管理だけが残る。
それが。
終焉神ゼノアへ繋がる道だった。
シオンは黙っていた。
怒れなかった。
憎めなかった。
間違っている。
それは分かる。
だが。
最初は誰も世界を壊したかったわけじゃない。
皆。
救いたかっただけだった。
その時だった。
男が立ち止まる。
振り返る。
蒼い瞳がシオンを見る。
今までで一番真剣な顔だった。
「そして次が最後の真実だ」
空気が変わる。
世界が震える。
観測者領域そのものが軋み始める。
遠くから星喰いの咆哮が聞こえる。
侵食が始まっている。
時間がない。
男は静かに告げた。
「なぜ黒星晶がお前を選んだのか」
シオンの心臓が跳ねる。
ドクン。
黒星晶が脈打つ。
まるで答えを知っているように。
「なぜ何千回世界が滅んでも」
「お前だけが立ち上がったのか」
世界が揺れる。
記録の神殿が崩れ始める。
そして男は最後に言った。
「次の記録には」
静かな声。
だが重かった。
「お前自身が映っている」
シオンは息を呑む。
世界最大の真実。
黒星王。
観測者。
世界再構築。
その全てが一つへ繋がろうとしていた。
そして物語は。
シオン自身の罪と使命へ辿り着く。




