「星喰いの真実」
世界が変わった。
白い世界が崩れていく。
観測者領域の景色が書き換わる。
シオンの足元に広がる光の海。
その全てが一つの記録へ収束していく。
男は静かに歩き続ける。
白い外套を揺らしながら。
シオンも後を追う。
やがて辿り着いた場所。
そこは巨大な神殿だった。
最初の世界に存在した施設。
観測者領域の最奥。
全ての記録が保管される場所。
記録の神殿。
無数の光柱が並ぶ。
それぞれに一つの歴史。
一つの文明。
一つの世界。
数え切れないほどの可能性が眠っていた。
その中心。
一際巨大な結晶が浮かんでいる。
漆黒だった。
光を吸い込む闇。
存在そのものを拒絶するような黒。
シオンは息を呑む。
見覚えがあった。
黒星晶。
いや。
それよりも遥かに古い。
もっと根源的な何か。
男が立ち止まる。
蒼い瞳が結晶を見上げる。
「これが始まりだ」
低い声。
重い声。
何千年もの後悔を抱えた声だった。
シオンは黙って見つめる。
男は続ける。
「星喰いは最初から存在したわけじゃない」
その言葉にシオンの瞳が揺れる。
今まで誰も知らなかった真実。
神話にも記されていない真実。
男は結晶へ手を触れた。
瞬間。
世界が変わる。
視界が白く弾ける。
そして。
映像が始まった。
最初の世界。
文明最盛期。
人類は繁栄していた。
神々の領域へ手を伸ばすほどに。
星晶技術。
空間制御。
生命創造。
時間観測。
全てを手に入れようとしていた。
その中心にいたのが観測者達だった。
未来を見る者。
世界を記録する者。
可能性を管理する者。
彼らは善意だった。
本当に。
世界を救いたかっただけだった。
「だが」
男が呟く。
「人は限界を超えた」
映像が変わる。
巨大な研究施設。
無数の研究者。
中心にある巨大な装置。
世界観測装置。
未来そのものを見る禁忌。
本来見てはならない領域。
存在してはならない技術。
だが。
人類は完成させた。
そして。
見てしまった。
終焉を。
未来の果てを。
世界の最後を。
その瞬間だった。
世界観測装置の中心に黒い亀裂が生まれる。
最初は小さかった。
だが。
少しずつ広がる。
少しずつ侵食する。
誰も気付かなかった。
それが何なのか。
その結果を。
男は静かに言った。
「星喰いは外から来た存在じゃない」
シオンの心臓が止まりそうになる。
男の瞳が向く。
そして。
告げた。
「人類が生み出した」
沈黙。
世界が止まる。
シオンは言葉を失った。
信じられなかった。
神話の災厄。
終末そのもの。
世界を滅ぼし続けた怪物。
その正体が。
人類自身だったなんて。
映像が続く。
観測装置は暴走した。
未来を見過ぎた。
可能性を知り過ぎた。
無限の終焉。
無限の絶望。
無限の死。
その全てが一つへ集まる。
そして。
生まれた。
星喰い。
終焉の集合体。
全ての滅び。
全ての絶望。
全ての負の可能性。
それが星喰いだった。
「そんな……」
シオンの声が震える。
男は苦しそうに笑う。
「皮肉だろう」
その笑顔は悲しかった。
「未来を救うための研究が」
「未来を滅ぼす存在を生んだ」
世界が暗くなる。
都市が消える。
文明が滅ぶ。
人々が死んでいく。
そして。
最初の世界は終わった。
誰も止められなかった。
誰も勝てなかった。
その中で。
たった一人だけ生き残った。
男だった。
観測者領域へ退避した最後の記録者。
だから彼だけが覚えている。
全てを。
その時だった。
ゴォォォォォォォォォ――――
神殿全体が揺れる。
シオンが振り返る。
遠く。
観測者領域の空が黒く染まっていた。
星喰い。
終焉そのもの。
ついに観測者領域へ侵入を始めている。
男の表情が曇る。
「来たか」
低い声。
何千年も恐れていた存在。
最初の世界を滅ぼした怪物。
シオンは拳を握る。
だが。
まだ終わらない。
男は再び歩き出した。
神殿のさらに奥へ。
「まだ見せていない記録がある」
シオンも後を追う。
男の瞳には悲しみがあった。
そして。
深い後悔も。
「星喰いが生まれた理由は分かった」
「だが」
振り返る。
蒼い瞳がシオンを見つめる。
「なぜ世界が繰り返されるのか」
「なぜ管理者が生まれたのか」
「なぜお前が選ばれたのか」
その全てはまだ語られていない。
世界の本当の罪。
創世の時代に犯された最大の過ち。
それこそが。
全ての始まりだった。
そして二人は歩き出す。
世界最大の禁忌へ。
創世の罪が眠る場所へ。




