「世界核」
世界の鼓動が響いていた。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓だった。
世界核。
創世の時代より存在し続ける神々の遺産。
その脈動が世界全体へ伝わっている。
空は崩れ。
大地は砕け。
海は荒れ狂う。
星喰いは侵食を続ける。
終焉神ゼノアは完成へ近付いている。
そして。
全ての運命は一つの場所へ集まろうとしていた。
天空神殿エデン最深部。
世界核の間。
そこは神々の祭壇だった。
無数の星晶結晶。
古代文字。
巨大な光柱。
空間そのものが神域と化している。
その中心。
世界核の前に立つ男。
終焉神ゼノア。
銀色の瞳。
無数の光翼。
その姿は神そのものだった。
もはや人ではない。
管理者でもない。
世界そのものに近い存在。
ゼノアは静かに目を閉じる。
世界核から膨大な情報が流れ込んでくる。
過去。
現在。
未来。
全てが見える。
だが。
その中に一つだけ異物があった。
シオン・アルヴィス。
何度世界を再構築しても消えない存在。
何度歴史を書き換えても現れる存在。
何度終焉を迎えても立ち上がる存在。
「やはりお前か」
静かな声。
その瞳に僅かな苦悩が宿る。
本当は分かっていた。
ずっと前から。
少年が間違っていないことを。
だが。
認めることはできなかった。
自分が積み重ねてきた千年を否定することになるから。
その時だった。
世界核の間へ続く巨大な扉が開く。
轟音。
神殿全体が震える。
最初に現れたのはルナリアだった。
銀髪が揺れる。
蒼い瞳。
その表情は静かだった。
恐怖も迷いも見えない。
だが。
その奥にある決意だけは誰よりも強かった。
ゼノアが彼女を見る。
「来たか」
短い言葉。
ルナリアは答えない。
ただ世界核を見つめる。
自分の運命を。
終わらせる場所を。
その直後。
再び扉が開く。
黒い閃光。
蒼黒い粒子。
シオンとノクスだった。
二人は激戦を突破して辿り着いた。
全身傷だらけ。
だが。
その瞳はまだ死んでいない。
シオンはルナリアを見る。
無事な姿を見て少しだけ安堵する。
だが。
胸騒ぎが消えない。
何かがおかしい。
ずっと前から感じていた違和感。
ルナリアが何かを隠している。
そんな気がしてならなかった。
ノクスもまた気付いていた。
しかし何も言わない。
言えなかった。
その時。
アリア達も到着する。
アリア。
ガルド。
セラフィナ。
エリナ。
レオニクス。
全員が傷だらけだった。
それでも立っている。
誰一人欠けることなく。
世界の最後の希望として。
ゼノアはその光景を見つめる。
そして。
少しだけ笑った。
「面白い」
誰も答えない。
世界核の鼓動だけが響く。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
その瞬間だった。
世界核が激しく脈動する。
ゴォォォォォォォォォ――――!!
空間が歪む。
光柱が膨れ上がる。
管理者アーカイヴの声が響いた。
『警告』
『世界再構築術式完成率九十八パーセント』
『観測者領域との接続開始』
『最終記録解放準備』
全員の顔色が変わる。
レオニクスだけが震えていた。
その言葉を知っている。
禁書にも記されていない言葉。
観測者領域。
世界の外側。
全ての記録が眠る場所。
そして。
最初の観測者が消えた場所。
「まさか……」
レオニクスの声が震える。
「本当に開くのか……」
その時。
シオンの黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
頭痛。
視界が揺れる。
知らない記憶。
いや。
忘れていた記憶。
何千回もの終焉。
何千回もの戦い。
何千回もの別れ。
それらが一気に溢れ出そうとしていた。
シオンが膝をつく。
「ぐっ……!」
ルナリアが振り向く。
「シオン!」
駆け寄ろうとする。
だが。
止まる。
行ってはいけない。
そう思ってしまった。
もし今触れれば。
全てを思い出してしまう。
世界を救う方法も。
その代償も。
全部。
ノクスはシオンを見る。
そして悟る。
始まったのだ。
最後の記憶が。
最後の真実が。
そして。
世界核の中心で。
巨大な光の扉が開き始める。
観測者領域。
全ての始まり。
全ての終わり。
その向こうから。
何かが現れようとしていた。
誰も知らない存在。
誰も見たことのない真実。
運命そのものが姿を現そうとしていた。




