「終焉神誕生」
天空神殿エデン最深部。
そこだけが別世界だった。
外では世界が崩壊している。
星喰いが侵食を続けている。
仲間達は命を懸けて戦っている。
それなのに。
この場所だけは異様な静寂に包まれていた。
巨大な空間。
神殿の最奥。
天井も壁も見えない。
無限にも思える空間の中央に。
それは存在していた。
世界核。
世界創世以前から存在する神々の遺産。
歴史。
記憶。
運命。
生命。
存在。
あらゆる情報を記録し続けてきた世界の心臓。
巨大な黒い球体が静かに脈動している。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
鼓動。
まるで生きているかのようだった。
その前に立つ男。
ゼノア・エクリシア。
エクリプス教団最高司祭。
管理者。
そして。
何千年もの間、世界を見続けてきた男。
彼は静かに世界核へ手を伸ばした。
黄金の瞳に迷いはない。
恐怖もない。
残っているのは使命だけだった。
「終わらせる」
静かな声。
誰に向けたものでもない。
自分自身への言葉。
「もう誰も苦しまなくていい」
脳裏に浮かぶ。
何千もの世界。
何万もの死。
何度も繰り返された終焉。
救えなかった人々。
守れなかった命。
愛した者達。
仲間達。
その全てが心を削っていった。
最初は違った。
本当に世界を救いたかった。
誰よりも。
誰よりも強く。
だが。
何度も失敗した。
何度も絶望した。
そして気付いた。
人は間違える。
人は争う。
人は滅ぶ。
だから。
選択そのものを消せばいい。
自由そのものを消せばいい。
管理された完全な世界。
それこそが救済だと。
ゼノアは信じ続けてきた。
千年もの間。
その時だった。
世界核が反応する。
ゴォォォォォォォォォ――――
黒い光が溢れ出す。
巨大な奔流。
神ですら触れてはならない禁忌。
世界情報そのもの。
存在の根源。
管理者アーカイヴが警告を発した。
『警告』
『世界核接続開始』
『管理者権限超過』
『観測者領域へ侵入』
『危険』
『危険』
『危険』
だが。
ゼノアは止まらない。
「今さらだ」
苦笑する。
今さら引き返せるはずがない。
千年の果て。
全てを賭けた願い。
それが目の前にある。
そして。
彼は世界核へ触れた。
瞬間。
世界が悲鳴を上げた。
ドォォォォォォォォォン!!!
光が爆発する。
時間が歪む。
空間が砕ける。
現実そのものが崩壊する。
世界中の空に巨大な黄金の魔法陣が浮かび上がった。
ヴェリス帝国。
イグニス王国。
ウィンダリア連邦。
リベラ島嶼群。
全ての国家の上空に。
神の紋章が展開される。
人々は空を見上げる。
恐怖する。
絶望する。
なぜなら理解してしまったから。
世界が変わろうとしている。
自分達の知らない何かへ。
その頃。
アストレア上空。
星喰いと激突していたシオン達も異変に気付く。
「何だ……?」
シオンが顔を上げる。
黒星晶が激しく脈打つ。
ノクスも表情を変えた。
「始まったか」
低い声。
空の向こう。
天空神殿最深部から。
巨大な光柱が立ち昇っていた。
黄金と黒。
相反する二つの光。
それは世界の中心へ向かって伸びている。
レオニクスの顔色が変わる。
「まずい……!」
誰よりも意味を理解していた。
観測者の記録。
禁書。
管理者アーカイヴ。
その全てに記されていた最悪の未来。
「神格化が始まった」
震える声。
誰も言葉を失う。
レオニクスだけが呟いた。
「終焉神が生まれる」
その瞬間。
世界核から膨大な力が流れ込む。
ゼノアの身体へ。
無限とも思える情報。
無限とも思える記憶。
無限とも思える存在。
人間なら耐えられない。
だが。
ゼノアは耐えた。
千年分の執念で。
守れなかった後悔で。
救いたいという願いで。
そして。
変貌が始まる。
純白の法衣が黒へ染まる。
黄金の瞳が銀色へ変わる。
背中から無数の光翼が生える。
神々しい。
だが同時に禍々しい。
救済と破滅。
創造と終焉。
相反する全てを内包した存在。
もはや人ではない。
管理者でもない。
その姿は。
神だった。
いや――
終焉そのものだった。
ゼノアがゆっくりと目を開く。
銀色の瞳が世界を見る。
その瞬間。
全世界の人間が息を呑んだ。
圧倒的な威圧感。
存在そのものが違う。
神話の存在。
世界法則の上位者。
終焉神。
ついに誕生した。
そして。
その視線は真っ直ぐシオンへ向けられる。
「来るか」
静かな声。
だが世界全体へ響く。
シオンは空を見上げた。
黒星晶が激しく輝く。
ノクスも剣を構える。
終焉神。
星喰い。
世界再構築。
全ての運命が一点へ収束し始めていた。
最後の戦いは。
さらにその先へ進もうとしていた。




