「終焉の獣」
世界が悲鳴を上げていた。
空が割れている。
大地が崩れている。
海が沸騰している。
それでもなお。
人々の視線は一つの場所へ向けられていた。
空の彼方。
世界の外側。
終焉領域。
そこから現れようとしている存在。
星喰い。
神話の中で語られ続けた終末。
人類が何千年も恐れてきた災厄。
その本体が。
ついに姿を現そうとしていた。
バキィィィィィィィィィ――――!!
世界を覆う亀裂が完全に砕け散る。
黒い闇が溢れ出した。
光を呑み込む闇。
音を消し去る闇。
存在そのものを侵食する闇。
誰もが息を呑む。
その奥から。
巨大な腕が現れた。
大陸ほど巨大な黒い腕。
無数の瞳。
無数の口。
無数の悲鳴。
見るだけで精神が削られる。
人類が理解してはいけない姿だった。
アストレアの研究員達が次々に膝をつく。
「ひっ……」
「やめろ……」
「見るな……!」
精神崩壊。
理性が耐えられない。
それほどの存在だった。
レオニクスが歯を食いしばる。
「これが……」
禁書でしか知らなかった。
神話でしか知らなかった。
だが現実だった。
終焉は実在した。
そして今。
世界へ降り立とうとしている。
ゴォォォォォォォォォォ――――!!
星喰いが動く。
その瞬間。
世界中の空間が歪んだ。
ヴェリス帝国では都市が消滅する。
イグニス王国では火山が暴走する。
ウィンダリア連邦では浮遊島が崩壊する。
まだ攻撃すらしていない。
ただ存在しているだけ。
それだけで世界が壊れていく。
「ふざけんなよ……」
ガルドが剣を握る。
額から汗が流れる。
歴戦の戦士。
幾度も死線を越えた男。
そんな彼でさえ本能が叫んでいた。
勝てない。
だが。
それでも。
退くわけにはいかなかった。
アリアが双剣を構える。
「だから?」
ガルドが見る。
アリアは笑った。
「今さら怖がるの?」
その言葉に。
ガルドも笑う。
「違いねぇ」
セラフィナが氷晶槍を握る。
エリナが弓を引く。
ノクスが大剣を抜く。
全員が前へ出る。
誰一人として逃げない。
その時だった。
星喰いの無数の瞳。
その全てが。
同時にシオンを見た。
世界が止まる。
時間が止まる。
空気が凍る。
シオンは動かない。
真っ直ぐ見返していた。
黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
呼ばれている。
そう感じた。
終焉に。
運命に。
何千年も続いた因果に。
その瞬間。
星喰いが咆哮した。
グォォォォォォォォォォォォォォォ――――!!!
世界が揺れる。
大地が砕ける。
空が崩れる。
終末の咆哮。
人類史上最大の災厄が。
ついに世界へ降臨した。
だが。
シオンは退かない。
一歩前へ出る。
黒星晶が蒼黒く燃え上がる。
その背後に。
無数の黒い星々が浮かび上がった。
黒星王。
世界を書き換える存在。
終焉に唯一対抗できる力。
ノクスが隣へ並ぶ。
「行けるか」
短い言葉。
シオンは笑った。
「聞くなよ」
ノクスも笑う。
「ああ」
二人の足元から蒼黒い光が広がる。
その光は世界樹を包み込む。
そして。
ルナリアもまた前へ出る。
銀髪が風に舞う。
蒼い瞳が星喰いを見つめる。
胸の奥に秘めた決意を隠したまま。
誰にも知られず。
誰にも悟られず。
静かに。
そして。
世界再構築術式を展開するゼノアが天空神殿からその光景を見下ろしていた。
黄金の瞳。
その奥で初めて迷いが揺れる。
「本当に……」
掠れた声。
「変えるつもりか」
何千年も続いた運命。
何千回も繰り返された終焉。
その全てを。
目の前の少年達が壊そうとしていた。
世界は息を呑む。
星喰い。
黒星王。
月の継承者。
管理者。
全てが揃った。
そして。
最後の戦争が始まる。




