「終末への宣戦布告」
夜明けが訪れようとしていた。
だが。
その空に朝日はなかった。
空を覆う巨大な亀裂。
世界の外側から覗く無数の闇。
そして。
終焉そのもの。
星喰い。
世界は静かに崩壊を始めていた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
大地が震える。
世界樹アストレアが悲鳴を上げる。
巨大な幹に無数の亀裂が走り始めていた。
研究員達が顔色を変える。
「星晶炉心崩壊率六十二パーセント突破!」
「世界樹の維持機能が限界です!」
「このままではアストレアそのものが!」
警報が鳴り響く。
誰もが理解していた。
もう時間がない。
避難すら間に合わない。
終わりは目前まで迫っている。
その時だった。
天空神殿エデン。
最深部。
世界核の前に立つゼノア・エクリシアが静かに目を開く。
黄金の瞳。
その奥に宿る感情は既に狂気でも支配欲でもなかった。
絶望だった。
何千年も世界を見続けた男だけが辿り着く絶望。
彼は静かに両手を広げる。
巨大な世界核が反応する。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
世界そのものが脈打った。
管理者アーカイヴが警告を発する。
『警告』
『世界再構築術式起動』
『観測者権限干渉確認』
『歴史改変開始』
その瞬間だった。
世界中の空へ巨大な黄金の魔法陣が展開される。
大陸を覆うほど巨大な術式。
人類史上最大の魔法。
誰も見たことのない神の力。
人々は震えながら空を見上げた。
ヴェリス帝国。
イグニス王国。
ウィンダリア連邦。
全ての国の上空に同じ魔法陣が浮かんでいる。
世界そのものが書き換えられようとしていた。
ゼノアは静かに呟く。
「これで終わる」
誰へ向けた言葉でもない。
自分自身への言葉だった。
「もう誰も苦しまない」
だが。
その願いは誰にも届かない。
なぜなら。
その先にあるのは救済ではなく消滅だから。
その頃。
アストレア最上部。
レオニクスの顔色が変わった。
「まずい……!」
研究員達も絶叫する。
「世界再構築術式です!」
「始まった!」
「止められません!」
全員が空を見る。
巨大な黄金の魔法陣。
終焉の鐘。
世界の終わりを告げる光。
そして。
それに呼応するように。
空の亀裂が限界まで広がる。
バキィィィィィィィィン――――!!
世界中へ響く破壊音。
誰もが耳を塞ぐ。
誰もが空を見る。
そして。
見てしまった。
亀裂の向こう側。
終焉領域。
その奥から。
巨大な腕が現れる。
黒い腕。
無数の瞳。
無数の口。
無数の絶望。
人間の理解を超えた存在。
星喰い本体。
その一部が世界へ侵入を始めていた。
誰も動けない。
誰も声を出せない。
ただ絶望だけが広がる。
その時だった。
シオンが前へ出る。
黒星晶が蒼黒く輝く。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで世界そのものが応えているようだった。
ノクスが隣へ並ぶ。
黒い大剣を構える。
かつて敵だった男。
今は違う。
何度も世界を共に救おうとした仲間だった。
アリアが双剣を抜く。
ガルドが炎を纏う。
エリナが弓を構える。
セラフィナが氷晶槍を掲げる。
レオニクスが聖剣を抜く。
全員が前へ出る。
誰一人逃げない。
終末を前にしても。
絶望を前にしても。
その時。
ルナリアもまた一歩前へ出た。
銀髪が風に舞う。
蒼い瞳が空を見据える。
胸の奥では決意が静かに燃えていた。
誰にも言わない。
誰にも止めさせない。
その覚悟を胸に秘めながら。
シオンが空を睨む。
星喰い。
ゼノア。
終焉。
運命。
全てを。
そして叫んだ。
「全部終わらせる!!」
その声が世界へ響く。
黒星晶が天を貫く。
蒼黒い光柱が夜空を裂く。
それは宣戦布告だった。
終焉への。
運命への。
何千年も続いた絶望への。
そして。
ルナリアは静かに目を閉じる。
誰にも聞こえない声で呟いた。
「ごめんね」
その言葉だけが風に消える。
誰にも届かないまま。
終末の戦争が始まる。
星喰いが世界へ降り立つ。
世界再構築術式が完成へ向かう。
そして。
黒星王と月の継承者。
二つの運命が交差する最後の戦いが幕を開けた。




