表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/161

「管理者の罪」

アストレア上空。


世界再構築術式に走った亀裂は、確かに存在していた。


小さい。


ほんの僅か。


だが。


それは何千年もの間、一度も起きなかった異常だった。


黄金の魔法陣。


管理者が築き上げた絶対のシステム。


その中心に。


今。


傷が生まれている。


世界中の空が震えた。


ゼノアは黙ってそれを見上げていた。


黄金の瞳。


初めて浮かぶ困惑。


そして。


怒り。


「あり得ない」


低い声。


神を演じ続けてきた男の仮面が、少しずつ剥がれ始めていた。


その視線の先。


シオンが立っている。


黒星晶を纏いながら。


静かに。


だが確実に。


今までとは違う存在になりつつあった。


最初の観測者との邂逅。


失われた記憶。


そして。


何千もの終焉を越えて受け継がれた意志。


その全てがシオンの中で一つになろうとしていた。


「お前は何を見た」


ゼノアが問う。


シオンは答えない。


代わりに空を見上げた。


黄金の術式。


世界を覆う管理の鎖。


その向こう側。


見えてはいけない真実を。


今の自分は知っている。


「全部だよ」


静かな声。


その一言に。


ゼノアの表情が凍り付いた。


「何……?」


「お前が隠してきた全部だ」


沈黙。


世界樹が脈打つ。


ルナリアが息を呑む。


ノクスも顔を上げる。


レオニクスは震えていた。


観測者だけが知る領域。


そこへシオンが到達したのだと理解したからだ。


シオンは続ける。


「人類を守るため?」


黒い粒子が舞う。


「世界を維持するため?」


冷たい笑み。


「ふざけるな」


その言葉に。


ゼノアの黄金の翼が揺れた。


「お前は守ってない」


黒星晶が輝く。


「お前は逃げてるだけだ」


世界が静まる。


誰も言葉を発しない。


ゼノアだけがシオンを見ていた。


そして。


ゆっくりと口を開く。


「逃げているだと?」


その声には感情があった。


今まで隠していたもの。


怒り。


苛立ち。


そして。


否定されたくない執着。


「何も知らぬ子供が」


黄金の光が膨れ上がる。


「どれだけの世界を見てきたと思う」


空間が歪む。


大気が悲鳴を上げる。


神化した管理者の力。


世界そのものへ干渉する力。


だが。


シオンは退かない。


「知ってる」


即答だった。


「見たからな」


ゼノアの瞳が揺れる。


シオンは見ていた。


最初の観測者の記憶の中で。


管理者誕生の瞬間を。


遥か昔。


文明がまだ空を支配していた時代。


星晶文明最盛期。


そこに一人の男がいた。


理想を抱いた学者。


世界を救いたかった男。


それが。


ゼノアだった。


「お前も最初は人間だった」


その言葉に。


全員が息を呑んだ。


ルナリアの瞳が見開かれる。


アリアも動揺を隠せない。


ノクスが顔を上げる。


ゼノアは沈黙した。


シオンは続ける。


「最初は誰よりも世界を救いたかった」


映像が浮かぶ。


白衣の青年。


仲間達。


笑顔。


研究。


未来への希望。


今のゼノアからは想像もできない姿。


「でも救えなかった」


何度も。


何度も。


何度も。


世界は滅びた。


星喰いが現れた。


文明は崩壊した。


愛した者達は死んだ。


守りたかった人々は消えた。


そして。


男は壊れた。


「だから管理を選んだ」


シオンが言う。


「失敗しない世界を作るために」


「感情を捨てた」


「自由を捨てた」


「人間をやめた」


沈黙。


誰も否定できない。


なぜなら。


ゼノア自身が否定しなかったからだ。


黄金の瞳が静かに閉じられる。


長い沈黙。


そして。


彼は笑った。


悲しそうに。


「そうだ」


初めてだった。


管理者が本音を語ったのは。


「私は疲れた」


風が吹く。


黄金の翼が揺れる。


「救えなかった」


「何度やっても」


「誰も」


その声には。


途方もない孤独が滲んでいた。


何千年。


何万年。


繰り返し続けた絶望。


誰よりも長く世界を見てきた男。


その重みがそこにあった。


ルナリアが胸を押さえる。


苦しい。


敵なのに。


少しだけ分かってしまう。


失う痛みを。


繰り返す苦しみを。


だが。


シオンは首を振った。


「だからって」


黒い瞳が真っ直ぐ向く。


「勝手に終わらせていい理由にはならない」


ゼノアは目を開く。


シオンは続ける。


「一人で決めるな」


その言葉は重かった。


最初の観測者も。


シオンも。


ノクスも。


ルナリアも。


皆。


失敗した。


皆。


後悔した。


それでも。


諦めなかった。


「お前は全部背負おうとした」


黒星晶が脈打つ。


「だから壊れたんだ」


沈黙。


世界が静まる。


そして。


その時だった。


世界樹の最深部。


封印領域。


管理者アーカイヴが完全起動した。


ゴォォォォォォォォォ――


蒼い光が天を貫く。


巨大な記録結晶。


古代文字。


無数の観測記録。


それらが一斉に解放される。


レオニクスが叫ぶ。


「記録が開放される!」


世界中の空に映像が映る。


滅んだ世界。


繰り返された終焉。


管理者達。


そして。


何度も戦い続けた観測者達。


隠されていた歴史。


消された真実。


その全てが。


人類へ公開され始めた。


ゼノアの顔色が変わる。


「やめろ!!」


初めての叫び。


だが遅い。


もう止まらない。


世界は知ってしまう。


真実を。


管理者の罪を。


そして。


観測者達が戦い続けた理由を。


シオンは空を見上げた。


黒い星々が輝く。


その隣にルナリアが立つ。


ノクスも立つ。


アリアも。


ガルドも。


セラフィナも。


エリナも。


レオニクスも。


もう一人じゃない。


それが。


管理者との決定的な違いだった。


そして。


真実を暴かれたゼノアの身体から。


今までとは比較にならないほどの黄金の光が溢れ始める。


神化第二段階。


世界そのものを巻き込む暴走。


レオニクスの顔が青ざめる。


「まずい……」


シオンが振り返る。


レオニクスは震える声で言った。


「ゼノアが壊れる」


黄金の光が天を埋め尽くす。


管理者。


神。


そして。


孤独な男。


その全てが崩壊を始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ