表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/51

「管理者の罪」

アストレア上空。


世界再構築術式に走った亀裂は、確かに存在していた。


小さい。


ほんの僅か。


だが。


それは何千年もの間、一度も起きなかった異常だった。


黄金の魔法陣。


管理者が築き上げた絶対のシステム。


その中心に。


今。


傷が生まれている。


世界中の空が震えた。


ゼノアは黙ってそれを見上げていた。


黄金の瞳。


初めて浮かぶ困惑。


そして。


怒り。


「あり得ない」


低い声。


神を演じ続けてきた男の仮面が、少しずつ剥がれ始めていた。


その視線の先。


シオンが立っている。


黒星晶を纏いながら。


静かに。


だが確実に。


今までとは違う存在になりつつあった。


最初の観測者との邂逅。


失われた記憶。


そして。


何千もの終焉を越えて受け継がれた意志。


その全てがシオンの中で一つになろうとしていた。


「お前は何を見た」


ゼノアが問う。


シオンは答えない。


代わりに空を見上げた。


黄金の術式。


世界を覆う管理の鎖。


その向こう側。


見えてはいけない真実を。


今の自分は知っている。


「全部だよ」


静かな声。


その一言に。


ゼノアの表情が凍り付いた。


「何……?」


「お前が隠してきた全部だ」


沈黙。


世界樹が脈打つ。


ルナリアが息を呑む。


ノクスも顔を上げる。


レオニクスは震えていた。


観測者だけが知る領域。


そこへシオンが到達したのだと理解したからだ。


シオンは続ける。


「人類を守るため?」


黒い粒子が舞う。


「世界を維持するため?」


冷たい笑み。


「ふざけるな」


その言葉に。


ゼノアの黄金の翼が揺れた。


「お前は守ってない」


黒星晶が輝く。


「お前は逃げてるだけだ」


世界が静まる。


誰も言葉を発しない。


ゼノアだけがシオンを見ていた。


そして。


ゆっくりと口を開く。


「逃げているだと?」


その声には感情があった。


今まで隠していたもの。


怒り。


苛立ち。


そして。


否定されたくない執着。


「何も知らぬ子供が」


黄金の光が膨れ上がる。


「どれだけの世界を見てきたと思う」


空間が歪む。


大気が悲鳴を上げる。


神化した管理者の力。


世界そのものへ干渉する力。


だが。


シオンは退かない。


「知ってる」


即答だった。


「見たからな」


ゼノアの瞳が揺れる。


シオンは見ていた。


最初の観測者の記憶の中で。


管理者誕生の瞬間を。


遥か昔。


文明がまだ空を支配していた時代。


星晶文明最盛期。


そこに一人の男がいた。


理想を抱いた学者。


世界を救いたかった男。


それが。


ゼノアだった。


「お前も最初は人間だった」


その言葉に。


全員が息を呑んだ。


ルナリアの瞳が見開かれる。


アリアも動揺を隠せない。


ノクスが顔を上げる。


ゼノアは沈黙した。


シオンは続ける。


「最初は誰よりも世界を救いたかった」


映像が浮かぶ。


白衣の青年。


仲間達。


笑顔。


研究。


未来への希望。


今のゼノアからは想像もできない姿。


「でも救えなかった」


何度も。


何度も。


何度も。


世界は滅びた。


星喰いが現れた。


文明は崩壊した。


愛した者達は死んだ。


守りたかった人々は消えた。


そして。


男は壊れた。


「だから管理を選んだ」


シオンが言う。


「失敗しない世界を作るために」


「感情を捨てた」


「自由を捨てた」


「人間をやめた」


沈黙。


誰も否定できない。


なぜなら。


ゼノア自身が否定しなかったからだ。


黄金の瞳が静かに閉じられる。


長い沈黙。


そして。


彼は笑った。


悲しそうに。


「そうだ」


初めてだった。


管理者が本音を語ったのは。


「私は疲れた」


風が吹く。


黄金の翼が揺れる。


「救えなかった」


「何度やっても」


「誰も」


その声には。


途方もない孤独が滲んでいた。


何千年。


何万年。


繰り返し続けた絶望。


誰よりも長く世界を見てきた男。


その重みがそこにあった。


ルナリアが胸を押さえる。


苦しい。


敵なのに。


少しだけ分かってしまう。


失う痛みを。


繰り返す苦しみを。


だが。


シオンは首を振った。


「だからって」


黒い瞳が真っ直ぐ向く。


「勝手に終わらせていい理由にはならない」


ゼノアは目を開く。


シオンは続ける。


「一人で決めるな」


その言葉は重かった。


最初の観測者も。


シオンも。


ノクスも。


ルナリアも。


皆。


失敗した。


皆。


後悔した。


それでも。


諦めなかった。


「お前は全部背負おうとした」


黒星晶が脈打つ。


「だから壊れたんだ」


沈黙。


世界が静まる。


そして。


その時だった。


世界樹の最深部。


封印領域。


管理者アーカイヴが完全起動した。


ゴォォォォォォォォォ――


蒼い光が天を貫く。


巨大な記録結晶。


古代文字。


無数の観測記録。


それらが一斉に解放される。


レオニクスが叫ぶ。


「記録が開放される!」


世界中の空に映像が映る。


滅んだ世界。


繰り返された終焉。


管理者達。


そして。


何度も戦い続けた観測者達。


隠されていた歴史。


消された真実。


その全てが。


人類へ公開され始めた。


ゼノアの顔色が変わる。


「やめろ!!」


初めての叫び。


だが遅い。


もう止まらない。


世界は知ってしまう。


真実を。


管理者の罪を。


そして。


観測者達が戦い続けた理由を。


シオンは空を見上げた。


黒い星々が輝く。


その隣にルナリアが立つ。


ノクスも立つ。


アリアも。


ガルドも。


セラフィナも。


エリナも。


レオニクスも。


もう一人じゃない。


それが。


管理者との決定的な違いだった。


そして。


真実を暴かれたゼノアの身体から。


今までとは比較にならないほどの黄金の光が溢れ始める。


神化第二段階。


世界そのものを巻き込む暴走。


レオニクスの顔が青ざめる。


「まずい……」


シオンが振り返る。


レオニクスは震える声で言った。


「ゼノアが壊れる」


黄金の光が天を埋め尽くす。


管理者。


神。


そして。


孤独な男。


その全てが崩壊を始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ