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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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「神化」

「ならば――私も本気を出そう」


ゼノア・エクリシアの声が響いた。


その瞬間だった。


天空神殿エデン全体が震える。


ゴォォォォォォォォォ――


空間そのものが軋む。


世界樹が悲鳴を上げるように揺れる。


アストレア中の人々が顔を上げた。


空がおかしい。


景色が歪んでいる。


まるで現実そのものが書き換えられようとしているかのようだった。


そして。


ゼノアの背後に現れた無数の白い翼がゆっくりと広がる。


一枚。


二枚。


十枚。


百枚。


数え切れないほどの翼。


それは神々しくもあり。


どこまでも不気味だった。


レオニクスが顔を青くする。


「神化術式……」


震える声。


禁書にのみ記された存在。


世界再構築計画の最終段階。


管理者が人を超えるための禁忌。


「まさか本当に完成させていたのか……」


ゼノアは静かに宙へ浮かぶ。


足元に巨大な黄金の魔法陣。


世界中の星晶が引き寄せられている。


海を越え。


大陸を越え。


空を越え。


世界中の力がゼノアへ集まり始めた。


その姿は。


もはや人間ではなかった。


「美しい……」


教団兵の誰かが呟く。


神を見た者のように。


涙を流しながら。


膝をつく。


次々と。


教団軍が跪く。


信仰。


崇拝。


畏怖。


全てが混ざり合う。


だが。


シオンだけは違った。


黒い瞳で真っ直ぐ見上げる。


そして。


吐き捨てるように言った。


「気持ち悪いな」


沈黙。


全員が振り向く。


だがシオンは続けた。


「人を勝手に管理して」


「勝手に消して」


「勝手に救った気になってる」


黒星晶が脈打つ。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


「そんなもん神じゃねぇ」


その言葉に。


ゼノアの瞳が細くなる。


初めてだった。


怒りに近い感情が見えたのは。


「理解できぬか」


静かな声。


「理解したくもない」


即答だった。


シオンは一歩前へ出る。


「世界を守るってのは」


黒い粒子が舞う。


「世界を好きに作り変えることじゃない」


ルナリアが微笑む。


アリアが剣を構える。


ノクスが隣へ並ぶ。


ガルドが笑う。


セラフィナも前へ出た。


全員が同じ方向を見る。


ゼノアを。


そして。


未来を。


ゼノアの神化は続いていた。


黄金の光が身体を覆う。


皮膚が変質する。


瞳が光になる。


背後には巨大な輪。


神話で語られる神そのもの。


だが。


その時だった。


ドクン。


シオンの黒星晶が暴れた。


今までとは違う。


明らかに異常な反応。


視界が歪む。


膨大な記憶。


世界。


世界。


世界。


無数の世界。


何度も滅びた文明。


何度も再構築された歴史。


何度も死んだ仲間達。


何度も繰り返された終焉。


そして。


その全てに。


一人だけ存在していた男。


ゼノア。


どの世界にもいた。


どの時代にもいた。


どの終焉にもいた。


シオンの顔色が変わる。


「まさか……」


ノクスが振り向く。


「どうした」


シオンは震える声で言った。


「アイツ……」


記憶が繋がる。


過去世界。


さらに過去。


もっと前。


「人間じゃない」


レオニクスも息を呑む。


彼も同じ結論へ辿り着いた。


ゼノアは笑った。


理解されたことを。


知っていたように。


「ようやく辿り着いたか」


黄金の瞳が細まる。


「観測者」


シオンは睨む。


「お前は何者だ」


沈黙。


世界が静まる。


ゼノアはゆっくりと両手を広げた。


「私は管理者」


その言葉に。


アリアが目を見開く。


セラフィナが凍り付く。


レオニクスの顔色が消える。


そして。


遠く離れた中央記録塔。


神聖教会地下最深部。


眠っていた管理者アーカイヴが反応した。


青い光。


警告。


封印解除。


古代文字。


全てが一斉に起動する。


「管理者だと……?」


ガルドが呟く。


ゼノアは静かに頷いた。


「世界を監視する者」


「世界を修正する者」


「世界を維持する者」


黄金の光が強くなる。


「それが管理者」


ルナリアの瞳が揺れる。


セレネの記憶。


月の継承者達の記憶。


全てが繋がり始める。


「じゃあ……」


震える声。


「世界を何度も滅ぼしたのは」


ゼノアは否定しない。


ただ。


静かに答えた。


「必要だった」


沈黙。


誰も言葉を失う。


だが。


シオンだけは違った。


怒りだった。


純粋な怒り。


「必要?」


黒星晶が暴走寸前まで輝く。


「人を殺して」


「世界を消して」


「歴史を壊して」


「それが必要?」


ゼノアは答える。


「必要だ」


感情のない声。


「人類は失敗する」


「だから修正する」


「壊れたなら再構築する」


「それだけの話だ」


その瞬間。


シオンの中で何かが切れた。


黒い光が爆発する。


世界が揺れる。


アストレア全域が震える。


世界樹が反応する。


ルナリアの月光が共鳴する。


ノクスの力も共鳴する。


そして。


ゼノアの表情が初めて変わった。


驚愕。


ほんの僅かだが。


確かに。


「その力は……」


シオンは空を睨む。


漆黒の瞳。


最後の観測者。


黒星王。


何度も滅びを見た男。


そして。


何度も立ち上がった男。


「もう終わりだ」


静かな声。


だが。


世界が震える。


黒い星々が空へ浮かぶ。


失われた記憶。


消された歴史。


忘れられた英雄達。


その全てがシオンの周囲へ集まっていく。


ゼノアは理解した。


今までとは違う。


これまでの観測者とは。


決定的に違う。


世界が変わっている。


仲間がいる。


記憶が戻っている。


月の継承者が覚醒している。


ノクスも目覚めている。


そして。


管理者アーカイヴまでもが反応を始めている。


運命が変わった。


初めて。


本当に。


未来が予測できなくなった。


ゼノアの黄金の翼が広がる。


シオンの黒い星々が広がる。


二つの世界がぶつかり合う。


神。


そして。


最後の観測者。


何度も繰り返された戦い。


その真の決着が。


ついに始まろうとしていた。

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