「世界再構築」
世界再構築
「この世界を――再構築する」
最高司祭ゼノアの声が響いた。
その瞬間。
空が消えた。
正確には。
空が見えなくなった。
アストレア上空。
天空神殿エデンを中心に展開された超巨大魔法陣が、夜空そのものを覆い尽くしていた。
黄金。
白銀。
蒼。
無数の術式が幾重にも重なり合う。
その規模は常識を超えていた。
都市規模ではない。
国家規模でもない。
世界規模。
人類史上。
誰一人として到達したことのない領域。
「何だよ……あれ……」
ガルドの声が震える。
歴戦の戦士。
七星将と何度も渡り合ってきた男。
そんな彼ですら。
今は恐怖を隠せなかった。
世界そのものが書き換えられようとしている。
本能が理解していた。
これは戦争ではない。
災害でもない。
終焉だ。
そして。
再生だ。
ゴォォォォォォォォォ――
世界が唸る。
大地が軋む。
海が揺れる。
遠く離れた大陸。
辺境の村。
王都。
帝国。
全ての空に同じ魔法陣が現れていた。
人々は空を見上げる。
誰も理解できない。
だが。
恐怖だけは伝わる。
世界が壊れようとしている。
その事実だけは。
⸻
アストレア。
中央作戦区域。
シオンは空を睨んでいた。
黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
まるで警告しているようだった。
「止めろ」
小さく呟く。
ゼノアが微笑む。
「なぜだ?」
黄金の瞳。
絶対者の視線。
神のような威圧。
だが。
シオンは目を逸らさない。
「何人死ぬと思ってる」
静かな怒り。
ゼノアは首を傾げた。
「死なない」
その答えに。
全員が凍り付く。
「何?」
ルナリアが眉をひそめる。
ゼノアは続けた。
「人類は保存される」
「文明も保存される」
「記録も残る」
「全ては再構築される」
レオニクスの顔色が変わる。
彼だけが理解していた。
その言葉の本当の意味を。
「違う……」
掠れた声。
「それは人類じゃない」
ゼノアが視線を向ける。
レオニクスは拳を握る。
怒り。
憎しみ。
そして恐怖。
「記録を残しただけの偽物だ」
沈黙。
ゼノアは微笑んだ。
否定しない。
つまり。
事実だった。
「再構築された人間は」
レオニクスが叫ぶ。
「前の人間じゃない!!」
「記憶も」
「魂も」
「人生も!!」
「全部別物だ!!」
空気が震える。
ルナリアの瞳が揺れた。
アリアも息を呑む。
セラフィナが顔を上げる。
そして。
シオンは理解した。
なぜ前の世界で自分が戦ったのか。
なぜ最後の観測者になったのか。
世界は滅びる。
だが。
再構築される。
その繰り返し。
人類は救われているように見える。
だが違う。
本当は。
毎回死んでいる。
毎回別人に置き換えられている。
「だから俺は……」
シオンが呟く。
黒星晶が共鳴する。
過去の記憶。
最後の戦い。
消えていく自分。
全てが繋がった。
「それを止めたかったのか」
ゼノアが微笑む。
「そして失敗した」
静かな声。
だが残酷だった。
「お前は何度も敗北した」
「何度も世界は再構築された」
「何度も人類は保存された」
黄金の光が強くなる。
世界再構築術式。
完成が近付いていた。
その時だった。
ノクスが前へ出る。
黒い剣を握る。
失われた記憶。
戻った感情。
全てを抱えながら。
「違う」
低い声。
ゼノアが見る。
ノクスの瞳には迷いがなかった。
「俺達は生きてる」
黒い粒子が舞う。
「失敗した」
「負けた」
「守れなかった」
「それでも」
剣を構える。
「だから次があるんだろ」
シオンが笑った。
ルナリアも笑う。
ガルドが肩を回す。
アリアが剣を抜く。
セラフィナが氷を展開する。
エリナが弓を構える。
レオニクスが世界樹へ手を置く。
全員が前を向く。
ゼノアはそれを見ていた。
静かに。
冷たく。
そして。
初めて苛立ちを見せた。
「理解できない」
本心だった。
なぜ立ち上がる。
なぜ諦めない。
何度失敗しても。
何度滅んでも。
なぜ笑える。
彼には理解できなかった。
だから。
負けるのだ。
「シオン」
ルナリアが呼ぶ。
シオンは振り返らない。
だが答える。
「分かってる」
黒星晶が輝く。
今までとは違う。
暴走ではない。
覚醒でもない。
もっと深い何か。
最後の観測者としての本来の力。
その片鱗。
ノクスが隣に立つ。
「今度は逃がさねぇ」
ガルドが笑う。
「派手にやろうぜ」
アリアが短く言う。
「死ぬなよ」
セラフィナが微笑む。
「私も戦う」
エリナが叫ぶ。
「絶対勝つからね!」
その瞬間。
世界樹が反応した。
ゴォォォォォォォ!!
巨大な幹が発光する。
蒼い光。
月光。
黒い光。
三つの力が共鳴する。
世界が震える。
レオニクスが目を見開く。
「まさか……」
禁書にも記されていない現象。
誰も見たことがない。
だが確信した。
ついに始まる。
何度も失敗した戦いの。
本当の最終局面が。
⸻
シオンは空を見上げた。
黄金の神。
ゼノア。
世界再構築術式。
そして。
繰り返された終焉。
全てに決着を付けるため。
最後の観測者は前へ出る。
「終わらせる」
静かな声。
だが。
世界を揺るがすほどの意志が宿っていた。
ゼノアの瞳が細まる。
黄金と黒。
二つの運命が交差する。
世界再構築まで残された時間は僅か。
そして。
最終決戦の幕が上がる。




