「反逆の星」
「今度は――俺が守る」
ノクス・ヴァーミリオンは静かに剣を抜いた。
黒き刀身。
星喰いの瘴気を纏う漆黒の大剣。
その刃が夜空へ向けられる。
立つ位置はシオンの前。
それだけで全員が理解した。
星喰融合将ノクスは。
教団ではなく。
シオンの側へ立ったのだと。
沈黙。
誰も言葉を発せない。
世界最強クラスの怪物が。
最高司祭へ刃を向けた。
それは教団の歴史そのものへの反逆だった。
ゼノアの黄金の瞳が細くなる。
「ノクス」
静かな声。
だがその奥には怒りがあった。
「記憶に支配されたか」
ノクスは振り返らない。
視線はゼノアだけを見据えている。
「違う」
低い声。
「ようやく思い出しただけだ」
大気が震える。
星喰いの力が溢れ出す。
しかし以前とは違う。
そこには確かな意志があった。
兵器ではない。
人間の意志だった。
ゼノアは小さく息を吐く。
「失敗作め」
その一言で空気が凍り付く。
ルナリアが眉をひそめた。
アリアの瞳に怒りが宿る。
セラフィナは拳を握った。
失敗作。
その言葉を誰より理解している。
教団はいつもそうだった。
人を人として見ない。
利用価値でしか判断しない。
感情も人生も奪う。
それが教団だった。
ノクスは静かに笑う。
「そうだな」
黒い瞳が細められる。
「お前から見れば俺達は失敗作だ」
記憶が蘇る。
幼いセラフィナ。
地下施設のアリア。
実験体達。
名前すら奪われた子供達。
そして。
何度も世界を救おうとしたシオン。
全てが繋がる。
「だから終わらせる」
その瞬間。
ノクスが消えた。
轟音。
音を置き去りにする速度。
大地が爆ぜる。
次の瞬間にはゼノアの目前。
黒き大剣が振り下ろされた。
ドォォォォォォン!!
アストレア全域を揺らす衝撃。
しかし。
止まった。
ゼノアは片手で受け止めていた。
素手で。
七星将最強の一撃を。
まるで子供の剣を受けるように。
ガルドが絶句する。
「嘘だろ……」
アリアも目を見開く。
あり得ない。
ノクスの一撃は山を消し飛ばす。
戦艦を真っ二つにする。
それを。
素手で受け止めた。
ゼノアは微笑む。
「失望した」
次の瞬間。
黄金の光が爆発した。
ノクスの身体が吹き飛ぶ。
轟音。
地面を何百メートルも削りながら転がる。
世界樹の根元まで叩き付けられた。
「ノクス!」
ルナリアが叫ぶ。
だがノクスは立ち上がる。
口から血を流しながら。
それでも。
膝をつかない。
その姿を見て。
シオンの黒星晶が反応する。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
記憶が流れ込む。
また見える。
前の世界。
終焉の日。
ノクスが一人で立っている。
その背中を見ながら。
自分は笑っていた。
『任せたぞ』
その言葉だけが残る。
シオンは拳を握る。
もう分かっていた。
ノクスは敵じゃない。
かつての仲間だ。
忘れ去られた友だ。
だから。
今度は自分が立つ番だった。
「ノクス」
シオンが前へ出る。
黒い粒子が溢れる。
黒星王。
最後の観測者。
その力が再び目覚める。
ノクスが振り返る。
そして小さく笑った。
「遅ぇよ」
「うるせぇ」
シオンも笑う。
それだけだった。
だが。
何百年も失われていた絆がそこにあった。
ルナリアが微笑む。
アリアも口元を緩める。
ガルドは豪快に笑った。
「やっと主人公らしくなったな」
エリナも涙目で頷く。
セラフィナは静かに目を閉じた。
希望があった。
初めて。
本当に。
未来が変わる気がした。
だが。
ゼノアはそれを見下ろしている。
冷たく。
絶対的に。
「愚かだ」
黄金の瞳が光る。
天空神殿エデン全体が発光する。
ゴォォォォォォォォォ――
空が震える。
世界樹が軋む。
大気が悲鳴を上げる。
レオニクスの顔色が変わった。
「まずい!」
研究員達が叫ぶ。
「エデン全域が反応!」
「星晶出力上昇!」
「限界突破します!!」
ゼノアは静かに両腕を広げる。
神を演じるように。
世界を見下ろしながら。
「ならば見せよう」
黄金の光が空を覆う。
巨大な魔法陣。
大陸規模。
いや。
世界規模。
誰も見たことのない術式。
レオニクスが震える声で呟く。
「まさか……」
禁書にしか存在しない名。
世界再生術式。
文明そのものを初期化する禁断の力。
ゼノアは静かに宣言した。
「この世界を」
風が止まる。
全員が見上げる。
黄金の光が天を埋め尽くす。
「再構築する」
その瞬間。
アストレア全域が絶望に包まれた。
だが。
シオンは空を見上げる。
ノクスも隣に立つ。
ルナリアが月光翼を広げる。
アリアが剣を抜く。
ガルドが炎を纏う。
セラフィナが氷を解放する。
誰も諦めていなかった。
何度滅んでも。
何度失敗しても。
今度こそ。
終わらせるために。
そして黒星王は。
静かに前へ出る。
「好き勝手やってくれたな」
黒い瞳が黄金を睨む。
その声は静かだった。
だが。
確かな怒りと覚悟が宿っていた。
ゼノアが笑う。
シオンも笑う。
二人の視線が交差する。
最後の観測者。
最高司祭。
幾度も繰り返された戦い。
その決着の時が近付いていた。




