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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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36/50

「黒き将」

空が裂けた。


アストレア上空。


夜空を覆う黒い魔法陣から、一筋の流星が落下する。


それは光ではない。


闇だった。


星を呑み込むような漆黒。


見る者の本能に直接恐怖を刻み込む絶対的な圧力。


「来るぞ!!」


レオニクスが叫ぶ。


その瞬間。


轟音。


大地が沈む。


アストレア外壁から数キロ離れた荒野へ黒い流星が激突した。


衝撃波が街全体を揺らす。


建物が軋み、窓ガラスが砕け散る。


星晶灯が一斉に消灯した。


「な、何だ……!?」


「魔物襲撃か!?」


市民達が混乱する。


だが次の瞬間。


誰もが理解した。


違う。


これは災害ではない。


もっと恐ろしいものだ。


荒野の中心。


巨大なクレーター。


その中央に一人の男が立っていた。


黒い装甲。


蒼黒の外套。


全身を覆う星喰いの瘴気。


そして絶望そのもののような存在感。


星喰融合将。


ノクス・ヴァーミリオン。


七星将最強。


教団最終兵器。


世界を滅ぼすために生まれた怪物。


ノクスは静かに顔を上げた。


赤黒い瞳がアストレアを見つめる。


そして。


彼は呟いた。


「シオン……」


誰にも聞こえないほど小さく。


だが確かに。


その名前を。


自分でも理由が分からないまま。


胸が痛む。


知らないはずなのに。


会ったこともないはずなのに。


なぜか。


その名前だけは忘れられない。


「……誰だ」


ノクスは眉をひそめた。


頭痛。


記憶のノイズ。


世界そのものが拒絶しているような違和感。


その時。


天空神殿エデン。


玉座の間。


ゼノアが静かに笑った。


「やはり始まったか」


その背後には管理者アーカイヴの記録結晶。


無数の記録が浮かび上がっている。


ノクス。


シオン。


世界再生。


最後の観測者。


消された歴史。


本来なら存在しない記録。


ゼノアはそれらを眺めながら呟く。


「思い出されては困る」


黄金の瞳が冷たく細められる。


「まだ世界は完成していない」


その頃。


アストレア作戦本部。


警報が鳴り響いていた。


「対象確認!」


「星喰融合将ノクス・ヴァーミリオン!!」


研究員達が青ざめる。


誰もが知っている。


七星将の中でも別格。


人間が勝てる相手ではない。


レオニクスが剣を握る。


アリアが双剣を抜く。


ガルドが笑う。


「ようやく大物か」


だがその笑みは引きつっていた。


強者だから分かる。


勝てるかどうか。


その答えを。


「正直言うぞ」


ガルドが低く言った。


「今の俺達じゃ勝てねぇ」


沈黙。


誰も否定できない。


それほどの怪物だった。


だが。


シオンだけは静かだった。


窓の外を見る。


遠く離れた荒野。


そこにいる男。


なぜだろう。


初めて見るはずなのに。


懐かしい。


胸が締め付けられる。


「……会ったことがある」


シオンが呟いた。


ルナリアが振り向く。


「え?」


「分からない」


シオンは頭を押さえる。


「でも、あいつを知ってる気がする」


その瞬間。


黒星晶が暴走した。


ドクン。


世界が止まる。


視界が反転する。


そして。


見えた。


血の海。


崩壊する空。


泣いている少女。


そして。


巨大な黒翼を背負ったノクス。


『頼む』


彼は言っていた。


『俺を止めてくれ』


シオンは息を呑む。


次の瞬間。


映像は消えた。


「何だったんだ……」


額から汗が流れる。


ルナリアが心配そうに近寄る。


「大丈夫?」


「……ああ」


だが全然大丈夫ではなかった。


確信した。


ノクスは敵じゃない。


少なくとも最初から敵だったわけじゃない。


あいつは。


何かを失っている。


自分と同じように。


その時だった。


轟音。


外壁が吹き飛んだ。


アストレア全体が震える。


研究員が絶叫した。


「侵入!!」


「侵入されました!!」


「早すぎる!!」


全員が凍り付く。


あり得ない。


外壁からここまで数キロ。


だが。


現実はもっと残酷だった。


作戦室入口。


巨大な鉄扉が歪む。


ミシミシと悲鳴を上げる。


そして。


破壊された。


ノクスが立っていた。


誰も気付かなかった。


誰も反応できなかった。


ただ歩いてきた。


それだけ。


それだけで最重要防衛線を突破した。


「化け物かよ……」


ガルドが苦笑する。


ノクスは全員を見回した。


殺意はない。


怒りもない。


ただ探している。


そして。


シオンを見つけた。


視線が交差する。


その瞬間。


世界が震えた。


シオンの黒星晶。


ノクスの星喰い。


互いが共鳴する。


まるで失われた何かを求めるように。


ノクスの瞳が揺れた。


「お前は……」


シオンも息を呑む。


「お前……」


記憶はない。


だが。


心だけが知っている。


何度も共に戦った。


何度もぶつかった。


何度も救った。


何度も救われた。


そんな感覚。


ノクスが頭を押さえる。


激しい頭痛。


脳裏に無数の映像。


崩壊。


再生。


月。


黒星王。


そして。


少年の笑顔。


「シオン……」


ノクスの膝が揺れた。


初めてだった。


最強の怪物が。


苦しそうな表情を見せたのは。


その瞬間。


空間が裂けた。


紫の魔法陣。


そこから現れる影。


リヴェル。


セラフィナ。


レオナ・ヴァーミリオン。


神聖教会七星将。


「やれやれ」


リヴェルが笑う。


「記憶が戻りそうだね」


セラフィナが槍を向ける。


「ノクス。命令です」


レオナは炎を纏う。


「裏切るなら焼くわよ?」


ノクスの瞳が細まった。


七星将。


仲間。


だが。


何かが違う。


彼らの向こう側に。


もっと大切なものがあった気がする。


その時。


シオンが一歩前へ出た。


誰も予想しなかった言葉を口にする。


「思い出せ」


全員が驚く。


ノクスが顔を上げる。


シオンは真っ直ぐ見つめていた。


敵じゃない。


怪物じゃない。


一人の人間として。


「お前は誰なんだ」


沈黙。


世界が息を止める。


そして。


ノクスの瞳から一筋の涙が零れた。


本人すら理由が分からないまま。


その涙だけが真実だった。


そして天空神殿エデン。


ゼノアは静かに立ち上がる。


「面白い」


黄金の瞳が細まる。


「ならば次は私が出よう」


世界を揺るがす最後の戦争。


その幕が。


静かに上がろうとしていた。

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