表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/166

「黒き将」

空が裂けた。


アストレア上空。


夜空を覆う黒い魔法陣から、一筋の流星が落下する。


それは光ではない。


闇だった。


星を呑み込むような漆黒。


見る者の本能に直接恐怖を刻み込む絶対的な圧力。


「来るぞ!!」


レオニクスが叫ぶ。


その瞬間。


轟音。


大地が沈む。


アストレア外壁から数キロ離れた荒野へ黒い流星が激突した。


衝撃波が街全体を揺らす。


建物が軋み、窓ガラスが砕け散る。


星晶灯が一斉に消灯した。


「な、何だ……!?」


「魔物襲撃か!?」


市民達が混乱する。


だが次の瞬間。


誰もが理解した。


違う。


これは災害ではない。


もっと恐ろしいものだ。


荒野の中心。


巨大なクレーター。


その中央に一人の男が立っていた。


黒い装甲。


蒼黒の外套。


全身を覆う星喰いの瘴気。


そして絶望そのもののような存在感。


星喰融合将。


ノクス・ヴァーミリオン。


七星将最強。


教団最終兵器。


世界を滅ぼすために生まれた怪物。


ノクスは静かに顔を上げた。


赤黒い瞳がアストレアを見つめる。


そして。


彼は呟いた。


「シオン……」


誰にも聞こえないほど小さく。


だが確かに。


その名前を。


自分でも理由が分からないまま。


胸が痛む。


知らないはずなのに。


会ったこともないはずなのに。


なぜか。


その名前だけは忘れられない。


「……誰だ」


ノクスは眉をひそめた。


頭痛。


記憶のノイズ。


世界そのものが拒絶しているような違和感。


その時。


天空神殿エデン。


玉座の間。


ゼノアが静かに笑った。


「やはり始まったか」


その背後には管理者アーカイヴの記録結晶。


無数の記録が浮かび上がっている。


ノクス。


シオン。


世界再生。


最後の観測者。


消された歴史。


本来なら存在しない記録。


ゼノアはそれらを眺めながら呟く。


「思い出されては困る」


黄金の瞳が冷たく細められる。


「まだ世界は完成していない」


その頃。


アストレア作戦本部。


警報が鳴り響いていた。


「対象確認!」


「星喰融合将ノクス・ヴァーミリオン!!」


研究員達が青ざめる。


誰もが知っている。


七星将の中でも別格。


人間が勝てる相手ではない。


レオニクスが剣を握る。


アリアが双剣を抜く。


ガルドが笑う。


「ようやく大物か」


だがその笑みは引きつっていた。


強者だから分かる。


勝てるかどうか。


その答えを。


「正直言うぞ」


ガルドが低く言った。


「今の俺達じゃ勝てねぇ」


沈黙。


誰も否定できない。


それほどの怪物だった。


だが。


シオンだけは静かだった。


窓の外を見る。


遠く離れた荒野。


そこにいる男。


なぜだろう。


初めて見るはずなのに。


懐かしい。


胸が締め付けられる。


「……会ったことがある」


シオンが呟いた。


ルナリアが振り向く。


「え?」


「分からない」


シオンは頭を押さえる。


「でも、あいつを知ってる気がする」


その瞬間。


黒星晶が暴走した。


ドクン。


世界が止まる。


視界が反転する。


そして。


見えた。


血の海。


崩壊する空。


泣いている少女。


そして。


巨大な黒翼を背負ったノクス。


『頼む』


彼は言っていた。


『俺を止めてくれ』


シオンは息を呑む。


次の瞬間。


映像は消えた。


「何だったんだ……」


額から汗が流れる。


ルナリアが心配そうに近寄る。


「大丈夫?」


「……ああ」


だが全然大丈夫ではなかった。


確信した。


ノクスは敵じゃない。


少なくとも最初から敵だったわけじゃない。


あいつは。


何かを失っている。


自分と同じように。


その時だった。


轟音。


外壁が吹き飛んだ。


アストレア全体が震える。


研究員が絶叫した。


「侵入!!」


「侵入されました!!」


「早すぎる!!」


全員が凍り付く。


あり得ない。


外壁からここまで数キロ。


だが。


現実はもっと残酷だった。


作戦室入口。


巨大な鉄扉が歪む。


ミシミシと悲鳴を上げる。


そして。


破壊された。


ノクスが立っていた。


誰も気付かなかった。


誰も反応できなかった。


ただ歩いてきた。


それだけ。


それだけで最重要防衛線を突破した。


「化け物かよ……」


ガルドが苦笑する。


ノクスは全員を見回した。


殺意はない。


怒りもない。


ただ探している。


そして。


シオンを見つけた。


視線が交差する。


その瞬間。


世界が震えた。


シオンの黒星晶。


ノクスの星喰い。


互いが共鳴する。


まるで失われた何かを求めるように。


ノクスの瞳が揺れた。


「お前は……」


シオンも息を呑む。


「お前……」


記憶はない。


だが。


心だけが知っている。


何度も共に戦った。


何度もぶつかった。


何度も救った。


何度も救われた。


そんな感覚。


ノクスが頭を押さえる。


激しい頭痛。


脳裏に無数の映像。


崩壊。


再生。


月。


黒星王。


そして。


少年の笑顔。


「シオン……」


ノクスの膝が揺れた。


初めてだった。


最強の怪物が。


苦しそうな表情を見せたのは。


その瞬間。


空間が裂けた。


紫の魔法陣。


そこから現れる影。


リヴェル。


セラフィナ。


レオナ・ヴァーミリオン。


神聖教会七星将。


「やれやれ」


リヴェルが笑う。


「記憶が戻りそうだね」


セラフィナが槍を向ける。


「ノクス。命令です」


レオナは炎を纏う。


「裏切るなら焼くわよ?」


ノクスの瞳が細まった。


七星将。


仲間。


だが。


何かが違う。


彼らの向こう側に。


もっと大切なものがあった気がする。


その時。


シオンが一歩前へ出た。


誰も予想しなかった言葉を口にする。


「思い出せ」


全員が驚く。


ノクスが顔を上げる。


シオンは真っ直ぐ見つめていた。


敵じゃない。


怪物じゃない。


一人の人間として。


「お前は誰なんだ」


沈黙。


世界が息を止める。


そして。


ノクスの瞳から一筋の涙が零れた。


本人すら理由が分からないまま。


その涙だけが真実だった。


そして天空神殿エデン。


ゼノアは静かに立ち上がる。


「面白い」


黄金の瞳が細まる。


「ならば次は私が出よう」


世界を揺るがす最後の戦争。


その幕が。


静かに上がろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ