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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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34/52

「最後の観測者」

「黒星王を抹殺せよ」


「月の継承者を確保せよ」


「必要であれば世界を滅ぼして構わない」


最高司祭ゼノアの命令は、重く、冷たく、絶対だった。


玉座の間を支配する沈黙。


七星将達は頭を垂れている。


誰一人として逆らわない。


逆らえない。


それがエクリプス教団だった。


だが、その頃。


アストレア地下深く。


中央研究院最下層作戦室では、別の真実が語られようとしていた。


重苦しい空気が流れている。


誰も言葉を発しない。


巨大な円卓を囲みながら、全員が同じことを考えていた。


ここから先の戦いは今までとは違う。


世界そのものが敵になる。


その現実が、じわじわと全員の心を締め付けていた。


シオンは腕を組んだまま黙っている。


ルナリアは隣で静かに座っていた。


アリアは壁際に寄り掛かりながら目を閉じている。


セラフィナはまだどこか落ち着かない様子だった。


ガルドだけが腕を組みながら天井を見上げている。


そして。


レオニクスがゆっくりと立ち上がった。


その表情は今までで一番重かった。


「話さなければならないことがある」


誰も口を挟まない。


レオニクスは静かに星晶演算機へ手を置いた。


青い光が広がる。


空中に巨大な映像が浮かび上がった。


それは世界地図だった。


だが現在の地図ではない。


見たこともない大陸。


見たこともない文明。


見たこともない都市。


エリナが目を見開く。


「なにこれ……」


レオニクスは答えた。


「前の世界だ」


静寂。


全員が息を呑む。


前の世界。


その言葉だけで空気が変わった。


シオンの胸が脈打つ。


ドクン。


黒星晶が反応している。


まるでこの話を知っているかのように。


レオニクスは続けた。


「今から話すことは禁書にも記されていない」


「教団すら知らない真実だ」


映像が変わる。


巨大な都市。


空を覆う飛空要塞。


今の文明を遥かに超える技術。


人々は笑っている。


平和そうだった。


だが。


次の瞬間。


空が裂けた。


巨大な赤い瞳。


星喰い。


世界が悲鳴を上げる。


文明は崩壊した。


都市は消えた。


海は蒸発した。


大陸は砕けた。


ルナリアが息を呑む。


第二章で見た光景。


だが今回は違う。


もっと鮮明だった。


もっと現実だった。


「これが一度目の終焉」


レオニクスが静かに言う。


映像は続く。


二度目。


三度目。


四度目。


五度目。


何度も。


何度も。


文明は生まれ。


発展し。


そして滅んでいく。


誰も声を出せなかった。


絶望だった。


人類は勝てていない。


一度も。


一度たりとも。


「じゃあ……」


エリナが震える声で言う。


「結局全部滅んでるってこと?」


レオニクスは頷いた。


「そうだ」


その答えは残酷だった。


ガルドが舌打ちする。


「笑えねぇ話だな」


だが。


レオニクスは首を横に振った。


「違う」


全員が彼を見る。


レオニクスの瞳がシオンへ向いた。


「一度だけ例外があった」


空気が止まる。


シオンの胸が大きく脈打った。


ドクン――


映像が変わる。


崩壊した世界。


燃える空。


砕けた大地。


そして。


その中心に立つ一人の少年。


黒髪。


蒼い瞳。


血だらけの身体。


全身に黒い光を纏っている。


誰が見ても分かった。


シオンだった。


いや。


シオンでありシオンではない。


別の世界のシオン。


最後の観測者。


黒星王。


ルナリアが思わず立ち上がる。


「シオン……」


映像の中の少年は傷だらけだった。


立っていることすら奇跡に見える。


それでも前を向いている。


その先には星喰い。


世界の終焉。


絶対に勝てないはずの存在。


だが。


少年は戦っていた。


一人で。


世界の全てを背負うように。


レオニクスが静かに言う。


「唯一成功した世界だ」


沈黙。


誰も理解できない。


シオン自身も。


「成功……?」


掠れた声。


レオニクスは頷いた。


「お前は星喰いを退けた」


その瞬間。


シオンの頭に激痛が走る。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


記憶が流れ込む。


知らないはずの記憶。


だが確かに自分のもの。


泣いているルナリア。


笑っているガルド。


アリア。


エリナ。


仲間達。


そして。


自分。


「ぐっ……!」


頭を押さえる。


苦しい。


視界が揺れる。


だが止まらない。


記憶はさらに流れ込んでくる。


最後の戦い。


星喰い。


崩壊する世界。


そして。


自分が何かを選ぶ瞬間。


「思い出せ……ない……」


シオンの声が震える。


あと少しなのに。


届きそうなのに。


何かが欠けている。


レオニクスはそんなシオンを見つめながら続けた。


「だが代償があった」


その言葉に全員が顔を上げる。


レオニクスの表情は暗かった。


重かった。


「お前は世界を救った」


静かな声。


「だが」


一拍。


「世界法則を書き換えた」


ルナリアの瞳が揺れる。


アリアも顔を上げる。


セラフィナが息を呑む。


誰も意味を理解できない。


レオニクスは続けた。


「世界は救われた」


「人類は生き残った」


「文明も続いた」


それは本来なら英雄譚だ。


称賛されるべき話だ。


だが。


レオニクスは苦しそうに目を閉じた。


「その代わり」


沈黙。


そして。


最も残酷な真実を告げた。


「誰もお前を覚えていない世界になった」


静寂。


誰も動けない。


シオンも。


ルナリアも。


アリアも。


言葉を失っていた。


シオンの胸が締め付けられる。


理由は分からない。


だが。


その言葉がどうしようもなく悲しかった。


涙が出そうになるほど。


苦しかった。


まるで本当に失ったように。


ルナリアも同じだった。


胸が痛む。


知らないはずなのに。


その光景を見たことがないはずなのに。


なぜか泣きそうになる。


なぜか。


どうしようもなく悲しい。


「そんなの……」


ルナリアが呟く。


「そんなの酷すぎるよ……」


その言葉に。


シオンは初めて顔を上げた。


そして気付く。


なぜ自分が最後の観測者と呼ばれるのか。


なぜ黒星晶が自分を選んだのか。


なぜ世界が自分を恐れるのか。


その答えが。


少しずつ見え始めていた。


そして同時に。


天空神殿エデンでは。


星喰融合将ノクス・ヴァーミリオンが静かに立ち上がる。


彼の脳裏にもまた。


同じ少年の姿が浮かんでいた。


黒髪。


蒼い瞳。


そして。


懐かしい笑顔。


「……シオン」


誰にも聞こえない声。


失われた記憶の欠片が。


静かに動き始めていた。

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