開戦
バキィィィィィン――――!!
漆黒の繭が砕け散った。
神域全体へ終焉の力が解き放たれ、空間そのものが悲鳴を上げる。
契約樹は大きく傾き、無数の世界へ繋がる光の糸が次々と断ち切られていく。
ノアが叫ぶ。
「全世界接続率四十二%!」
「これ以上切れたら第五百世界が崩壊します!」
ルクスも歯を食いしばる。
「時間がありません!」
砕けた繭の中心。
そこにはもうノクティスの姿はなかった。
代わりに立っていたのは、三メートルほどの黒い人影。
人型ではある。
だが、その輪郭は絶えず崩れ、黒い粒子となって周囲へ溶け続けていた。
全身には赤黒い契約文字が浮かび、その背中から六枚の漆黒の翼がゆっくりと広がる。
顔には目も口もない。
ただ額だけに、一つの黄金の瞳が静かに開いていた。
その瞳がシオンを映した瞬間、神域の重力が何倍にも増した。
ドォォォォン――――!!
ヴォルグが片膝をつく。
「ぐっ……!」
レオニクスも剣を地面へ突き立て、辛うじて身体を支える。
ルナリアは呼吸すら苦しそうだった。
「これが……。」
「終焉の本体……。」
始祖契約者は静かに頷く。
「終焉意思。」
「ノクティスの身体を完全に支配した姿だ。」
終焉意思は静かに右手を上げた。
『命とは愚かだ。』
『何度滅びても。』
『何度絶望しても。』
『なお生きようとする。』
その声は神域全体から響いているようだった。
『理解できぬ。』
『故に終わらせる。』
シオンは一歩前へ出る。
「違う。」
終焉意思は動きを止めた。
「お前は理解しようとしなかっただけだ。」
『理解は不要。』
『結果だけあればいい。』
「それが間違いなんだ。」
シオンは剣をゆっくり構える。
「人は失敗する。」
「泣く。」
「苦しむ。」
「それでも。」
「また誰かを好きになって。」
「笑って。」
「前を向ける。」
「だから命は強い。」
終焉意思は何も答えなかった。
代わりに神域の空が完全な闇へ染まる。
『世界終焉権限。』
『第一段階、解放。』
その瞬間。
神域の上空へ巨大な黒い円環が現れた。
大きさは契約樹すら覆い尽くすほど。
円環の内側では無数の世界が映し出されている。
そして、一つ、また一つと光が消えていく。
ノアが絶叫した。
「第八十二世界消失!」
「第百四十一世界も!」
「存在反応が消えています!」
イヴは青ざめた。
「消滅じゃない。」
「歴史ごと消されてる!」
アストラは静かに目を閉じる。
「存在したという事実まで……。」
「終焉権限。」
「世界そのものを書き換える力か。」
シオンは終焉意思を真っ直ぐ見据える。
「もう終わりだ。」
『何?』
「お前は一つだけ間違えた。」
『答えよ。』
「俺は一人じゃない。」
その瞬間だった。
「当然だろ。」
ヴォルグが立ち上がる。
血晶を纏い直し、大剣を肩へ担ぐ。
「主人公だけに格好つけさせるか。」
レオニクスも折れた剣を捨て、新たな光剣を創り出した。
「最後まで共に戦う。」
ルナリアは涙を拭き、月光を天へ掲げる。
「私はあなたの隣にいる。」
アリアは笑いながら双剣を回す。
「ちゃんと帰ってきてもらわないと困るしね。」
ノアとルクスの創世術式が重なり、巨大な魔法陣が神域を覆う。
「世界樹再接続開始!」
「シオンさん!」
「道を作ります!」
イヴとリーヴァも生命の光を解き放つ。
「生命契約、最大解放!」
「希望の継承者へ!」
七人の力が一つになる。
その光景を見た終焉意思は、初めて小さく揺らいだ。
『……共鳴。』
『不完全な命同士が。』
『ここまで力を増幅するのか。』
シオンは静かに笑う。
「これが仲間だ。」
「これが希望だ。」
胸に刻まれた七色の紋章が眩く輝き始める。
創世。
契約。
生命。
月光。
血晶。
観測。
そして希望。
七つの力が一つへ重なり、新たな光が神域を照らした。
始祖契約者はその姿を見て、安堵したように微笑む。
「エイン。」
「アダム。」
「見えるか。」
「君達が託した未来は。」
「ここまで来た。」
終焉意思は静かに両手を広げる。
『ならば証明してみせよ。』
『希望が。』
『終焉を超えられると。』
シオンも剣を構えた。
その瞳に迷いはない。
「証明する。」
「俺達が。」
「未来を選ぶ。」
次の瞬間。
シオンは光となって駆け出し、終焉意思も漆黒の奔流となって迎え撃つ。
二つの光が激突した瞬間、神域はかつてないほどの閃光に包まれた。
世界の未来を決める最後の戦いが――
ついに幕を開けた。




