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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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神の涙

神域を包む純白の光は、ゆっくりと静まっていった。


眩しさが薄れた先に立っていたのは、一人の青年だった。


年齢は二十歳ほど。


白銀の髪が肩まで流れ、白い外套をまとっている。


その姿には神々しい威圧感などない。


どこにでもいる、ごく普通の青年にしか見えなかった。


しかし、その瞳だけは違った。


右目には無数の星空が映り、左目には世界が生まれ、滅びていく光景が静かに流れている。


誰も言葉を発せない。


神域そのものが、その存在へ跪いていた。


青年はシオンを見つめ、どこか安心したように微笑む。


「……ようやく会えた。」


「私の最後の希望。」


シオンは剣を下ろさなかった。


「お前が始祖契約者なのか。」


青年は静かに頷く。


「そう呼ばれている。」


「名前は?」


「もう忘れてしまった。」


青年は少し困ったように笑う。


「神になる前の名前を、私は思い出せない。」


その言葉にアストラが静かに頭を垂れた。


「……始祖様。」


「やめてくれ。」


青年は苦笑する。


「私はもう、そんな存在じゃない。」


「私はただ。」


「世界を見届け続けた、最後の観測者に過ぎない。」


その一言でシオンの表情が変わる。


「最後の観測者……?」


「アダムじゃないのか。」


青年はゆっくり首を横へ振る。


「アダムは最後の観測者ではない。」


「最後の観測者という役目を、彼が受け継いだだけだ。」


「最初の観測者は。」


「私だった。」


神域が静まり返る。


誰も知らなかった真実だった。


青年は契約樹へ視線を向ける。


「私は世界を創った。」


「私は契約を結んだ。」


「私は終焉を許した。」


「そして。」


「私は誰よりも多くの命が消える姿を見続けた。」


その穏やかな声には、何万年という時間の重みが滲んでいた。


「数え切れない世界。」


「数え切れない命。」


「数え切れない別れ。」


「私は一度も泣かなかった。」


「泣く資格がないと思っていたから。」


シオンは静かに青年を見つめる。


「……違う。」


青年が顔を上げる。


「何が違う?」


「泣く資格なんて誰が決めた。」


シオンは一歩前へ歩き出した。


「お前だって苦しかったんだろ。」


「ずっと一人で。」


青年は答えなかった。


シオンはさらに続ける。


「アダムもそうだった。」


「エインも。」


「カインも。」


「みんな世界を守ろうとして、一人で苦しんでた。」


「でも。」


「もう終わりにしよう。」


青年の瞳がわずかに揺れる。


「一人で背負うのは。」


「もう終わりだ。」


その言葉が神域へ響いた瞬間だった。


青年の頬を、一筋の雫が静かに流れ落ちる。


ポタリ――。


その涙が契約樹の根元へ落ちた瞬間、奇跡が起きた。


黒く侵食されていた契約樹が、ゆっくりと本来の黄金色を取り戻し始める。


切れていた世界の光も一本、また一本と繋がっていく。


イヴは目を見開いた。


「涙が……。」


ノルンは静かに微笑む。


「そうか。」


「ようやく。」


「泣けたんですね。」


青年は自分の頬へ触れた。


「……温かい。」


「これが。」


「涙。」


何万年もの間、感情を押し殺してきた存在。


世界を創り、世界を見送り続けた神。


その神が、初めて涙を流した。


アストラは静かに膝をつき、目を閉じる。


オルフェウスも、小さく笑った。


「これで……。」


「ようやく終われますね。」


しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。


ドクン――。


契約樹の奥底から、今までとは異質な鼓動が響く。


その鼓動には温もりがなかった。


怒りも悲しみもない。


ただ、底知れない悪意だけが存在していた。


青年の表情が初めて険しくなる。


「……遅かった。」


シオンが振り向く。


「何だ?」


青年は契約樹の最深部を見つめたまま、小さく呟いた。


「私が眠っている間に。」


「終焉は。」


「意思を持ってしまった。」


その瞬間、契約樹の中心が大きく裂ける。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――――!!


黒い光が神域を飲み込み、契約樹の最奥から低い笑い声が響いた。


『ようやく……。』


『ようやく、この時が来た。』


その声は終焉ではない。


カインでもない。


始祖契約者ですら表情を強張らせる、未知の存在。


純白だった神域が、ゆっくりと闇へ染まっていく。


青年はシオンを振り返り、静かに言った。


「ここから先は。」


「私達が知る神話ではない。」


「本当の敵が目覚める。」


シオンは剣を強く握り締める。


契約神。


創世神。


観測者。


終焉。


そのすべてを超えた存在との戦いが、ついに始まろうとしていた。

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