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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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神々の選択

重い足音が神殿の奥から響く。


一歩。


また一歩。


そのたびに神殿全体が微かに震え、壁一面へ刻まれた古代文字が黄金から紅へと色を変えていく。


シオンは剣を構えたまま、その暗闇を見据えた。


「来る。」


静かな声だった。


しかし、その一言だけで仲間達は自然と陣形を組む。


レオニクスは前衛へ。


ヴォルグは左側を固め、アリアは天井近くの柱へ飛び移る。


ルナリアは最後方で魔力を練り始め、ノアとルクスは神殿全体へ創世術式を展開した。


イヴとリーヴァは原初文字を詠唱し、結界を形成する。


誰も指示していない。


それでも全員が、自分の役割を理解していた。


やがて暗闇の中から、一人の老人が姿を現す。


白い長髪。


純白の法衣。


深い皺の刻まれた顔。


その瞳だけは、夜空のような深い蒼だった。


老人は七人を見渡し、静かに微笑む。


「ようこそ。」


「継承者達よ。」


シオンは警戒を解かない。


「お前は誰だ。」


老人はゆっくりと胸へ手を当てた。


「私は《審判者ミカエル》。契約の神殿を守る最後の番人だ。」


オルフェウスが僅かに目を見開く。


「まだ……存在していたのか。」


ミカエルは穏やかに頷く。


「久しいな、オルフェウス。」


「何万年ぶりになるだろう。」


「お前は……消滅したはずだ。」


「そう思われていた方が都合が良かった。」


その穏やかな笑みとは裏腹に、神殿へ張り詰めた緊張感が走る。


ミカエルはシオンへ視線を移した。


「第一試練は見事だった。」


「君は力ではなく、意思を証明した。」


「だが。」


「継承者になるには、それだけでは足りない。」


「第二試練か。」


「その通り。」


ミカエルは杖を静かに床へ突いた。


コン――。


澄んだ音が神殿へ響く。


次の瞬間、周囲の景色が一変した。


神殿は消え、七人は広大な草原へ立っていた。


青空。


心地よい風。


遠くにはセレスティアによく似た街並みが見える。


ルナリアが驚いたように周囲を見回した。


「ここ……。」


「セレスティア?」


「違う。」


シオンはすぐに否定した。


「似てるけど違う。」


ミカエルの声だけが空から響く。


『これは可能性の世界。』


『もし、お前達が望みを捨てた未来だ。』


その瞬間、街から歓声が聞こえた。


子ども達が笑いながら走り回っている。


市場には活気があり、人々は穏やかに暮らしていた。


戦争もない。


魔物もいない。


誰も苦しんでいない。


ヴォルグが眉をひそめる。


「平和じゃねぇか。」


「……ああ。」


シオンも違和感を覚えていた。


あまりにも平和すぎる。


その時、一人の少女が駆け寄ってきた。


「シオン!」


懐かしい声だった。


振り向いたシオンは目を見開く。


「母さん……?」


そこに立っていたのは、幼い頃に失った母だった。


優しく笑いながら、シオンの頬へ手を添える。


「もう戦わなくていいの。」


「ここなら、誰も死なない。」


「みんな幸せになれる。」


シオンは何も言えなかった。


失ったはずの温もり。


二度と会えないと思っていた笑顔。


胸の奥が激しく揺れる。


一方、ルナリアの前には幼い頃に失った家族が現れ、レオニクスの前には祖国の王が立っていた。


ヴォルグの前には、戦争で命を落とした仲間達が笑っている。


アリアの前には、暗殺者になる前の両親がいた。


ノアとルクスも、それぞれ二度と会えなかった恩師と再会していた。


誰もが立ち尽くす。


その光景はあまりにも現実だった。


ミカエルの声が静かに響く。


『第二試練。』


『神々の選択。』


『世界を救うために進むか。』


『それとも、大切な者達と、この平和な世界で永遠に生きるか。』


『選べ。』


空気が止まる。


シオンの母は優しく微笑みながら言った。


「もう十分頑張ったでしょう。」


「少しだけ休みなさい。」


「あなたは、幸せになっていいの。」


その言葉に、シオンはゆっくりと目を閉じた。


もし、この世界が本物なら。


もう二度と誰も失わなくて済む。


仲間達も笑って暮らせる。


戦う必要もない。


その誘惑は、どんな敵よりも強かった。


しかし——。


シオンは静かに母の手を握ると、優しくその手を外した。


「……ごめん。」


母は悲しそうに笑う。


「どうして?」


シオンは真っ直ぐ前を向いた。


「俺が守りたいのは、過去じゃない。」


「未来なんだ。」


その一言が響いた瞬間、目の前の世界へ一本の亀裂が走る。


そして、シオンの選択に呼応するように、ルナリアも、レオニクスも、ヴォルグも、アリアも、それぞれ大切な人へ別れを告げ始めた。


七人全員が、涙を流しながらも前を向く。


それこそが——


継承者としての、本当の覚悟だった。

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