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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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契約者の影

契約の玉座。


その言葉が響いた瞬間、第零世界を包む空気が一変した。


空間そのものが重く沈み込み、呼吸さえ苦しくなるほどの圧力が七人へ襲いかかる。


誰も姿を見ていない。


それでも全員が理解した。


本当の敵は、まだ一度も姿を現していなかった。


シオンは黄金の左目を細める。


「……見える。」


「何が見えるの?」


ルナリアが隣へ並ぶ。


シオンは目を閉じ、静かに呼吸を整えた。


アダムから受け継いだ《観測の力》。


その力が、世界の奥に隠された真実を映し出していく。


黒い玉座。


果てのない白い神殿。


その中央に、一人の人物が腰掛けている。


顔は光に包まれて見えない。


だが、その人物は足を組み、まるでシオンが来ることを知っていたかのように静かに笑っていた。


『遅かったね。』


その声は穏やかだった。


敵意すら感じられない。


だが、その穏やかさこそが不気味だった。


シオンは低く問い掛ける。


「お前は誰だ。」


『その質問に答えるには、まだ少し早い。』


『今の君では、私を理解できない。』


「だったら理解できるように話せ。」


『焦る必要はない。』


『君はいずれ、私と同じ答えへ辿り着く。』


その瞬間、映像は途切れた。


シオンはゆっくり目を開く。


呼吸が乱れている。


額には汗が滲んでいた。


「大丈夫?」


ルナリアが心配そうに覗き込む。


「ああ……。」


シオンは頷いたものの、その表情は険しい。


「あいつ……俺を知ってた。」


オルフェウスが静かに目を見開く。


「やはり。」


「契約者は目覚めていたのか。」


シオンは鋭い視線を向ける。


「知ってることを全部話せ。」


しばらく沈黙が流れた。


やがてオルフェウスは深く息を吐き、静かに口を開く。


「契約者とは名前ではない。」


「役割だ。」


「世界が始まる以前から存在する、法則の管理者。」


ノアが眉をひそめる。


「管理者の頂点……。」


「違う。」


オルフェウスは首を横へ振る。


「管理者は世界が生まれてから造られた存在だ。」


「契約者は、それより前。」


「世界という概念すら存在しない時代から在る。」


リーヴァは苦しそうに目を伏せる。


「だから兄さんも……。」


「契約者には逆らえなかった。」


「そうだ。」


オルフェウスの声は静かだった。


「アダムも。」


「エインも。」


「誰一人、契約者には勝てなかった。」


ヴォルグが鼻で笑う。


「勝てなかった?」


「だったら俺達が初めて勝ちゃいい。」


その一言に、オルフェウスは初めて小さく笑った。


「……本当に。」


「エインに似た仲間ばかりだ。」


「褒め言葉として受け取っとく。」


ヴォルグは大剣を肩へ担ぎ直す。


その時だった。


ゴォォォォォォォ……


世界樹が再び震える。


空中に浮かぶ世界の光点が、一つ、また一つと黒く染まっていく。


ルクスは演算を続けながら叫んだ。


「まずい!」


「第五百世界も侵食が始まっています!」


シオンの表情が変わる。


「俺達の世界が?」


ノアは苦しそうに頷く。


「はい。」


「セレスティアだけじゃありません。」


「世界全体が契約の対象になっています。」


イヴは静かに《生命の核》へ手を添えた。


「契約者は。」


「生命の流れそのものを書き換え始めています。」


「どういうことだ。」


シオンが尋ねる。


「今までは命が尽きれば、第零世界へ還っていました。」


「でも今は違う。」


「命そのものが、どこか別の場所へ集められている。」


その言葉にリーヴァが息を呑む。


「まさか……。」


「《魂の保管庫》。」


オルフェウスの表情が険しくなる。


「あり得ない。」


「契約者は魂まで集めているのか。」


「魂?」


シオンが聞き返す。


オルフェウスは静かに頷いた。


「世界が滅びても、魂は循環する。」


「それだけは誰にも触れられない法則だった。」


「だが今。」


「その法則まで書き換えられている。」


「つまり。」


シオンは拳を握り締める。


「死んだ人間すら。」


「眠れないってことか。」


誰も答えなかった。


その沈黙こそが答えだった。


ルナリアは小さく目を閉じる。


「そんなの……。」


「あまりにも残酷じゃない。」


イヴも静かに涙を浮かべる。


「兄さんが命を懸けて守った世界が……。」


「また壊されようとしてる。」


その瞬間だった。


契約の神殿がある北の空から、一筋の黒い雷が落ちる。


轟音と共に大地が裂け、その裂け目の奥から巨大な石造りの扉がゆっくりと姿を現した。


高さ数百メートルはあるだろうか。


扉一面には古代文字が刻まれ、中央には二つの鍵穴が並んでいる。


一つは黄金。


もう一つは漆黒。


オルフェウスは静かに漆黒の鍵を握り締めた。


「契約の神殿が……。」


「私達を呼んでいる。」


シオンも黄金の鍵を見つめる。


アダムが命を懸けて託した鍵。


その意味を理解する時が来た。


シオンはゆっくり剣を鞘へ納めると、仲間達を振り返った。


「行こう。」


「ここから先が、本当の最後の戦いだ。」


七人は静かに頷く。


そして、契約の神殿へ続く巨大な扉へ向かって、一歩ずつ歩き始めた。


その扉の向こうで待つ者こそ――


世界が始まる以前から、すべてを操り続けてきた真の契約者だった。

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