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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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イヴの願い

「兄さん!!」


イヴの叫びが第零世界へ響く。


黒い闇はアダムの身体を完全に包み込み、その姿は徐々に漆黒の繭へと変わっていく。


原初世界樹は激しく震え、枝から無数の葉が舞い落ちた。


「兄さん!」


イヴは涙を流しながら駆け寄ろうとする。


しかし――


「行くな!」


シオンがその腕を掴んだ。


「でも!」


「兄さんが!」


「今近付けば、お前まで呑まれる!」


イヴは唇を強く噛み締める。


分かっていた。


あれはもう、兄を覆う終焉ではない。


もっと古く、もっと深い”何か”が目覚めようとしている。


リーヴァは静かに杖を握り締めた。


「……契約が。」


「破られ始めています。」


ノアが振り返る。


「契約って、一体何なんですか!」


リーヴァは苦しそうに目を閉じた。


「創世以前。」


「世界には命も終焉もありませんでした。」


「存在していたのは、一つの完全な存在だけ。」


「その存在が、自らを二つへ分けた。」


「命と。」


「終焉へ。」


ルナリアは息を呑む。


「最初から敵同士だったんじゃない……。」


「違います。」


リーヴァは静かに首を振る。


「元は、一つだったんです。」


「だから。」


「互いを求め続ける。」


「融合しようとする。」


シオンは黄金に染まった左目で黒い繭を見つめる。


「それが……契約。」


「ええ。」


「命が存在する限り。」


「終焉も存在する。」


「終焉を消せば命も消える。」


「命だけを残しても、世界の均衡は崩れる。」


「それが《原初の契約》です。」


重い沈黙が流れる。


誰も言葉を返せない。


彼らが戦ってきた相手は、悪ではなかった。


世界そのものを成り立たせる法則だった。


その時。


黒い繭の中から微かな声が響く。


「……イヴ。」


全員が顔を上げる。


「兄さん!」


イヴが涙を浮かべる。


「聞こえるの!」


「まだ。」


「私がいる。」


アダムだった。


終焉へ呑まれながらも、まだ意識だけは残っている。


「イヴ。」


「泣くな。」


「兄さん……。」


「私は。」


「最後まで。」


「お前の兄だ。」


イヴはその場へ崩れ落ちた。


「嫌。」


「もう誰も失いたくない。」


「エインも。」


「父さんも。」


「母さんも。」


「兄さんまで。」


「嫌だよ……。」


アダムは静かに微笑む。


「泣き虫だな。」


「昔から。」


「でも。」


「その涙が。」


「命を守る。」


その時だった。


シオンの胸元で《生命の核》が強く脈打つ。


ドクン――。


七色の光がイヴを包み込んだ。


彼女の涙が光へ変わり、一粒ずつ大地へ落ちていく。


その場所から、小さな花が咲き始めた。


白い花だった。


一輪。


二輪。


十輪。


数え切れないほどの花が庭園へ広がっていく。


リーヴァは涙を流した。


「……生命の花。」


「何ですか、それ。」


ステラが尋ねる。


「命が本当に誰かを想って流した涙だけが。」


「咲かせられる花です。」


「数万年。」


「一度も咲かなかった。」


原初生命達も嬉しそうに花の周りを飛び始める。


枯れていた庭園へ、少しずつ色が戻っていく。


イヴは震える手でその花へ触れた。


「兄さん。」


「見える?」


アダムの声が微かに届く。


「ああ……。」


「綺麗だ。」


「昔。」


「四人で育てた花畑みたいだ。」


イヴは泣きながら笑う。


「また。」


「四人で見よう。」


「今度は。」


「誰も欠けないで。」


その言葉に、黒い繭が僅かに震えた。


闇が少しだけ後退する。


シオンはその変化を見逃さなかった。


「戻れる。」


「アダム!」


「まだ終わってない!」


しかし次の瞬間――


『愚かな命よ。』


闇の奥から冷たい声が響く。


『涙では。』


『契約は壊せない。』


黒い繭へ無数の亀裂が走る。


その隙間から、今までとは比較にならないほど濃密な終焉が溢れ出した。


空間が悲鳴を上げる。


時間が止まる。


原初世界樹の幹へ、一本の巨大な亀裂が走った。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ――――!!!


リーヴァは絶望したように呟く。


「そんな……。」


「原初世界樹が……。」


「倒れる。」


イヴも顔色を失う。


「駄目!」


「あの樹が倒れたら!」


「全ての世界が――」


最後まで言葉は続かなかった。


世界を支える原初世界樹が、ゆっくりと傾き始めたのである。

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