創世を断つ者
黒い神剣が空を埋め尽くす。
一本ごとに山脈ほどの大きさを持ち、その刀身には世界法則を刻む古代文字が浮かび上がっていた。
アダムは静かに手を振る。
「終われ。」
その一言で、数百の神剣が一斉に降り注いだ。
轟ォォォォォォォォン!!
第零世界が揺れる。
大地が裂け、花園は吹き飛び、原初世界樹の枝が次々と砕け散っていく。
「ルナリア!」
シオンが叫ぶ。
「分かってる!」
ルナリアは両手を天へ掲げた。
「《月天結界》!」
蒼白い月光が空へ広がり、巨大な結界が仲間達を包み込む。
次の瞬間、神剣が結界へ激突した。
ガァァァァン!!
凄まじい衝撃が走る。
結界は軋み、無数の亀裂が広がる。
ルナリアの口元から血が零れた。
「ぐっ……!」
「無理するな!」
シオンが支えようとする。
ルナリアは首を振った。
「このくらい……!」
「止められる!」
しかし。
二本目。
三本目。
四本目。
神剣は止まらない。
「砕ける!」
ノアが叫ぶ。
「あと数秒しか保ちません!」
その瞬間だった。
「任せろ。」
レオニクスが一歩前へ出る。
白銀の剣を静かに構える。
深く息を吸う。
周囲の空気が静まり返った。
「王国剣術――。」
「終式。」
「《天星断》。」
白銀の閃光が天へ駆け上がる。
一本の斬撃。
それだけだった。
だが、その一撃は空を覆う神剣をまとめて切り裂いた。
ズバァァァァァッ!!
数十本の神剣が真っ二つとなり、光の粒となって消滅する。
アダムは静かに目を細めた。
「……美しい剣だ。」
レオニクスは剣を下ろさない。
「誉められても嬉しくない。」
「そうか。」
アダムは再び指を動かす。
砕けた神剣が光となって集まり、今度は一振りの巨大な黒剣へ姿を変えた。
その長さは原初世界樹の枝にも届く。
「これは。」
ルクスの顔色が変わる。
「まずい!」
「法則を収束させています!」
「何が起こる!」
シオンが叫ぶ。
「世界そのものを斬ります!」
その言葉が終わるより早く、アダムは黒剣を静かに振り下ろした。
ゴォォォォォォォン――!!
音が消えた。
世界が二つに割れる。
誰も斬られていない。
しかし、大地そのものが左右へ裂け、果てしない奈落が現れる。
原初世界樹の根まで断ち切られ、黄金の樹液が滝のように流れ落ちていく。
イヴは悲鳴を上げた。
「世界樹が!」
リーヴァは膝をつく。
「兄さん……!」
「そこまで……!」
アダムの表情は変わらない。
「創世を維持する限り。」
「終焉は繰り返す。」
「だから。」
「根源から断つ。」
「それが最も優しい。」
シオンはその言葉を聞き、ゆっくりと剣を握り直した。
怒りではない。
悲しみでもない。
目の前にいる男は、本気で救おうとしている。
だからこそ止めなければならない。
「アダム。」
静かな声だった。
「お前。」
「一度でも。」
「誰かと笑いながら飯食ったことあるか。」
アダムは僅かに目を動かす。
「何だ。」
「その質問は。」
「あるか。」
短い沈黙。
「……あった。」
「イヴと。」
「エインと。」
「リーヴァと。」
「毎日。」
シオンは小さく笑った。
「その時間。」
「無駄だったか。」
アダムは答えない。
「イヴが笑ってた時間。」
「エインと喧嘩した時間。」
「四人で過ごした時間。」
「全部。」
「消したい過去なのか。」
初めてだった。
アダムの瞳が大きく揺れる。
映るのは、遠い昔の記憶。
花畑を走るイヴ。
笑い転げるエイン。
呆れながらも微笑むリーヴァ。
そして、自分。
「……違う。」
小さな声だった。
「違う。」
シオンはさらに一歩踏み出す。
「だったら。」
「終わらせるな。」
「世界は。」
「苦しいことだけじゃない。」
「お前自身が。」
「一番知ってるはずだ。」
アダムは静かに拳を握る。
「……黙れ。」
「兄さん。」
イヴが涙を流しながら手を伸ばす。
「もう。」
「一人で背負わないで。」
「私達は。」
「家族でしょう。」
その言葉を聞いた瞬間。
アダムの終焉の力が大きく揺らいだ。
しかし次の瞬間。
黄金の瞳が漆黒へ染まる。
リーヴァの表情が凍り付く。
「しまった……!」
「終焉が。」
「兄さんの心へ入り込んだ!」
アダムは苦しそうに頭を押さえる。
「下がれ……!」
「イヴ!」
「シオン!」
「早く……!」
「私から!」
「離れろ!」
終焉の力が制御を失い、黒い瘴気が暴走を始める。
世界最初の観測者は、今まさに終焉そのものへ呑み込まれようとしていた。




