神々の戦場
「その答えを。」
「見せてみろ。」
アダムが静かに右手を前へ差し出す。
その瞬間だった。
ドクン――。
第零世界そのものが脈打つ。
原初世界樹の枝が大きく揺れ、空を覆っていた漆黒が渦を巻き始める。
黒雲ではない。
世界法則そのものが形を変え、巨大な球体となって空へ浮かび上がっていた。
リーヴァが青ざめる。
「まずい……。」
「兄さんが。」
「第零世界そのものを書き換えようとしてる。」
ノアが息を呑む。
「あれは魔法じゃありません。」
「世界演算です。」
「法則を書き換える。」
「神だけが扱える力。」
アダムは静かにシオンを見つめる。
「剣を振るう必要はない。」
「お前達は。」
「ここで終わる。」
パチン――。
指先が軽く鳴る。
その直後。
ゴォォォォォォォン!!
重力が何十倍にも跳ね上がった。
「ぐっ……!」
ヴォルグが片膝をつく。
レオニクスも剣を地面へ突き立て、辛うじて身体を支える。
アリアは屋根を跳ぶような軽い動きが完全に封じられ、その場から一歩も動けない。
ステラはリシアへしがみついた。
「重い……!」
「大丈夫。」
リシアは必死に抱き寄せる。
「私から離れないで。」
シオンだけは歯を食いしばりながら立ち続けていた。
《創世の継承印》が黄金色に輝き、身体へ掛かる重圧を僅かに打ち消している。
アダムは感情のない声で告げる。
「これが。」
「世界法則。」
「重力。」
「時間。」
「命。」
「全て。」
「私の意思で変えられる。」
「つまり。」
「ここでは。」
「私は神だ。」
シオンは苦しそうに笑った。
「自分で。」
「神なんて言う奴は。」
「大体ろくでもねぇ。」
アダムの眉が僅かに動く。
「なら。」
「試してみろ。」
「覆せるなら。」
「覆してみせろ。」
その瞬間。
重力がさらに増した。
大地が悲鳴を上げ、花畑が押し潰される。
原初生命達は飛ぶことすらできず、地面へ落ちていく。
「やめろ!」
イヴが叫ぶ。
「この子達は関係ない!」
アダムは静かに妹を見る。
「命は平等だ。」
「救うなら。」
「全て救え。」
「救えないなら。」
「最初から生まれない方がいい。」
「違う!」
イヴの瞳から涙が溢れる。
「そんな世界!」
「誰も幸せになれない!」
アダムは答えない。
ただ静かに終焉の力を広げ続ける。
その時だった。
「おい。」
ヴォルグが笑った。
「まだ終わってねぇぞ。」
「ヴォルグ!」
全身の筋肉を震わせながら、ヴォルグはゆっくり立ち上がる。
ギシッ。
ギシッ。
骨が軋む音が聞こえる。
それでも立つ。
「重力?」
「だから何だ。」
「俺は。」
「もっと重ぇもんを背負ってきた。」
「仲間だ。」
「命だ。」
「後悔だ。」
「こんなもんで。」
「膝なんかつけるか。」
雄叫びと共に、大剣を振り上げる。
「おおおおおおおっ!!」
一閃。
巨大な斬撃が終焉を切り裂く。
アダムは片手で受け止めた。
しかし。
バキッ。
初めて。
彼の足元へ小さな亀裂が入る。
アダムは静かにその地面を見る。
「……初めてだ。」
「世界法則へ。」
「力だけで干渉した者は。」
ヴォルグは息を切らしながら笑う。
「細けぇ理屈は知らねぇ。」
「俺は。」
「ぶん殴るだけだ。」
「ふっ。」
アダムは初めて小さく笑った。
「面白い。」
「なら。」
「もう少しだけ。」
「神話を続けよう。」
右手をゆっくり握る。
第零世界の空間が裂けた。
黒い裂け目は無数に広がり、その奥から巨大な剣が姿を現す。
一本。
二本。
十本。
百本。
全て世界法則で創られた剣。
一本だけで山を断てるほどの巨大な神剣だった。
ルナリアが顔を上げる。
「あれ全部……。」
ノアの声が震える。
「法則兵装。」
「管理者でも。」
「伝説の中でしか存在しない武装。」
アダムは静かに腕を振る。
「避けろ。」
その一言と同時に。
無数の神剣が、第零世界全土へ降り注いだ。
空が割れる。
大地が裂ける。
世界そのものが戦場へ変わる。
シオンは仲間達を振り返り、大きく叫んだ。
「散開!」
「絶対に一人で戦うな!」
「俺達は!」
「七人で一つだ!」
その声に全員が頷く。
神と人。
創世以前から続く神話は、ついに本当の戦いへ突入した。




