↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
308/312

神を名乗る者

世界は静まり返っていた。


誰も動かない。


だが、その静寂は嵐の前触れだった。


アダムが右手をゆっくりと下ろす。


それだけで空間が歪んだ。


ゴォォォォォ――――。


第零世界そのものが軋み、原初世界樹の幹へ新たな亀裂が走る。


原初生命達は怯えたようにシオンの背後へ集まり、小さな身体を震わせていた。


シオンは剣を構えたまま、一歩も退かない。


「来い。」


短く告げる。


アダムは小さく首を振った。


「焦るな。」


「まだ戦いではない。」


「お前には知る義務がある。」


「知る義務?」


「私が。」


「なぜ神と呼ばれるようになったのか。」


その瞬間、アダムが指を鳴らす。


パチン――。


音は小さかった。


だが世界は一変した。


景色が消える。


原初世界樹も、イヴも、仲間達も、全てが白い霧へ溶けていく。


シオンは咄嗟に剣を握り直した。


「幻覚か。」


「違う。」


アダムの声だけが響く。


「過去だ。」


霧が晴れる。


そこに広がっていたのは、第零世界がまだ幼かった頃の姿だった。


原初世界樹は今より遥かに小さい。


一本の若木に近い姿だ。


花畑ではイヴとリーヴァが笑い合い、若き日のエインが原初生命達を追い掛けて走り回っている。


「昔の……第零世界。」


ルナリアが小さく呟く。


しかし、この景色にはもう一人いた。


木陰へ腰掛け、本を読んでいる青年。


漆黒の髪。


黄金の瞳。


若き日のアダムだった。


「兄さん!」


幼いイヴが駆け寄る。


「また本読んでる!」


「静かな時間は嫌いか?」


「ううん!」


「でも遊ぼう!」


「エインも待ってるよ!」


アダムは困ったように微笑み、本を閉じる。


「五分だけだ。」


「やった!」


イヴは嬉しそうに彼の手を掴み、花畑へ走っていく。


映像の中のエインが大声で笑う。


『遅いぞアダム!』


『今日も負けた方が昼飯作る約束だからな!』


『勝手に決めるな。』


『いいじゃん!』


『俺料理うまいし!』


『だから嫌なんだ。』


『信用されてねぇ!』


四人の笑い声が第零世界へ響く。


その光景を見ていたステラがぽつりと呟いた。


「幸せそう。」


リーヴァは目を細める。


「兄さんは。」


「昔はよく笑っていました。」


「エインと競争して。」


「イヴと花を育てて。」


「誰よりも優しい人でした。」


映像は続く。


やがて第零世界の空が暗く染まり始める。


誰も知らない黒い霧。


最初の終焉。


まだ名前すらない災厄だった。


原初生命が一匹。


また一匹と黒い霧へ呑まれ、光となって消えていく。


イヴの笑顔が消える。


『兄さん……。』


『怖い。』


アダムは静かに妹を抱き寄せた。


『大丈夫だ。』


『私が守る。』


エインも剣を抜く。


『何だよ……あれ。』


『生き物じゃない。』


『命を喰ってる。』


黒い霧は止まらない。


花は枯れ、大地は黒く染まり、原初世界樹の葉が次々と落ちていく。


その時だった。


空から声が響く。


『観測者アダム。』


『決断せよ。』


『命を選ぶか。』


『世界を選ぶか。』


シオンは眉をひそめた。


「誰の声だ。」


アダムは静かに答える。


「世界そのものだ。」


「第零世界には。」


「まだ意思が存在していた。」


映像の中で若き日のアダムは、迷うことなく答える。


『……世界を選ぶ。』


その瞬間。


終焉は止まった。


だが。


原初生命の半分は消え去り、第零世界には二度と戻らない傷跡が残る。


エインが叫ぶ。


『違うだろ!』


『世界を守るってことは!』


『命を守ることじゃねぇのか!』


アダムは静かに首を振る。


『命はまた生まれる。』


『だが。』


『世界は一度壊れれば終わりだ。』


『だから私は正しい。』


『正しいかもしれねぇ。』


エインは拳を握る。


『でも!』


『俺はそんな世界、認めねぇ!』


二人は初めて睨み合った。


笑い合っていた親友が。


初めて別々の道を選んだ瞬間だった。


映像がそこで止まる。


静寂が流れる。


アダムはシオンを見つめる。


「私は。」


「神になりたかったわけではない。」


「誰かを支配したかったわけでもない。」


「ただ。」


「二度とあの日を繰り返したくなかった。」


「そのために。」


「全てを捨てた。」


シオンは静かにアダムを見返す。


「だから。」


「神になったのか。」


「違う。」


アダムは首を横へ振る。


「私は。」


「神と呼ばれるほど。」


「人であることを捨てただけだ。」


その一言に、誰も言葉を返せなかった。


彼は悪ではない。


誰よりも世界を守ろうとして。


誰よりも大切なものを失い。


最後には、自分自身まで捨ててしまった。


だからこそ。


シオンは剣を強く握り締める。


「だったら。」


「今度は俺が教えてやる。」


「人を捨てなくても。」


「世界は守れるってことを。」


アダムは静かに目を閉じる。


「その答えを。」


「見せてみろ。」


黒い終焉の力がゆっくりと解放され、第零世界の空が再び激しく震え始めた。


神と人。


二つの信念は、もはや言葉だけでは交わらない。


決着は――戦いの中でしか導き出せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。