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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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最初の神

「……兄さん。」


イヴのその一言で、《始まりの庭園》から音が消えた。


誰も動けない。


誰も言葉を発せない。


シオンだけが静かに男を見つめていた。


漆黒の外套。


黄金の瞳。


顔立ちは整っている。


その表情には怒りも憎しみもない。


ただ、永遠にも似た静寂だけが宿っていた。


男はイヴへ穏やかな視線を向ける。


「久しぶりだ。」


「イヴ。」


「何万年ぶりでしょう。」


イヴは悲しそうに微笑む。


「兄さんは。」


「何も変わっていない。」


「変わる必要がなかった。」


男は淡々と答える。


「私は。」


「終わりを見届ける存在だから。」


シオンが一歩前へ出る。


「お前が。」


「終焉か。」


男はゆっくりと視線を移した。


黄金の瞳がシオンを映す。


「違う。」


「終焉は現象だ。」


「私は。」


「その始まり。」


「最初の観測者。」


その言葉に、ノアの表情が変わる。


「最初の……観測者。」


「まさか。」


ルクスも息を呑む。


「管理者達の。」


「始祖。」


男は静かに頷いた。


「そう呼ぶ者もいた。」


「私の名は。」


「アダム。」


世界が震えた。


リーヴァは深く頭を垂れる。


ノアとルクスも同じように跪く。


創世神より前に存在した者。


世界最初の観測者。


全管理者の始祖。


その存在が今、目の前に立っていた。


シオンは剣を抜かない。


ただ真っ直ぐアダムを見る。


「イヴの兄なら。」


「何でこんなことをする。」


「命を消して。」


「世界を終わらせて。」


「何がしたい。」


アダムは静かに空を見上げた。


原初世界樹の枝葉が一枚、音もなく散っていく。


「私は何もしていない。」


「世界は。」


「終わるように生まれた。」


「私は。」


「その終わりを見届けているだけだ。」


「ふざけるな。」


シオンの声が響く。


「見てるだけなら。」


「何でアビスを生んだ。」


「何で管理者を作った。」


「何で世界へ手を出した。」


アダムは少しだけ目を閉じた。


「観測とは。」


「結果を変えないことだ。」


「だが。」


「世界は何度も法則から外れた。」


「創世神エイン。」


「そして。」


「シオン・アルヴィス。」


「二人は。」


「観測できない存在になった。」


イヴが静かに前へ出る。


「兄さん。」


「もう終わりにしましょう。」


「命は。」


「兄さんが思うほど弱くない。」


「弱い。」


アダムは即座に否定した。


「私は見てきた。」


「五百を超える世界。」


「全て滅びた。」


「愛も。」


「希望も。」


「未来も。」


「最後には消える。」


「だから。」


「終わりは救済だ。」


その言葉にリーヴァは首を横へ振る。


「違います。」


「兄さん。」


「違う。」


アダムは妹を見つめる。


「イヴ。」


「お前も見ただろう。」


「命は苦しみ続ける。」


「争い。」


「裏切り。」


「戦争。」


「死。」


「ならば。」


「最初から終わらせればいい。」


「それが。」


「慈悲だ。」


静かな声だった。


だが、その考えはどこまでも歪んでいた。


シオンはゆっくり剣を抜く。


黒い刀身へ黄金の紋様が浮かぶ。


「昔の俺なら。」


「分からなかったかもしれない。」


「でも。」


「今なら言える。」


アダムは静かにシオンを見る。


「何を。」


「苦しいから生きる意味があるんじゃない。」


「苦しい中でも。」


「誰かと笑えるから生きたいんだ。」


「泣く日もある。」


「間違える日もある。」


「それでも。」


「隣に誰かがいる。」


「だから。」


「世界は終わらせちゃいけない。」


イヴは涙を浮かべながら微笑んだ。


「……エインと。」


「同じ答え。」


アダムは長い沈黙の後、小さく息を吐く。


「やはり。」


「お前は。」


「エインの後継者だ。」


その瞬間。


アダムの足元へ巨大な黒い魔法陣が展開された。


第零世界全体が激しく揺れ始める。


原初世界樹の根が一本、音を立てて崩れ落ちる。


ゴゴゴゴゴゴ――――!!


リーヴァが叫ぶ。


「駄目です!」


「ここで力を使えば!」


「第零世界が壊れる!」


アダムは静かに右手を掲げる。


「ならば。」


「証明しよう。」


「お前達の希望と。」


「私の終焉。」


「どちらが世界に必要なのか。」


七色の空が完全な漆黒へ染まる。


《始まりの庭園》の花々が一斉に散り、原初生命達はシオンの周囲へ集まり始めた。


イヴは静かにシオンの手を握る。


「シオン。」


「ここから先は。」


「世界が始まって以来。」


「誰も勝てなかった戦いです。」


シオンは力強く頷いた。


「だからこそ。」


「俺達が勝つ。」


仲間達も静かに武器を構える。


レオニクスは剣を。


アリアは双剣を。


ヴォルグは大剣を肩へ担ぎ、ルナリアは月光の魔力を解放する。


ノアとルクスは創世術式を展開し、リーヴァは原初世界樹へ祈りを捧げた。


こうして。


世界が始まって以来、一度も実現しなかった戦いが幕を開ける。


創世神が託した希望。


最初の観測者が望む終焉。


二つの意志が、第零世界で激突しようとしていた。

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