表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/160

「世界の真実」

 朝日が、静かに差し込んでいた。


 割れたステンドグラスから射し込む柔らかな光が、廃教会の石床を淡く照らしている。


 崩れた柱。


 朽ちた祭壇。


 誰にも祈られなくなって久しい静かな空間だけが、昨夜の激しい逃走を忘れさせるように穏やかだった。


 シオンはゆっくりと目を開ける。


 冷たい石床の感触が背中へ伝わる。


 崩れた天井の隙間からは青い空が見えていた。


「……朝か。」


 小さく息を吐き、身体を起こす。


 そして視線を横へ向けた。


 すぐ隣で、一人の少女が静かな寝息を立てている。


 銀色の長い髪。


 朝日に照らされ、その姿はまるで月の光が人の形をしたように幻想的だった。


 ルナリア・セレス。


 昨日、処刑台から救い出した少女。


 本来なら、あの場で命を落としていたはずの少女だった。


 シオンはしばらく何も言わず、その寝顔を見つめる。


「……平和そうな顔してるな。」


 思わず漏れた独り言。


 昨日まで一人だった。


 誰かと同じ朝を迎えることなど、いつ以来だろう。


 その時だった。


 ルナリアの瞳がゆっくりと開く。


 蒼銀色の瞳が、真正面からシオンを捉えた。


 数秒の沈黙。


 静かな朝の空気だけが流れる。


 やがてルナリアが小さく首を傾げた。


「……見てた?」


「見てない。」


 即答だった。


「嘘。」


「見てない。」


「絶対見てた。」


「だから見てないって。」


 ルナリアはじっと見つめてくる。


 シオンは気まずそうに視線を逸らした。


「……何だよ。」


「ふふっ。」


 ルナリアは小さく笑う。


「顔、赤い。」


「気のせいだ。」


「そういうことにしておく。」


 その笑顔を見て、シオンも自然と肩の力が抜けた。


 昨日まで命を狙われていた少女とは思えない。


 その笑顔だけ見れば、どこにでもいる普通の少女だった。


 だが、その穏やかな時間は長くは続かなかった。


 シオンは真剣な表情へ戻る。


「昨日の続きだ。」


 ルナリアの笑顔が消える。


「昨日?」


「星晶の話だ。」


 静かな風が教会の中を吹き抜ける。


 割れた窓から入り込んだ風が、ルナリアの銀髪を優しく揺らした。


 彼女はしばらく黙り込む。


 話すべきか迷っているようだった。


 だが、ゆっくりと決意したように顔を上げる。


「……知ってる?」


「星晶は、感情を記録するの。」


 シオンは眉をひそめた。


「感情?」


 ルナリアは静かに頷く。


「喜び。」


「怒り。」


「悲しみ。」


「憎しみ。」


「人間が抱く、すべての感情。」


 シオンは腕を組む。


「そんな話、一度も聞いたことがない。」


「当然よ。」


 ルナリアは苦しそうに微笑んだ。


「教団が隠しているから。」


 教会の中に沈黙が落ちる。


 シオンは言葉を失った。


 学校でも。


 街でも。


 教団でも。


 星晶は世界を支える奇跡の結晶だとしか教えられてこなかった。


 ルナリアは祭壇へ目を向ける。


「昔、月の民は研究していた。」


「なぜ星晶が力を持つのか。」


「なぜ文明は発展したのか。」


「なぜ、この世界は空に浮かんでいられるのか。」


 その声はどこか寂しげだった。


「そして私たちは……。」


 ルナリアは静かに息を吸う。


「真実へ辿り着いてしまった。」


 シオンは無意識に拳を握り締める。


「真実って?」


 ルナリアはゆっくりと空を見上げた。


 窓の向こうには、朝日に照らされた青い星晶が静かに輝いている。


「あの星晶は。」


「人間の希望だけを吸収しているわけじゃない。」


 シオンは息を呑む。


「絶望も。」


「悲しみも。」


「怒りも。」


「憎しみも。」


「全部、吸収している。」


 静かな声だった。


 それでも、その一言はシオンの胸へ重く響く。


「何百年も。」


「何千年も。」


「人の負の感情を溜め込み続けた結果……。」


 ルナリアは目を閉じた。


「星晶は限界を迎えたの。」


 風が吹く。


 教会の天井から細かな砂埃が舞い落ちる。


 シオンは静かに呟いた。


「つまり……。」


「世界が壊れてる原因は。」


 ルナリアはゆっくり頷く。


「自然災害なんかじゃない。」


「人間自身が生み出した災厄。」


 その言葉を聞いた瞬間、シオンの脳裏に昨夜の光景が浮かぶ。


 崩れ落ちる大地。


 青く輝く星晶。


 人々の悲鳴。


 そして、自分の右腕に刻まれた黒い紋章。


「そんな……。」


 思わず漏れた声。


 世界は滅びかけている。


 それは天災ではない。


 誰かに壊されたわけでもない。


 人間自身が積み重ねてきた絶望が、この世界を蝕んでいたのだ。


 ルナリアは静かにシオンを見つめる。


「だから教団は、この事実を隠している。」


「知られたら、人々の信仰は崩れてしまうから。」


 シオンは立ち上がり、割れた窓の向こうを見つめた。


 青く輝く星晶。


 昨日まで希望の象徴だと思っていた光は、今では不気味にしか見えなかった。


 そして彼はまだ知らない。


 自らの右腕に宿った黒星晶こそが、この壊れゆく世界の運命を大きく変える存在であることを。

次回 第4話 「エクリプス教団」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ