「世界の真実」
朝日が差し込んでいた。
割れたステンドグラスから差し込む光が、静かな廃教会の床を照らしている。
昨夜の騒動が嘘のようだった。
教団兵に追われ、命からがら逃げ延びた夜。
その疲労がようやく体を眠りへ落としていた。
シオンはゆっくりと目を開く。
冷たい石床。
崩れた天井。
見慣れない景色。
そして。
すぐ隣で眠る少女。
銀色の長い髪が朝日に照らされ、まるで月光そのものが形になったように輝いていた。
ルナリア。
昨日出会ったばかりの少女。
本来なら処刑されるはずだった少女。
シオンはぼんやりと眺める。
不思議な感覚だった。
昨日まで一人だった。
誰かと朝を迎えるなんて何年ぶりだろう。
「……平和そうな顔してるな」
思わず呟く。
その瞬間だった。
ルナリアの瞳がぱちりと開く。
蒼銀色の瞳が真正面からシオンを捉えた。
数秒の沈黙。
そして。
「見てた?」
「見てない」
即答だった。
「嘘」
「見てない」
「絶対見てた」
「見てないって」
ルナリアはじっと見つめてくる。
シオンは視線を逸らした。
なぜか居心地が悪い。
ルナリアは小さく笑う。
その笑顔を見て、シオンも少しだけ肩の力が抜けた。
昨日まで命を狙われていた少女とは思えない。
その笑顔だけ見れば、どこにでもいる普通の少女だった。
だが。
そんな平穏は長く続かない。
シオンは表情を引き締めた。
「昨日の続きだ」
ルナリアの笑顔が消える。
「星晶が世界を壊してるって話」
静寂が落ちた。
風が吹く。
割れた窓から入り込んだ風が、ルナリアの銀髪を揺らした。
彼女はしばらく黙っていた。
言うべきか迷っているようだった。
だがやがて決意したように顔を上げる。
「知ってる?」
「星晶は感情を記録するの」
シオンは眉をひそめる。
「感情?」
「喜び」
「怒り」
「悲しみ」
「憎しみ」
ルナリアは静かに続けた。
「人間の感情そのものを、星晶は吸収している」
シオンは言葉を失った。
そんな話は聞いたことがない。
学校でも。
街でも。
教団でも。
誰も教えてくれなかった。
「当然よ」
ルナリアは苦しそうに笑った。
「教団が隠しているから」
朝の光が差し込む。
その横顔はどこか悲しそうだった。
「昔、月の民は研究していた」
「なぜ星晶が力を持つのか」
「なぜ文明が発展したのか」
「なぜ世界が浮かんでいるのか」
そして。
「私たちは真実に辿り着いてしまった」
ルナリアの声が震える。
「星晶は人間の希望だけじゃなく」
「絶望も吸収していたの」
シオンの背筋に冷たいものが走った。
ルナリアは空を見上げる。
青く輝く星晶。
人々が信仰し続けた奇跡の結晶。
だが。
「何百年も」
「何千年も」
「憎しみや悲しみを溜め込み続けた結果」
彼女は静かに言った。
「世界そのものが壊れ始めた」
シオンは言葉を失った。
人類が作り出した絶望。
それが世界を蝕んでいる。
あまりにも現実離れした話だった。
信じたい。
だが信じられない。
その時だった。
遠くから鐘の音が響く。
ゴォォォォン――
異常警報。
街全体がざわめく。
シオンが立ち上がる。
「何だ?」
次の瞬間。
夜空が赤く染まった。
巨大な爆発。
揺れる大地。
そして――
教団兵達の怒号。
「見つけたぞ!!」
ルナリアの顔色が変わる。
シオンは舌打ちした。
「話の続きは後だな」
再び、逃亡が始まる。
次回 第4話 「エクリプス教団」




