白き門
黄金の橋は、果てなく続いていた。
橋の下には海があるはずだった。
だが、《終焉の海》はいつの間にか姿を消している。
見下ろしても、そこに広がるのは深い漆黒だけ。
底も、距離も分からない。
まるで世界そのものが存在していない空間を歩いているようだった。
誰も言葉を発さない。
靴音だけが静寂の中へ吸い込まれていく。
コツ――。
コツ――。
やがて橋の終点が見えてきた。
そこには、高さ百メートルを超える純白の大門が静かにそびえ立っていた。
柱には無数の古代文字が刻まれ、その一文字一文字が淡い金色の光を放っている。
「これが……。」
ルナリアは息を呑んだ。
「第零世界。」
ノアはゆっくり首を振る。
「まだ入口です。」
「この門が境界。」
「ここを越えた先が、本当の第零世界。」
レオニクスが門へ近付く。
「今まで見た建造物とは造りが違う。」
「石じゃない。」
アリアも表面へ触れる。
「冷たくない。」
「生きてるみたい。」
シオンもゆっくり手を伸ばした。
門へ触れた瞬間、《創世の継承印》が眩く輝く。
ゴォォォォォン――。
巨大な門が低く唸り、空間そのものが震え始めた。
古代文字が一斉に光を放ち、門の中央へ円形の紋章が浮かび上がる。
『継承者認証。』
『シオン・アルヴィス。』
『創世権限を確認。』
『第零世界への入界を許可します。』
静かな声が響いた直後。
ゆっくりと門が左右へ開いていく。
ギギギギギ――――。
扉の向こうから溢れ出した光に、全員が思わず目を細めた。
そして、その光が晴れた瞬間。
誰もが息を呑んだ。
「……なんだ。」
ヴォルグが言葉を失う。
そこに広がっていたのは、今まで見てきたどの世界とも違う景色だった。
空は七色に輝いている。
雲は黄金色。
地面一面には白い草原が広がり、一枚一枚の草が星のように淡く光っていた。
遠くには巨大な花が咲いている。
山ほどもある花弁が、風もないのにゆっくり揺れている。
空を泳ぐのは鳥ではない。
光そのものが羽を持ったような生き物だった。
川は空中を流れ、滝は上へ向かって昇っている。
常識という概念が存在しない世界。
「綺麗……。」
ステラが思わず呟く。
リシアも優しく微笑んだ。
「まるで。」
「夢の中ね。」
ルクスは静かに周囲を見渡す。
「違う。」
「夢ではない。」
「ここが現実だ。」
「我々がいた世界こそ。」
「この場所から生まれた。」
シオンは一歩、第零世界へ足を踏み入れた。
柔らかな感触が靴裏へ伝わる。
草ではない。
光だった。
大地そのものが生命の光でできている。
その瞬間だった。
足元から無数の光粒が舞い上がる。
一つ。
二つ。
やがて数百、数千もの光がシオンの周囲を飛び回り始めた。
「集まってる……。」
ルナリアが驚く。
ノアは目を見開いた。
「原初生命です。」
「世界が生まれる前から存在する。」
「最初の命。」
光の粒はシオンの肩へ止まり、嬉しそうに輝いている。
逃げる様子はない。
むしろ歓迎しているようだった。
「どうして。」
シオンが小さく呟く。
ルクスは穏やかに笑った。
「分かるんでしょう。」
「始祖エインと同じ光を。」
その時。
遠くの地平線で何かが輝いた。
巨大だった。
空へ届くほど高い一本の樹。
枝葉は銀河のように広がり、その根は世界そのものを抱きしめるように大地へ伸びている。
今まで見た世界樹とは比べものにならない。
「世界樹……。」
ルナリアが息を呑む。
ノアは静かに首を振った。
「違います。」
「これは。」
「世界樹の母体。」
「全ての世界樹が生まれた。」
「《原初世界樹》です。」
その言葉を聞いた瞬間。
シオンの左手に刻まれた《創世の継承印》が強く脈打った。
ドクン――。
ドクン――。
同時に、原初世界樹の方角から一陣の風が吹く。
風ではない。
誰かの声だった。
『……ようやく。』
優しくも、どこか懐かしい声。
『ここまで来たね。』
シオンはゆっくり顔を上げる。
その声はエインではない。
もっと古く。
もっと静かで。
世界そのものが語り掛けてくるような声だった。
七人は互いに視線を交わし、同じ方向へ歩き始める。
原初世界樹の麓で待つ者。
それこそが、第零世界最大の秘密だった。




