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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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沈んだ世界

「行くぞ!」


シオンが黄金の航路を蹴る。


その瞬間、《創世の継承印》が淡く輝き、足元へ黄金の足場が次々と生まれた。


海へ落ちることなく、一行は一直線に沈んだ都市へ駆け抜ける。


「足場が……!」


ステラが驚きの声を上げる。


ノアが走りながら答えた。


「継承印が道を創っています!」


「世界そのものがシオンを認めている証です!」


崩れた城門を飛び越え、都市へ足を踏み入れた瞬間だった。


カチッ――。


止まっていた時計塔の針が動き始める。


コン……


コン……


静かな鐘の音が街中へ響いた。


誰もいないはずの通りに明かりが灯る。


閉ざされていた店の扉が開き、噴水から透明な水が流れ始める。


崩壊していた都市が、まるで時間を巻き戻すように蘇っていく。


「これは……。」


ルナリアは息を呑んだ。


街路樹には花が咲き、人々の笑い声まで聞こえてくる。


しかし、その姿は見えない。


音だけが残っている。


ルクスは静かに周囲を見渡した。


「記憶が再生されている。」


「この街が最後に見た景色だ。」


シオンは辺りを見回す。


子ども達が走り回る笑い声。


市場で客を呼ぶ商人。


パンの焼ける香り。


祭り囃子。


全てが幻なのに、あまりにも鮮明だった。


「……平和だったんだな。」


誰に言うでもなく呟く。


その時。


「お兄ちゃん。」


幼い声が聞こえた。


振り返ると、先ほど時計塔にいた銀髪の少女が路地裏に立っている。


今度は黒い霧に飲まれていない。


どこか儚げな笑顔を浮かべながら、シオンを見つめていた。


「来て。」


少女はそれだけ言って歩き始める。


シオンは迷わず後を追った。


仲間達も静かについていく。


路地を抜けると、大きな広場へ出る。


中央には巨大な水晶塔が建っていた。


高さは五十メートルほど。


青白い結晶で造られた塔は、今も淡く輝いている。


しかし。


塔の根元には、巨大な黒い鎖が何重にも巻き付いていた。


まるで塔そのものを封印しているようだった。


少女は塔を見上げ、小さく呟く。


「まだ……苦しんでる。」


「君は誰なんだ。」


シオンが尋ねる。


少女は少しだけ困ったように笑う。


「……思い出せない。」


「名前も。」


「何年ここにいるのかも。」


「何も。」


「でも。」


少女は胸へ手を当てる。


「この街を守らなきゃ。」


「それだけは覚えてる。」


ノアが水晶塔へ近付く。


表面へそっと手を添えた瞬間、その表情が変わった。


「……そんな。」


「どうした?」


レオニクスが問い掛ける。


ノアは苦しそうに塔を見上げた。


「この塔。」


「創世の核の欠片です。」


「何だって?」


シオンが振り返る。


ノアはゆっくり頷いた。


「創世の核は一つではありません。」


「世界を維持するため。」


「無数の欠片を各文明へ分け与えていました。」


「つまり。」


ルクスが静かに続ける。


「この都市は。」


「第五百世界より前に存在した文明。」


「創世の核の欠片で繁栄していた。」


ヴォルグが黒い鎖を掴む。


「じゃあ。」


「これ壊しゃ終わりだな!」


「待って!」


少女が叫ぶ。


ヴォルグの手が止まる。


「切っちゃ駄目!」


「どうしてだ?」


少女は涙を浮かべた。


「鎖があるから。」


「まだ街が残ってるの。」


「外したら。」


「全部消えちゃう。」


静寂が流れる。


アリアは鎖をじっと見つめていた。


「……違う。」


「これ。」


「封印じゃない。」


「支えてる。」


全員が鎖を見る。


黒い鎖は塔を締め付けているようで、その実、崩壊しそうな塔を繋ぎ止めていた。


もし外せば。


水晶塔は完全に崩壊する。


少女は涙を拭いながら笑った。


「街のみんな。」


「最後まで生きたかった。」


「だから。」


「私が。」


「ずっと支えてる。」


シオンの胸が締め付けられる。


少女一人が。


滅んだ文明を何千年も支え続けていた。


「もう十分だ。」


シオンは少女の前へしゃがみ込む。


「一人で頑張りすぎた。」


少女は首を横へ振る。


「約束したから。」


「みんなが帰る場所を。」


「なくしたくなかった。」


その言葉を聞いた瞬間。


ルナリアの瞳から涙が零れ落ちた。


「……シオン。」


「ああ。」


シオンは静かに立ち上がる。


そして仲間達を見渡した。


「この街も救う。」


「創世の核だけじゃない。」


「ここで生きた人達の想いも。」


「全部。」


「未来へ連れて行こう。」


その言葉に、全員が力強く頷いた。


しかし、その瞬間。


ガキィィィン――――!!


黒い鎖の一本が突然音を立てて砕け散る。


都市全体が大きく揺れた。


時計塔が崩れ始める。


建物へ次々と亀裂が走り、空から黒い灰が降り始めた。


少女は絶望したように空を見上げる。


「……来ちゃった。」


「来た?」


シオンが剣を抜く。


次の瞬間。


水晶塔の頂上へ、一人の男が静かに降り立った。


純白のローブ。


黄金の仮面。


その背中には六枚の漆黒の翼が広がっている。


男は都市を見下ろし、静かに口を開いた。


「観測終了。」


「文明番号――第三百二十一世界。」


「消去を開始する。」


その冷たい声に、ノアとルクスの表情が凍り付く。


「まさか……!」


ルクスが苦しそうに呟く。


「執行管理者……!」

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