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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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世界の果て

灰色の海は、どこまでも静かだった。


波は立たない。


風も吹かない。


海鳥の姿もなく、生き物の気配すら感じられない。


聞こえるのは、自分達の足音だけ。


砂浜へ足を踏み入れるたび、白い砂が静かに砕ける音だけが辺りへ響いた。


「変な海だな。」


ヴォルグがしゃがみ込み、砂を掴む。


乾いている。


しかし指の間から零れ落ちる頃には、砂は淡い光となって消えていた。


「砂じゃねぇ。」


「記憶だ。」


ルクスが静かに答える。


「ここは世界の境界。」


「流れ着くのは命ではない。」


「滅んだ世界の記憶だ。」


全員が足元を見下ろした。


今、自分達が踏み締めている砂浜。


それは無数の世界が残した最後の記録だった。


ステラは小さく息を呑む。


「じゃあ、この砂一粒一粒が……。」


「誰かの人生。」


リシアが静かに頷いた。


「家族と笑った日も。」


「夢を追い掛けた時間も。」


「全部ここへ還ってくる。」


ルナリアは胸の前で両手を重ねる。


「どうか。」


「安らかに眠れますように。」


その祈りに応えるように、白い砂が一瞬だけ青白く輝いた。


シオンは海へ目を向ける。


水平線の向こうには黒い霧しか見えない。


「船はないのか。」


「あります。」


ノアは静かに海岸の先を指差した。


岩場の陰。


そこには一隻の古びた木造船が停泊していた。


長い年月を経ているはずなのに、船体には傷一つない。


純白の船体へ黄金色の紋章が刻まれ、船首には一羽の白い鳥が翼を広げている。


レオニクスが目を細める。


「創世の紋章。」


「始祖の船か。」


ルクスはゆっくり近付く。


「《アーク》。」


「創世以前から存在する渡し船だ。」


「始祖はこの船で第零世界と世界を行き来していた。」


ヴォルグが船体を軽く叩く。


「こんな小さい船で?」


「大きさは関係ありません。」


ノアが笑う。


「この船は海を渡るための船ではないんです。」


「世界を渡る船なんですよ。」


アリアが眉を上げる。


「意味分からないわ。」


「乗れば分かります。」


シオンは船へ足を掛けた。


ギシッ。


木が軋む音が響く。


その瞬間、《創世の継承印》が淡く輝いた。


船全体へ黄金色の紋様が広がり、眠っていたように静かだった船が小さく震え始める。


ゴォォォ……


船首の白い鳥の瞳へ光が灯った。


『継承印を確認。』


機械のような声が響く。


『創世権限を承認。』


『操船者、シオン・アルヴィス。』


『航路を解放します。』


ヴォルグが目を丸くする。


「喋った!」


「驚くところそこ?」


アリアが呆れたように笑う。


その時、灰色だった海面へ一本の黄金色の航路が浮かび上がる。


一直線。


黒い霧の奥へ続く、光の道。


ノアは静かに息を吐いた。


「始祖様も。」


「この道を進まれたんですね。」


シオンは船首へ立つ。


海は相変わらず静かだった。


だが、その静けさが逆に不気味だった。


「静かすぎる。」


「その感覚は正しい。」


ルクスが低く呟く。


「終焉の海には波がない。」


「命が存在しないからだ。」


「命がない?」


ルナリアが聞き返す。


「この海は。」


「生き物を拒絶している。」


「世界へ入り込めなかった終焉だけが漂う場所だ。」


その説明が終わるより早く。


ポチャン。


小さな水音が響いた。


全員が振り向く。


誰も海へ触れていない。


それなのに、水面へ小さな波紋が広がっていた。


一つ。


また一つ。


ポチャン。


ポチャン。


静かな海へ無数の波紋が生まれていく。


シオンは剣の柄へ手を掛けた。


「来る。」


レオニクスも即座に構える。


「全員、警戒。」


海面がゆっくりと黒く染まる。


黄金色の航路だけを避けるように、漆黒の影が無数に集まり始めた。


やがて一つの人影が海から立ち上がる。


全身を黒いローブで包み、顔は見えない。


しかし、その姿を見た瞬間、ノアとルクスの表情が凍り付いた。


「……そんな。」


ノアの声が震える。


「あり得ない。」


ルクスは苦しそうに目を細める。


「あれは。」


「初代管理者……。」


黒いローブの人物はゆっくりと顔を上げる。


フードの奥には、何もなかった。


顔が存在しない。


漆黒の空洞だけが広がっている。


その空洞から、幾重にも重なった声が響いた。


『世界の者よ。』


『引き返せ。』


『この先は。』


『生きた命が踏み入る場所ではない。』


黄金の航路の先で、終焉の海が静かに目を覚まそうとしていた。

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