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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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第零世界

世界樹が軋む。


ミシ……。


ミシミシミシッ――。


黄金に輝いていた根が、ゆっくりと黒く侵食されていく。


枝葉から零れていた光も弱まり、《創世の間》全体へ重苦しい空気が流れ始めた。


「これは……。」


ルナリアが世界樹を見上げる。


「世界樹が傷付いてる。」


アルバは険しい表情で頷いた。


「いいえ。」


「傷ではありません。」


「世界樹が”恐れている”のです。」


「恐れる?」


ヴォルグが眉をひそめる。


「木がか?」


エインは静かに世界樹へ手を添えた。


『世界樹は命そのものだ。』


『だから。』


『命が本能で恐れる存在を知っている。』


その瞬間。


根元から黒い霧が立ち昇る。


霧ではない。


それは光だった。


黒い光。


存在してはいけない色。


見る者の心を静かに侵食する、不気味な輝きだった。


『君達は今まで。』


『終焉とは世界を壊す力だと思っていた。』


シオンは静かに頷く。


「ああ。」


『違う。』


『終焉とは。』


『世界を壊す存在ですらない。』


エインが右手を掲げる。


世界樹の枝から一枚の葉が落ち、全員の前へ巨大な映像が広がった。


そこに映っていたのは、第零世界。


何も存在しない漆黒の空間。


その中心で、一粒の世界の種が静かに輝いている。


『私が世界の種を見つけた時。』


『そこには。』


『もう一つの存在がいた。』


映像の奥。


世界の種から最も離れた場所。


漆黒よりなお深い闇の中で、一つの影が静かに座っていた。


誰なのか分からない。


輪郭すら曖昧。


男でも女でもない。


老人でも子どもでもない。


ただ、そこに”いる”。


それだけで、第零世界そのものが歪み始めていた。


ノアが息を呑む。


「最初から……いた?」


『ああ。』


『私より前に。』


『世界より前に。』


『あの存在は、第零世界にいた。』


シオンは目を離せなかった。


その姿を見ているだけで、胸の奥が締め付けられる。


戦ったことはない。


会ったこともない。


それでも本能が理解していた。


「危険だ。」


エインは静かに頷く。


『私は近付いた。』


映像の中で若きエインが、黒い影へ歩み寄っていく。


『君は誰だ。』


問い掛ける。


影はゆっくり顔を上げた。


顔は見えない。


ただ二つの金色の瞳だけが闇の中で静かに輝いていた。


『私は。』


『観測している。』


それだけだった。


敵意もない。


殺意もない。


感情すら感じられない。


『何を観測している?』


エインが尋ねる。


長い沈黙。


やがて影は静かに答えた。


『終わり。』


その一言で。


世界の種が大きく震えた。


ルナリアは無意識にシオンの腕を掴む。


「怖い……。」


「大丈夫。」


シオンはそう答えながらも、視線は映像から離せなかった。


エインは続ける。


『私は理解できなかった。』


『だから。』


『世界を創れば答えが分かると思った。』


映像の中で、エインは世界の種へ光を注ぐ。


命が芽吹く。


空が生まれる。


海が生まれる。


星が輝く。


世界は完成した。


その瞬間だった。


黒い影が初めて立ち上がる。


『始まったか。』


たった四文字。


その声だけで、新しく生まれた世界が震え始める。


『これより。』


『観測を開始する。』


影が一歩踏み出した。


すると第零世界から黒い波紋が広がり、生まれたばかりの世界へ流れ込んでいく。


その波紋から生まれた最初の存在。


それが――。


『アビスだ。』


誰も息をすることさえ忘れていた。


シオンがゆっくり口を開く。


「じゃあ。」


「アビスは。」


『終焉そのものではない。』


『終焉を運ぶ最初の器。』


『あの存在が放った影の一部に過ぎない。』


ヴォルグが思わず舌打ちする。


「ふざけんな。」


「あれで一部かよ。」


レオニクスも表情を崩さない。


「つまり。」


「本体は一度も現れていない。」


『現れられない。』


エインは静かに答えた。


『第零世界から出ることができない。』


『だから器を作り。』


『世界を終わらせ続けてきた。』


アルバが静かに目を伏せる。


「それが。」


「管理者達が代々守ってきた秘密……。」


エインは頷いた。


『世界は滅びる運命じゃない。』


『世界は。』


『“観測”されている。』


その言葉と同時に、映像の黒い影がゆっくりとこちらを向く。


映像の中のはずなのに。


まるで今、この場にいる全員を見ているかのようだった。


金色の瞳が細くなる。


そして。


初めて、その口元が笑った。


『見つけた。』


《創世の間》全体が激しく揺れる。


ゴォォォォォォォォン!!


世界樹の根元が大きく裂け、漆黒の亀裂が空間そのものを切り裂いていく。


アルバが叫ぶ。


「始祖様!」


「映像を見返された!」


エインの表情から笑みが消える。


『まずい……。』


『あいつが。』


『こちらを認識した。』


亀裂の向こう。


第零世界の闇の中で。


金色の瞳だけが静かに輝いていた。


その視線は真っ直ぐ、シオンだけを見つめていた。

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