世界誕生の真実
《第零世界》。
その名が告げられた瞬間、《創世の間》を包んでいた光が静かに消えていく。
世界樹だけが黄金色に輝き、その枝葉から無数の光粒が舞い落ちていた。
エインは光の円へ手をかざす。
「まず一つ。」
『君達は今まで。』
『私が世界を創ったと思っていた。』
シオンは頷く。
「違うのか。」
エインは静かに首を横へ振った。
『私は創っていない。』
『私は。』
『見つけたんだ。』
空気が張り詰める。
ノアもルクスも、その言葉に目を見開いた。
「見つけた……?」
ルクスが小さく呟く。
「そんな記録は。」
『残していないからね。』
エインは苦笑した。
『真実を知れば。』
『誰も世界を信じられなくなると思った。』
光の円に映る第零世界がゆっくりと動き始める。
そこには本当に何も存在しない。
光も。
闇も。
空間も。
時間すら存在していなかった。
『ここは無ではない。』
『“可能性”だけが眠る場所だった。』
すると、一粒の小さな光が漆黒の中へ生まれる。
豆粒ほどしかない光。
それが静かに鼓動を始める。
トクン。
トクン。
命のような音だった。
『私が最初に見つけたもの。』
『それが。』
『世界の種。』
ルナリアが息を呑む。
「世界にも……種があるの?」
『ある。』
『命に種があるように。』
『世界にも始まりがある。』
『私はその種を育てた。』
光は少しずつ大きくなる。
やがて無数の星が生まれ、大地が広がり、海が流れ、空が青く染まっていく。
誰もが知る世界の姿だった。
ヴォルグが思わず笑う。
「畑みてぇな話だな。」
エインも笑う。
『似たようなものだよ。』
『水を与え。』
『光を与え。』
『命が芽吹くのを待つ。』
『それが創世だった。』
シオンは映像を見つめながら尋ねる。
「じゃあ。」
「世界の種は誰が作った。」
その質問に、エインの笑顔が消えた。
長い沈黙が流れる。
世界樹の葉が一枚、静かに舞い落ちる。
『分からない。』
静かな答えだった。
『私も知らない。』
『第零世界へ最初から存在していた。』
『誰が置いたのか。』
『なぜ存在したのか。』
『それだけは最後まで分からなかった。』
アルバが静かに目を伏せる。
「だから始祖様は。」
「創世神ではなく。」
「最初の観測者と名乗っていたのですね。」
『そう。』
『私は神なんかじゃない。』
『偶然。』
『世界の始まりを見つけた、一人の旅人だ。』
シオンは思わず笑う。
「最初からそう言えよ。」
『言ったら威厳がなくなるだろ。』
「最初からそんなのない。」
「ひどいな。」
エインは肩をすくめる。
緊張していた空気が少しだけ和らぐ。
しかし次の瞬間。
光の円の映像が急激に暗く染まり始めた。
世界が完成した直後。
漆黒の裂け目が空を引き裂く。
ゴゴゴゴゴ……
裂け目の向こうには、光を一切反射しない闇だけが広がっていた。
その闇を見た瞬間、シオンの表情が変わる。
「この気配……。」
「アビス。」
『違う。』
エインは静かに否定した。
『アビスじゃない。』
『アビスは。』
『この闇から生まれた。』
闇の奥から黒い霧が溢れ出す。
その霧は世界へ触れた瞬間、生まれたばかりの命を次々と飲み込んでいく。
大地は枯れ。
海は黒く濁り。
空から星が消えていく。
『世界は。』
『完成した瞬間。』
『終わりも同時に生まれる。』
『それが世界の法則だった。』
ノアが震える声で呟く。
「だから……終焉が。」
『そう。』
『私は初めて知った。』
『世界を創れば。』
『必ず世界を終わらせる存在も生まれる。』
ルナリアは世界樹を見つめた。
「それが。」
「アビス?」
『いや。』
エインはゆっくりと首を横へ振る。
『アビスは器だ。』
『本当の終焉は。』
『もっと深い場所にいる。』
その一言で、《創世の間》の空気が凍り付いた。
シオンの瞳が鋭くなる。
「……まだいるのか。」
エインは静かに頷く。
『いる。』
『そして。』
『その存在は今も、第零世界で眠っている。』
世界樹の根元が突然、黄金色から漆黒へ染まり始める。
誰も触れていないはずなのに。
闇はゆっくりと枝を侵食していく。
アルバが驚愕の表情を浮かべた。
「始祖様!」
「まさか……!」
エインは静かに目を閉じる。
『間に合わなかったか。』
『やはり。』
『あいつは目覚め始めている。』
シオンは剣へ手を掛ける。
「誰だ。」
エインは漆黒へ染まり始めた世界樹を見つめながら、重く息を吐いた。
『君達が今まで戦ってきた終焉。』
『あれは序章に過ぎない。』
『これから現れる存在こそ。』
『全ての世界が最も恐れた、本当の”終焉”だ。』
世界樹が激しく震える。
その根元から、誰かの笑い声が静かに響き始めていた。




