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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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28/52

「継承される記憶」

光だった。


どこまでも続く月光。


優しく。


暖かく。


だが同時に、胸が締め付けられるほど悲しい光。


ルナリアはその中を漂っていた。


身体の感覚はない。


重力もない。


ただ記憶だけが流れ込んでくる。


知らないはずの記憶。


だが確かに自分の中に存在していた記憶。


封印されていた過去。


月の民が受け継いできた歴史。


その全てが今、彼女の中へ流れ込んでいた。



最初に見えたのは空だった。


青く澄み渡る空。


今の世界より遥かに美しい空。


大地は緑に覆われている。


川が流れ。


都市が栄え。


人々が笑っている。


争いのない世界。


ルナリアは思わず呟いた。


「綺麗……」


その世界には星晶の光が満ちていた。


人々は恐れていない。


奪い合っていない。


共に生きていた。


今の世界とはまるで違う。


だが。


セレネの表情は暗かった。


「これは最初の文明」


静かな声。


「世界がまだ壊れていなかった時代」


ルナリアは息を呑む。


こんな時代が本当にあったのか。


そう思った瞬間だった。


空が裂けた。



バキィィィィン!!


世界そのものが割れる。


人々の悲鳴。


崩れる都市。


黒い亀裂。


そして。


巨大な赤い瞳。


星喰い。


ルナリアの身体が震えた。


見ているだけなのに恐怖が流れ込んでくる。


星喰いが現れた瞬間。


文明は終わった。


都市が消える。


大地が砕ける。


空が崩れる。


何億という命が失われていく。


絶望だった。



映像が変わる。


また新しい文明。


また発展した世界。


また人々の笑顔。


そして。


再び星喰い。


滅亡。


終焉。


崩壊。


映像は何度も繰り返される。


二度。


三度。


五度。


十度。


数え切れないほど。


文明は生まれ。


滅び。


また生まれる。


ルナリアは涙を浮かべていた。


あまりにも悲しい。


あまりにも残酷だった。


「どうして……」


声が震える。


「どうしてこんなことを繰り返すの……」


セレネは答えなかった。


代わりに次の光景を見せる。



そこには一人の少女がいた。


銀髪。


蒼い瞳。


月光の衣。


ルナリアによく似ている。


いや。


似ているのではない。


同じだった。


歴代の月の継承者。


彼女達は皆。


ルナリアと同じ顔をしていた。


同じ力を持っていた。


同じ使命を背負っていた。


そして。


同じ結末を迎えていた。


「まさか……」


ルナリアの声が震える。


セレネが静かに頷く。


「月の継承者は一人じゃない」


映像が流れる。


二代目。


三代目。


四代目。


五代目。


無数の月の継承者達。


誰もが世界を守ろうとしていた。


誰もが笑っていた。


誰もが泣いていた。


そして最後には。


必ず死んでいた。


世界を再生するために。



ルナリアは膝をついた。


「そんな……」


苦しい。


胸が痛い。


彼女達の感情が流れ込んでくる。


恐怖。


悲しみ。


絶望。


そして。


誰かを守りたいという願い。


その全てが。


今のルナリアと同じだった。


セレネが静かに近付く。


そして優しく言った。


「だからあなたは特別」


ルナリアが顔を上げる。


「私が……?」


「そう」


セレネは微笑む。


だがその瞳は真剣だった。


「今までの継承者は世界を守った」


風が吹く。


月花が揺れる。


「でも世界を変えることはできなかった」


ルナリアは息を呑む。


そして。


セレネは最後の真実を告げる。


「黒星王が現れたのは初めてだから」


沈黙。


心臓が大きく脈打つ。


ドクン――


シオン。


最後の観測者。


黒星王。


彼だけが歴史の中で異質な存在。


だから。


今までと違う。



セレネはルナリアの胸へ手を当てた。


月光が溢れる。


暖かい光。


優しい光。


「ルナリア」


その声は母のようだった。


「あなたは世界を終わらせるために生まれたんじゃない」


ルナリアの瞳に涙が浮かぶ。


「世界を救うために生まれたの」


光が強くなる。


ペンダントが共鳴する。


月光の翼が形を作り始める。


継承の時が来た。


失われた月の力。


歴代継承者の願い。


数え切れない命の想い。


その全てが。


今、ルナリア・セレスへ受け継がれようとしていた。

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