「世界再生の真実」
ルナリアの呼吸が止まった。
風が吹く。
白い月花が揺れる。
だが彼女には何も聞こえなかった。
ただ一つ。
セレネの言葉だけが頭の中で響いている。
――あなたが死ねば世界は初期化される。
理解できない。
理解したくない。
そんなはずがない。
自分はただの少女だ。
月の民として追われてきた。
教団に狙われてきた。
それだけだった。
なのに。
なぜ世界の運命が自分に関わるのか。
「待って……」
声が震える。
「どういう意味なの……?」
セレネは悲しそうに微笑んだ。
その表情だけで分かってしまう。
今から語られるのは残酷な真実なのだと。
「世界は生き物なの」
セレネは空を見上げた。
巨大な月が静かに輝いている。
「人と同じように傷付き、老いていく」
月風が吹く。
花畑が揺れる。
「そして限界を迎える」
ルナリアは黙って聞いていた。
「文明が発展するたび」
「星晶は消費される」
「争いが起きる」
「感情が積み重なる」
「憎しみが増える」
「絶望が増える」
セレネの声は静かだった。
だが重い。
「やがて世界は耐えられなくなる」
ルナリアは思い出す。
崩壊した街。
枯れた土地。
消えた村。
そして星喰い。
今まで見てきた全て。
あれは偶然ではなかった。
世界そのものが壊れ始めていたのだ。
「その時に現れるのが星喰い」
セレネが言う。
「星喰いは原因ではない」
ルナリアが顔を上げた。
「え……?」
セレネは静かに頷く。
「星喰いは結果」
その言葉は衝撃だった。
世界を滅ぼす存在。
絶対悪。
そう思っていた。
だが違う。
「星喰いは世界の歪みそのもの」
「人類が積み重ねた絶望」
「終わりを望む意志」
「負の感情の集合体」
ルナリアの身体が震える。
第六話でシオンが見たもの。
星喰いの眷属の中にあった絶望。
怒り。
悲しみ。
憎しみ。
全てが繋がった。
「そんな……」
セレネは続ける。
「だから世界は何度も滅ぶ」
「そして何度も再生する」
その言葉と共に景色が変わった。
花畑が消える。
巨大な映像が空に映し出された。
一つ目の世界。
巨大な都市。
空を覆う文明。
人々の笑顔。
だがやがて崩壊する。
空が裂ける。
星喰いが現れる。
世界が終わる。
次の世界。
また文明が生まれる。
また滅ぶ。
さらに次。
さらに次。
さらに次。
何度も。
何度も。
何度も。
繰り返される終焉。
ルナリアは息を呑んだ。
「こんな……」
信じられない。
だが映像は止まらない。
まるで歴史そのものを見せられているようだった。
「世界は何度も死んだ」
セレネが言う。
「そして何度も生まれ変わった」
映像の最後。
そこには見覚えのある少年がいた。
黒髪。
蒼い瞳。
シオンだった。
違う。
シオンでありシオンではない。
別の世界の彼。
さらに別の世界の彼。
その全てが戦っていた。
何度も。
何度も。
何度も。
星喰いと。
「シオン……」
ルナリアが呟く。
セレネは頷いた。
「最後の観測者」
その言葉が響く。
「彼だけは違った」
「世界が再生しても」
「世界が変わっても」
「彼だけは記憶を残し続けた」
ルナリアの胸が締め付けられる。
だからシオンは時々知らない景色を見る。
知らない記憶を見る。
夢ではなかった。
前の世界の残滓だったのだ。
「そして」
セレネは静かにルナリアを見る。
「あなたもまた特別」
月光が強くなる。
ペンダントが輝く。
「月の継承者は再生の鍵」
「黒星王は観測者」
「どちらか一方では世界は救えない」
ルナリアは息を呑む。
「私とシオンが……?」
セレネは優しく頷いた。
「そう」
そして。
少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「だから星喰いはあなたを狙う」
空気が変わる。
ルナリアの表情が強張る。
「なぜ……?」
セレネの瞳が揺れた。
「あなたがいる限り」
「世界は終われないから」
沈黙。
風が吹く。
月花が揺れる。
そしてセレネはゆっくりと手を差し伸べた。
「だから思い出して」
「あなたが本当に受け継ぐべきものを」
月光が溢れ出す。
世界が再び白く染まる。
ルナリアは思わず目を閉じた。
その瞬間。
失われていた記憶の扉が開き始める。




