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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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26/50

「月の巫女」

光だった。


どこまでも続く光。


上も下も分からない。


時間の感覚すら曖昧だった。


自分が立っているのか。


浮いているのか。


それすら分からない。


ただ一つだけ確かなのは。


誰かが自分を呼んでいることだった。


優しく。


懐かしく。


ずっと昔から知っているような声で。


「待っていました」


その声と共に。


世界が変わった。


眩い光がゆっくりと晴れていく。


ルナリアは目を開いた。


そこには。


果てしなく広がる花畑があった。


白い花。


蒼白く輝く月花。


夜風に揺れながら。


まるで星空そのものが地上へ降りてきたような景色だった。


そして空には巨大な月。


あまりにも近い。


手を伸ばせば届きそうなほど大きな月が静かに浮かんでいた。


「ここは……」


思わず呟く。


返事はすぐに返ってきた。


「月の記憶よ」


声。


ルナリアは振り返る。


そこに一人の女性が立っていた。


銀色の長い髪。


蒼く透き通る瞳。


純白の衣。


穏やかな微笑み。


どこか神々しく。


そして。


どこか悲しそうだった。


ルナリアは息を呑む。


その女性は自分によく似ていた。


顔立ちも。


瞳も。


雰囲気も。


まるで未来の自分を見ているようだった。


女性は静かに歩み寄る。


そして優しく微笑んだ。


「ようやく会えたわ」


その言葉だけで。


なぜか涙が出そうになった。


初めて会うはずなのに。


懐かしい。


会いたかった。


そんな感情が胸の奥から溢れてくる。


「あなたは……?」


ルナリアが尋ねる。


女性はゆっくりと頷いた。


「私はセレネ」


月風が吹く。


花畑が揺れる。


そして彼女は続けた。


「最初の月の巫女」


その瞬間だった。


ドクン――


ルナリアの胸が大きく脈打つ。


頭の奥が熱くなる。


忘れていた何かが目覚めようとしていた。


「最初の……」


声が震える。


セレネは静かに頷いた。


「あなた達月の民の始祖」


「最初に世界の役目を背負った存在」


ルナリアは言葉を失う。


神話の人物。


伝説の存在。


それが目の前にいる。


信じられなかった。


だが。


不思議と疑う気持ちはなかった。


それほどまでに。


セレネの存在は自然だった。


「聞いてほしいことがあるの」


セレネの表情が少し曇る。


その顔を見ただけで。


これから語られる話が決して明るいものではないことを理解した。


ルナリアは小さく頷く。


セレネは空を見上げた。


巨大な月が静かに輝いている。


「世界は何度も滅んでいる」


その一言で。


空気が変わった。


ルナリアの表情が強張る。


レオニクスから聞いた話。


世界の再構築。


繰り返される文明。


黒星王。


最後の観測者。


全てが頭をよぎる。


セレネは続ける。


「人類は何度も滅びた」


「文明は何度も終わった」


「星喰いは何度も世界を喰らった」


静かな声。


だが。


その一言一言が重かった。


「その度に世界は再生された」


ルナリアは息を呑む。


「どうやって……?」


セレネは少しだけ目を伏せた。


悲しそうに。


苦しそうに。


「私達がいたから」


沈黙。


風が止まる。


月花が揺れる。


そして。


セレネは真実を告げた。


「月の民は世界を守るために生まれた」


ルナリアは頷く。


だが。


次の言葉が全てを変えた。


「同時に」


セレネはゆっくりと言った。


「世界を終わらせるためにも存在している」


ルナリアの思考が止まる。


理解できない。


意味が分からない。


守るために生まれた。


なのに終わらせる?


矛盾している。


だが。


セレネの表情は真剣だった。


「私達は世界再生の鍵」


「滅びを管理する者」


「終わりと始まりを繋ぐ存在」


ルナリアの胸がざわつく。


嫌な予感がした。


聞きたくない。


でも聞かなければならない。


そんな予感だった。


セレネは静かに言う。


「あなたが死ねば」


そして。


残酷な真実を告げる。


「世界は初期化される」


ルナリアの呼吸が止まった。

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