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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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最初の依頼

草原を吹き抜けていた風が止まる。


星花は静かに揺れ、その輝きが一輪、また一輪と失われていく。


黒い霧は地を這うように広がり、花畑をゆっくり侵食していた。


《ロスト》。


世界を失い、帰る場所を失った魂。


彼らは何も叫ばない。


何も憎まない。


ただ、ゆっくりとステラだけを見つめながら歩いてくる。


「シオン……。」


ステラは震える小さな手でシオンの服を握り締めた。


「大丈夫。」


シオンは振り返らず答える。


「俺達がいる。」


その一言だけで、少女は少しだけ震えを止めた。


レオニクスが前へ出る。


「隊列を組む。」


「ヴォルグは正面。」


「俺とアリアは左右を押さえる。」


「ルナリアはステラを守れ。」


「了解。」


全員が迷わず動き始める。


戦場では何度も繰り返してきた連携だった。


だが今回は違う。


守るのは世界ではない。


たった一人の少女。


それだけだった。


ヴォルグが拳を鳴らす。


「数はざっと五十ってところか。」


「いや。」


アリアが目を細める。


「もっといる。」


草原の奥から次々と黒い影が現れる。


百。


二百。


数え切れないほどの《ロスト》が静かに歩き続けていた。


ヴォルグが苦笑する。


「訂正だ。」


「朝飯の運動にしちゃ多すぎる。」


「笑ってる場合じゃない。」


アリアは短剣を構える。


「来るわ。」


最前列の《ロスト》が一斉に駆け出した。


「行くぞ!」


レオニクスの声と同時に剣が閃く。


銀色の斬撃が一直線に走り、先頭の《ロスト》を切り裂く。


しかし。


「……何?」


《ロスト》は倒れなかった。


切り裂かれた身体は黒い霧となって散り、次の瞬間には元通り再生している。


「再生した!」


ヴォルグの拳が一体を吹き飛ばす。


地面へ叩き付けられた《ロスト》は粉々になる。


それでも数秒後には再び立ち上がった。


「おいおい。」


「これ終わりあんのか。」


ルクスが静かに叫ぶ。


「駄目だ!」


「核を壊さなければ止まらない!」


「核?」


シオンが振り向く。


「胸だ!」


「胸の中心にある星晶核を破壊しろ!」


その瞬間、一体の《ロスト》がルナリアへ飛び掛かった。


「危ない!」


シオンが駆ける。


間一髪。


身体を滑り込ませ、右拳を《ロスト》の胸へ叩き込んだ。


鈍い音が響く。


黒い胸部へ拳がめり込み、内部で何かが砕ける感触が伝わる。


パリン――。


青白い結晶が砕け散った。


《ロスト》の身体はゆっくりと光へ変わり、風の中へ溶けていく。


その最後。


青年の姿へ戻った《ロスト》は穏やかに微笑んだ。


「……ありがとう。」


小さな声だけを残し、完全に消滅する。


シオンは拳を見つめた。


「今の……。」


ノアが静かに答える。


「魂が解放されたんです。」


「彼らは敵じゃありません。」


「苦しみ続けていただけなんです。」


シオンはゆっくり立ち上がる。


その表情は少しだけ苦しそうだった。


「だったら。」


「倒すんじゃない。」


「救う。」


その言葉を聞いたレオニクスは静かに頷く。


「聞いたか。」


「目的が変わった。」


ヴォルグが笑う。


「ようやくシオンらしい依頼だな。」


アリアも小さく微笑んだ。


「一人残らず助ける。」


「そういうことでしょ?」


シオンは力強く頷いた。


「ああ。」


「全員。」


「家へ帰してやる。」


その瞬間。


ステラが突然シオンの袖を掴んだ。


「……あの人。」


少女が指差す先。


《ロスト》の群れの最後尾で、一人の女性が立っていた。


他の《ロスト》とは違う。


黒い霧に包まれながらも、その瞳だけは蒼く輝いている。


女性はステラを見つめ、涙を流していた。


そして震える唇で、小さく呟く。


「……ステラ。」


少女の身体が大きく震える。


「この声……。」


「知ってる。」


「私。」


「この人を知ってる……!」


誰も動けなかった。


失われたはずの少女の記憶。


その鍵を握る存在が、静かに草原の向こうで涙を流していた。

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