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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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旅立ちの朝

朝露をまとった草原を、一行はゆっくりと歩いていた。


空は澄み渡り、どこまでも青い。


吹き抜ける風は柔らかく、小鳥たちが楽しそうに歌っている。


昨日まで命を懸けて戦っていたとは思えないほど、世界は穏やかだった。


ヴォルグが大きく腕を伸ばす。


「最高だな!」


「こんな景色見ながら歩くの、何年ぶりだ!」


「静かに。」


アリアが即座に突っ込む。


「魔物が逃げる。」


「逃げるなら平和じゃねぇか。」


「逃げる前に私の耳が壊れる。」


ルナリアが思わず吹き出した。


「二人とも朝から元気だね。」


「こいつがうるさいだけだ。」


「俺はいつも通りだ。」


「だから困るのよ。」


シオンはそのやり取りを見ながら笑っていた。


戦いだけの日々では見られなかった光景。


仲間同士が他愛もないことで笑い合う時間。


それだけで胸が満たされていく。


レオニクスは地図を確認しながら前方を見据えた。


「あと半日ほどで最初の目的地だ。」


ノアが頷く。


「星見の草原。」


「新世界で最も空に近い場所。」


「夜になると、一面の星花が咲きます。」


「星花?」


ルナリアが興味深そうに尋ねる。


「夜だけ咲く花です。」


「空の星と共鳴しながら光を放つ。」


「新世界にしか存在しない植物ですね。」


「綺麗そう。」


「はい。」


ノアは穏やかに笑った。


「私も一度しか見たことがありません。」


その時だった。


シオンが足を止める。


「……待って。」


全員が振り返る。


「どうした?」


レオニクスが尋ねる。


シオンはしゃがみ込み、草の間を静かに見つめた。


土の上には小さな足跡が残っている。


人間ではない。


魔物でもない。


裸足の、小さな子どものような足跡だった。


「こんな場所に子ども?」


ヴォルグが周囲を見回す。


「街からかなり離れてるぞ。」


アリアもしゃがみ込む。


「新しい跡ね。」


「数時間以内。」


「でも……。」


彼女は眉をひそめた。


「片方しかない。」


「え?」


ルナリアも足跡を見る。


確かに左足しか存在しない。


右足の跡は一つもない。


まるで片足だけで歩いているかのような、不自然な足跡だった。


ノアの表情が僅かに曇る。


「……おかしい。」


「この草原には人は住んでいません。」


「だったら誰だ。」


シオンは静かに立ち上がる。


胸騒ぎがした。


戦いの時とは違う。


もっと静かで、不思議な違和感。


風が止まる。


鳥たちの鳴き声も聞こえなくなった。


その静寂の中で。


――クスクス。


小さな笑い声が聞こえた。


全員が同時に振り向く。


誰もいない。


風に揺れる草原がどこまでも続くだけ。


「今……。」


ルナリアがシオンの腕を掴む。


「聞こえた。」


シオンはゆっくりと頷いた。


「ああ。」


「子どもの声だった。」


レオニクスは剣の柄へ手を添える。


「警戒しろ。」


「何かいる。」


その瞬間。


草原の遥か先で、白いワンピースを着た小さな少女がこちらを振り返った。


年は十歳ほど。


雪のような白髪。


大きな蒼い瞳。


少女は嬉しそうに微笑むと、小さく手を振る。


「……来て。」


風に乗って、その声だけが優しく届いた。


次の瞬間。


少女の姿は朝靄へ溶けるように消えていた。


誰一人、言葉を発することができなかった。


静かな草原に残されたのは、片足だけの足跡だけだった。

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