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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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残された傷痕

食堂を出ると、夕暮れの風が街を優しく包み込んでいた。


茜色に染まった石畳。


店じまいを始める商人たち。


母親に手を引かれ家へ帰る子どもたち。


どこにでもある、平和な一日の終わり。


シオンはその景色を静かに眺めていた。


「……守れたんだな。」


誰に言うでもなく呟く。


隣へルナリアが並んだ。


「どうしたの?」


「いや。」


シオンは苦笑する。


「こういう普通の景色を見るとさ。」


「まだ夢なんじゃないかって思う。」


ルナリアは少し考え、小さく微笑んだ。


「じゃあ。」


彼女はそっとシオンの腕をつねる。


「痛っ!」


「夢なら痛くないでしょ?」


「結構強かったぞ。」


「ふふっ。」


久しぶりに聞くルナリアの笑い声だった。


その笑顔を見て、シオンも自然と笑ってしまう。


少し離れた場所ではヴォルグとレオニクスが言い争っていた。


「だから酒はもう一杯飲めた!」


「十分飲んだ。」


「まだ酔ってねぇ!」


「歩き方が真っ直ぐじゃない。」


「気のせいだ!」


「気のせいではない。」


アリアは呆れたようにため息をつく。


「この人達、本当に反省しないわね。」


「平和だからだろ。」


シオンが笑う。


「戦ってる時は、あんな馬鹿なこと言えなかった。」


アリアは少し黙り、それから優しく笑った。


「……そうね。」


「こういう時間も悪くない。」


夕焼けの街へ笑い声が響く。


その光景を少し離れた屋根の上から、ルクスとノアが静かに見つめていた。


「彼らは変わりましたね。」


ノアが呟く。


ルクスは腕を組みながら頷いた。


「戦うために集まった仲間じゃない。」


「生きるための仲間になった。」


「それが始祖の望んだ未来。」


ノアは穏やかに目を細めた。


「ですが。」


「まだ終わってはいません。」


ルクスの表情が僅かに引き締まる。


「……分かっている。」


その視線は西の空へ向いていた。


夕焼けの向こう。


遥か彼方の地平線に、一瞬だけ黒い雷が走る。


誰も気付かないほど小さな異変。


だがルクスには分かっていた。


「あれは……。」


ノアも静かに頷く。


「世界の傷痕。」


「アビスとの戦いで生まれた亀裂は完全には消えていません。」


「所々に残っています。」


「その裂け目から。」


「別の世界の魔力が流れ込み始めています。」


ルクスは小さく息を吐く。


「だから創世の塔か。」


「はい。」


ノアは地図を握り締める。


「塔の最上階には。」


「世界を安定させる《始原の羅針盤》があります。」


「それを起動しなければ。」


「新世界は再び崩壊を始めます。」


一方その頃。


街外れの丘へ、一人の少年が立っていた。


シオンだった。


一人になりたかった。


戦いが終わった今だからこそ、誰にも見せられない感情が胸の中に溢れていた。


始祖。


クロノス。


ネメシス。


アビス。


ルシエル。


レイ。


もう会えない仲間たちの顔が次々と思い浮かぶ。


「……みんな。」


空を見上げる。


夕焼けは少しずつ群青へ変わり、最初の星が輝き始めていた。


「あの時。」


「もっと違う未来があったのかな。」


返事はない。


吹き抜ける風だけが頬を撫でる。


その時、不意に隣から声がした。


「後悔していますか?」


振り向くと、ノアが静かに立っていた。


「……少しだけ。」


シオンは正直に答える。


「誰も死なせたくなかった。」


「当然です。」


ノアは夜空を見上げる。


「ですが。」


「命は、別れがあるから美しい。」


「始祖も。」


「きっと同じことを言ったでしょう。」


シオンは苦笑した。


「あの人なら。」


『悩んだ分だけ前へ進め。』


とか言いそうだ。」


「ええ。」


ノアも笑う。


「間違いなく。」


二人はしばらく星空を眺めていた。


静かな時間だった。


その時。


夜空を一筋の流星が横切る。


シオンは思わず目を奪われる。


「綺麗だ。」


「願い事を。」


ノアが小さく言う。


「間に合うかな。」


「願いは。」


「口にした瞬間から叶えるために動くものです。」


シオンは流星へ向かって静かに呟いた。


「もう。」


「誰も泣かない世界になりますように。」


その願いは風へ乗り、夜空の彼方へ消えていく。


だが、その流星が落ちた遥か東の空では、巨大な白い塔がゆっくりと光を放ち始めていた。


創世の塔。


新たな旅の終着点が、静かに最後の観測者を待ち始めていた。

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