新しい世界
食堂に静寂が落ちる。
テーブルへ広げられた一枚の地図。
そこには今まで誰も見たことのない巨大な大陸が描かれていた。
大陸の中央には、黄金の文字で一つの名だけが刻まれている。
《エデン・ノヴァ》
シオンは地図を見つめながら呟く。
「こんな場所……見たことがない。」
ノアは静かに頷いた。
「当然です。」
「この世界の誰も知りません。」
「世界が再生した瞬間に生まれた、新たな大陸です。」
ヴォルグが腕を組む。
「だったら何でお前は知ってる。」
「私は案内人です。」
ノアは迷いなく答えた。
「世界が生まれる時。」
「最初に道を歩く者。」
「それが私の役目です。」
レオニクスは地図へ視線を落とした。
「街がない。」
「国境もない。」
「何も書かれていないな。」
「ええ。」
ノアは微笑む。
「まだ誰も足を踏み入れていません。」
「文明も。」
「国家も。」
「歴史も存在しない。」
「完全な白紙の世界です。」
ルナリアは少し目を輝かせた。
「新しい世界……。」
その響きだけで胸が高鳴る。
誰も歩いたことのない大地。
誰も見たことのない景色。
そこには、争いの歴史すら存在しない。
アリアは腕を組んだまま尋ねる。
「そんな場所が本当にあるなら。」
「どうして今まで誰も見つけられなかったの。」
ノアは窓の外へ視線を向ける。
青空の向こう。
遥か彼方を見つめながら答えた。
「見ることができなかったからです。」
「世界は再生しました。」
「ですが。」
「再生した世界は、自ら未来を選ぶ者だけへ姿を見せます。」
シオンは眉をひそめる。
「未来を選ぶ?」
「はい。」
ノアはシオンを見る。
「過去へ囚われた者には見えません。」
「憎しみだけを抱く者にも。」
「力だけを求める者にも。」
「エデン・ノヴァは決して姿を現さない。」
静かな説明だった。
それでも、その言葉には確かな重みがあった。
ルクスが静かに口を開く。
「試される世界か。」
「そうです。」
ノアは頷く。
「だから私は。」
「あなた達を迎えに来ました。」
「俺達を?」
「はい。」
ノアは地図の中央へ指を置く。
「新世界で最初の足跡を刻む者。」
「それは。」
「最後の観測者と、その仲間達であるべきだと。」
シオンは少し困ったように笑う。
「俺はもう観測者じゃない。」
「違います。」
ノアは首を横へ振った。
「肩書きではありません。」
「あなたは未来を選び続けた。」
「だから資格があります。」
食堂の外から子ども達の笑い声が聞こえる。
その声を聞きながら、ルナリアは小さく微笑んだ。
「行ってみたい。」
全員の視線が彼女へ集まる。
「新しい世界。」
「誰も泣いていない場所なら。」
「みんなで最初の思い出を作りたい。」
その一言に、ヴォルグが豪快に笑う。
「決まりだな!」
「細かいことは着いてから考えりゃいい!」
「相変わらずね。」
アリアは呆れながらも笑みを浮かべる。
「でも。」
「今回は賛成。」
レオニクスも静かに頷いた。
「新しい時代なら。」
「新しい国も必要になる。」
「俺達が最初の一歩を踏み出そう。」
シオンは仲間達を見回した。
誰も迷っていない。
恐れてもいない。
戦うためではなく。
未来を築くために歩こうとしている。
それが何より嬉しかった。
「よし。」
シオンは立ち上がる。
「みんなで行こう。」
「新しい世界へ。」
その瞬間だった。
テーブルの上に置かれていた地図が突然、眩い光を放ち始める。
「これは……!」
ノアが驚いたように目を見開く。
黄金の線が地図全体へ走り、一つの道が浮かび上がる。
大陸の中心部。
《エデン・ノヴァ》のさらに奥。
今まで何も描かれていなかった場所へ、新たな文字が刻まれていく。
《創世の塔》
その名を見た瞬間。
シオンの胸の奥で、消えたはずの観測者の紋章が再び淡く輝いた。
ドクン――。
一度だけ。
静かに脈打った。
ルクスはその光を見つめ、小さく呟く。
「始祖……。」
「まだ、お前の意志は残っていたのか。」
誰も知らない新世界。
その中心で待つ《創世の塔》。
そこには、エインですら語らなかった最後の真実が眠っていた。




